法律相談室/人気歌手テイラー・スウィフト氏のセクハラ裁判

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日豪プレス 法律相談室

第36回 人気歌手テイラー・スウィフト氏のセクハラ裁判

元ラジオDJのデビッド・ミューラー氏による痴漢被害に遭い、セクハラ裁判を起こした人気歌手テイラー・スウィフト氏。その勝訴判決は、社会が「女性の人権尊重」を勝ち取ったことを意味するでしょう。

米国のデンバー連邦裁判所はミューラー氏に対し、性的暴行事件(2013年、テイラー氏のコンサート前のファン・サービスの場で、ミューラー氏がテイラー氏の臀部をつかんだ)に関して有罪判決を言い渡しました。テイラー氏がこの痴漢行為に関する苦情をラジオ局に伝えるとミューラー氏は解雇となりましたが、その後ミューラー氏は、職を失ったとしてテイラー氏だけでなくラジオ・コンサルタントやテイラー氏の母親をも訴え、賠償請求しました。

しかし面白いことに、これに対してテイラー氏が対抗訴訟を起こしたのです。その対抗訴訟で最も興味深かったのは“テイラー氏が故意に、ミューラー氏にたった1ドルの賠償を求めた”ということです。その後、彼女は勝訴し、この1ドルを勝ち取るために弁護士費用を自己負担、性的暴力による被害者を助けている複数の団体に寄付も行ったそうです。

では、豪州にいる私たちにとって、米国でのこうした判決はどのような意味があるのでしょうか。米国での結果は豪州の社会倫理と一致し、基本的人権の尊重、特に性的対象となり得る女性の人権尊重の認識という点で変わりはありません。しかし、豪州において上記の痴漢行為は、刑法に抵触する可能性があります。

また豪州では、民法に従ってそうした違法行為に罰金が科されます。州法はほとんどのタイプの暴行に関して、被害者に支払われる賠償額に制限を設けていますが、性的要素を伴う暴力の被害者については、この賠償額の上限がありません。

QLD州においては、この種の賠償請求(民事)について手続きの期限がない一方で、その他のタイプの賠償請求には州法によって期限が設けられています。例えば自動車事故の被害者であれば、事故から9カ月以内に賠償請求手続き開始、3年以内に裁判に進む(保険会社との間で特別な交渉・合意がない限り)など、厳しく設定されています。以前はこうした期限が、性的暴力に関する賠償請求も含め、全ての賠償請求手続きに適用されていましたが、委員会の助言により性的暴力に関する賠償請求の期限が撤廃され、被害者支援が進みました。

QLD州の「Gold Coast Centre Against Sexual Violence」は、長年にわたって性的暴力による被害者の支援活動を行っている組織の1つです。こうした組織に関わるカウンセラーやスタッフによる地道かつ熱心な活動に大いに勇気付けられますし、テイラー氏の強い信念とデンバー裁判所の判決には称賛を送りたいと思います。


ミッチェル・クラーク
MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として24年以上の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。

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