【今さら聞けない経済学】「円高」はどうして起きるの?

今さら聞けない経済学

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日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。

第3回 「円高」はどうして起きるの?

人々の口から日々聞かれる「円高」や「円安」という言葉があります。なぜ耳にするかといえば、毎日テレビのニュースやトーク・ショーなどで、有名人たちがさも訳知り顔で口にしているからです。日本だけでなく世界の経済を考える上でも欠かせないものなのですが、実際に円高や円安の意味をしっかりと知っている人は案外多くないようです。そこで今回は「円高」とは何か、それはなぜ発生するのか、さらにそれは人々の暮らしにどのような関わりがあるのか、などについて学んでみたいと思います。

どうして「円高」と呼ぶのか

円高・円安の問題を知るためには、まず、世界経済がどのようなシステムで成立しているのかを考えなければなりません。現在の世界経済は、アメリカの通貨であるドルを中心として成り立っています。なぜならドルが「国際通貨」であるからです(誰がドルをそう決めたのかについては、今後述べるとしましょう)。ある通貨と別の通貨とを交換する時にドルが使われ、そのことからドルを「基軸通貨」とも言います。

それでは、日本の石油輸入会社がアラブから石油を買うときのことを例として考えてみましょう。石油の代金はドルで支払わなければなりません。そこで、石油輸入会社は「円」を持って銀行へ行き、ドルを買ってアラブの石油会社に輸入代金を送ることになります。その際、1ドルを買うために何円支払わなければならないのかが問題になります。そうです、その時のドルの値段がドル相場ということになるのです。

仮に、それまで1ドルが100円であったのが、1ドルが90円となったとします。1ドルが10円も「安く」なったのです。逆に、円はドルに対して10円も高くなったのです。この状態を「ドル安・円高」、通称「円高」といいます。このドル相場がなぜ上がったり下がったりするかというのは、ドルが欲しい(ドルの需要)と、ドルを売りたい(ドルの供給)、という2つの関係によって決まってくるのです。この点をもう少し詳しく見てみましょう。

外国からどんどん物を買う(輸入が増大する)と、その支払いにドルがたくさん必要になります。するとドルの需要が増えることになり、ドルの値段(ドル相場)が上がることになります。つまり、「ドル高・円安」となります。逆に、日本からどんどん輸出が増えて、外国からその代金であるドルがどんどん日本に入ってくると、ドルの供給が増えてドルが安くなり、「ドル安・円高」となります。

円高と円安、どちらが良いのか

経済学では、経済が強い国の通貨は強くなり、経済が弱い国の通貨は弱くなる、ということを勉強します。つまり理論上、日本の経済力が高まったから円は強くなった=「円高」という問題が起こった、ともいえます。ですから「円高」とは日本経済が強くなった証拠であり、むしろ喜ばしいことなんですね。これについて考えてみましょう。

かつて日本は、高度な技術力、勤勉で優秀な労働者、労使協調、大いなる進取の気迫、といったさまざまな要因で優秀な製品を世界に輸出し、大いに成長しました。「21世紀は日本の時代だ」と言われるほどに強い経済力を誇るまでに。そんな日本経済を世界の人々は羨望的な眼差しで見つめ、事実、世界のどこへ行っても日本の優秀な製品があふれるようになりました。当然、日本へ輸出代金としてドルが毎月毎月どーっと入ってきたのです。するとどうでしょう。円はどんどん高く(ドルは安く)なっていきました。つまり、「円高」という問題に発生したのです。これが経済の強い国の通貨は強い、という流れです。

けれども今の日本では「円高」はあまり歓迎されず、むしろ「円安」を期待しているようですね。アベノミクスの大きな政策目標に「円高を是正すること」というのがありました。そこで、アベノミクスの経済効果で「円安」基調が続くようになった、といって人々は喜んでいるようです。今学んだように、強い経済力をもった国の通貨は強くなり、弱い経済力の国の通貨は弱くなる、というのが経済の理論でした。すると今の「円安」とは日本の経済力が弱くなったという証拠なのでしょうか。

円が安くなるということは、日本の製品が世界で安く販売されるということです。すると日本の優秀な製品に対して世界からどんどん注文が入るようになり、輸出がいっせいに増大することになります。輸出が増大すると、日本の企業の収入が増大し、日本のGDPは上がります。

1990年代の後半から日本経済は大デフレに陥り(その原因についても今後このコラムで述べる予定です)、なんとしてもGDPが増大することを願っていましたので、円安によって一気に輸出が増大し、日本のGDPが増大することはとても歓迎されたのです。とりわけ世界でも超優秀な自動車関連の輸出が増え、日本経済の中でとても大きな役割を占める自動車関連の生産額が増加しました。それが人々に好感を持たれ、一気に自動車関連の株を中心に日経平均株価が上昇し、日本経済は回復基調に向かう、と経済評論家の皆さんははやし立てました。これを経済学では「資産効果」とも呼びます。

「資産効果」とは?なぜ重要視されるのか?

資産効果とは、本当は人々の財布にお金が入ってないのにあたかも入っているような「錯覚」を人々にもたらすことを意味します。日本では一気に株価が上昇したと述べましたが、これがまさに資産効果です。

これまで日本経済が沈滞していたので、株も長期間にわたって低迷していました。しかし円安効果で一気に輸出関連株が上昇し、「これはバブルか」という気配すら感じるような状態になりました。株式市場で一気に株価が上がれば、人々はなんだかお金持ちになった気になり「えーい、今日も一丁飲むか」という気分になります。すると飲み屋さんがとても儲かるようになります。飲み屋さんが儲かると、そこに品物を卸している会社も儲かります。といった具合に次々と企業にお金が入るようになっていきます。これが「資産効果」というものです。何でもないことのようですが、この効果はとても大切であり、無視できません。

株価がどんなに上がろうが、それを売って現実にお金をもらって初めて人々の経済は豊かになるのです。したがって、株が上がってもただ「上がった」と言って喜んでいては実質的な経済効果はありません。しかし「経済は、まず気から」と言いますので、資産効果は経済の状態を左右するとても大切な要因だと考えられます。皆さんもボーナス前は、ボーナスが「入ったつもり」でどんどん繁華街へ繰り出したり、大きな買い物をしたりするのではないでしょうか。これぞまさに資産効果ですね。

次回は、「ドル」が国際通貨となった経緯について考えてみたいと思います。そして「円」はこれからどうなっていくのか、などについても勉強していきましょう。


岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了、フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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