【今さら聞けない経済学】円安、円高を左右する為替相場

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第5回:円安、円高を左右する為替相場

「円安で企業の業績が向上した」「アベノミクスで“円安”になった」などという日々のニュースに、人々は一喜一憂している感があります。なぜ円高・円安が発生し、そして人々の関心を呼ぶのでしょうか。もしかすると円安・円高は後ろから誰かが「操って」生み出されたものなのでしょうか。また、円安と円高とでは私たちの暮らしにとってどちらが良いのか、一体誰の考えで円安・円高というシステムは構築されたのかなど、今回は円安・円高の問題に焦点を当てて考えてみたいと思います。

為替とは何か?

円安と円高について学ぶにあたり、まず為替という言葉の意味を考えてみましょう。例えば、ある人が遠い街にある商店から物を購入し、その品物の代金を支払う場合。その時、直接現金を送っても良いのですが、もしその金額があまりにも大きい時は現金を直接送りにくいものです。するとその品物を購入した本人は代金を持って銀行へ行き、銀行から送金してもらうことになります。つまり、銀行があなたの「為に」あなたに「替わって」お金を送るのです。これが「為替」というものです。為替とは、遠くへお金を送る手段を指します。

今度は、あなたが自分の住む国以外の企業から物を買ったとしましょう。当然あなたは外国へお金を送らなければなりません。そこであなたがお金を銀行へ持って行くと、銀行があなたの「為に」あなたに「替わって」「外国へ」お金を送ってくれます。この外国へ送る為替を外国為替といいます。国内でしたら同一通貨であるので話は簡単ですが、外国と取引する際には外国通貨で支払わなければなりません。そこで外国通貨を買うという仕事が発生するのです。

外国為替相場

上記のケースの場合、あなたはお金(自国通貨)を持って銀行へ行き、国際通貨であるドルを買って銀行に頼んで外国の企業に送ってもらうことになります。その時、「1ドルいくら」というドルの「値段」が発生するのです。これがドル相場であり、また外国為替相場ともなるのです。なぜドル相場が立つのかについては、このコラムの第4回でお話したようにドルが国際通貨であるからです。ドルを買うためには主に銀行へ行きますが、もちろん銀行以外の場所でもドルの売買は実行されています。これを両替と言います。

ドルは主として銀行で売買されます。これを外国為替市場と言い、1ドルが何円という相場は外国為替市場で形成されるものです。市場と言うからには、ドルを売買する専用の建物があると思われるかもしれませんが、実際に建物などはありません。ドルを売買するたくさんの銀行が集まって取引しているのです。例えばロンドン、ニューヨーク、さらに東京などには世界中の銀行が集まって毎日莫大なドルの売買をしています。これらは世界の3大外国為替市場とも呼ばれています。

しかし残念ながら東京の地位はシンガポールに抜かれてしまい、現在は第4位です。これは日本経済の力が落ちてしまった、ということに関係していると言えるでしょう。また、為替の取引は瞬時に英語でなされるので、日本人の英語力がまだまだレベルが低いことも残念ながらその要因の1つと考えられています。

世界経済力第2位の中国・上海の市場も、近いうちにベスト3に入ってくるかもしれませんが、もしかしたら上海の市場は、世界の外国為替取引市場としてさほど重要視されないかもしれません。後に詳しく取り上げますが、中国では外国為替相場が通貨当局によって「管理」され、為替の取引が完全に「自由化」されていないからです。最近、中国当局が中国の通貨・元をドルに対して一方的に数パーセント安くした、というニュースも人々の記億に新しいですね。

為替相場の決定について

それでは、「1ドルがいくら」とは誰が決めるのでしょうか?たいていの物の値段は、「買いたい人」と「売りたい人」の「駆け引き」で決まります。ドルの「相場(=値段)」も同じく、ドルを買いたい人と、ドルを売りたい人の駆け引きで決まるのです。ドルを買うことをドルの需要、ドルを売ることをドルの供給と言います。つまり、ドルの値段であるドル相場はドルの「需要と供給」の2つによって決定されるということになります。

では、一体どんな人がドルを買うのでしょうか?外国から物を買うとその支払いにドルを必要とします。つまり、輸入業者がドルを需要することになります。また、外国旅行の際の買い物代金や、アメリカの大学に留学する際の授業料もドルで支払わなければなりません。さらに、政府がさまざまな形で外国を援助する時にもドルが必要になります。このように、輸入業者、個人、団体、政府といった人々がドルを需要します。

一方、ドルを供給するのはどんな人々でしょうか?外国へ物を売った輸出業者はその代金としてドルを受け取りますが、日本の国内からその取り引きを行う買い手はドルを持ち合わせていません。そこでドルを売って円と交換するという行為が発生、つまり輸出業者がドルを供給するのです。また、外国旅行から帰って来た観光客が余ったドルを売る場合、個人でもドルの供給をすることになります。また、何らかの形で外国から送金を受けた個人、団体はドルを供給することになります。

これらのドルの需要・供給は銀行で実行されます。つまり「外国為替市場」で取引される、ということです。ここで「1ドル=何円」というドル相場(=外国為替相場)が決定されるのです。したがって、銀行の役割はとても大切です。外国為替市場でのドルに対する「需要と供給」の力関係で外国為替相場は決定されるのです。

変動相場制に基づく世界経済

このように外国為替相場が需要・供給の力関係で決まる仕組みを変動相場制と言います。既に前回、「固定相場制」とは何かについて考えましたね。そこでは1ドル=360円と為替相場(ドル相場)が、ずっと固定されていたのです。しかし、変動相場制の下ではドル相場はドルに対する需要と供給の「力関係」で決まります。つまり変動相場制に基づくと世界経済は不安定な状態に陥ります。

仮に、輸入がどんどん増えて外国への支払いが増大し、ドルに対する需要が供給を上回っている状況だとしましょう。「需要>供給」という状態が発生すると、ドル高・円安になります。逆に、輸出がものすごく増大すると外国からドルの支払いが増大します。すると輸入業者はドルを売って円を手に入れようとするので、「需要<供給」となり、ドル安・円高となります。

よく考えてみると、輸入がどんどん増えるということはその国の経済が下降線になり、輸出が増大することはその国が豊かになるということですね。日本への輸入が増大すると日本経済は弱くなり、円安になり、逆に輸出が増大すると日本経済は強くなり、円高になるのです。このように聞くと何だか「円高って良いことでは?」とも思えますが、その一方でこれは「円高問題」というとても大きな政治問題が起こるきっかけにもなったので、一概にそうとは言えない部分もあります。「経済が強い国の通貨は強い」という経済理論の基本から考察すると、日本経済が強くなれば「円」も強くなる、と考えても差し支えないでしょう。

変動相場制の「生みの親」は?

どんな理論にもそれを確立した理論家が存在します。これまで見てきた変動相場制の確立したのは、1976年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカのシカゴ大学の教授であったミルトン・フリードマンという非常に有名な経済学者でした。フリードマンは、あらゆる経済体制にとって「自由取引」が最も望ましい、という主張を繰り返してきました。また彼は、この連載でも既に登場した「レーガノミクス」の生みの親でもあり、一貫して小さな政府が望ましいと考えました。それに従い、外国為替相場も自由に変動するのが望ましいと、主張し続けたのです。

ニクソン・ショックで世界が瀕死の重傷を負っている時、世界経済はこのフリードマンの考えに飛びつき「変動相場制」を導入しました。それは73年の春のこと。あれから42年が過ぎた今、この制度が果たしていつまで続くか世界の指導者たちは固唾をのんで見守っています。しかし変動相場制に変わる良いアイデアは今のところありません。もしかすると将来、日本やオーストラリアの若い経済学の理論家によって世界を変えるような理論が確立される日が来るかもしれません。

次回は、変動相場制の「利点と欠点」について詳しく考えてみましょう。


岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了、フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業析研究所主宰

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る