【今さら聞けない経済学】「GDP」はどうすれば増える?

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第16回:世界の経済発展に大切な「自由な貿易」って?

世界経済の繁栄の基礎となる「経済学の理論」

どこの国も、自国の経済成長を第1に望むものです。まず自分の国を少しでも豊かにしたい、どんなことをしてもお金持ちの国になりたいと願ってきましたし、この地球上に「国」という形ができてから、これはずっと変わらぬ事実。しかし、もし全ての国が自分の国の豊かさだけを追求し、他国の繁栄を省みなかったとすると、いったいこの世界はどうなってしまうのでしょうか?

かつて、この世界では「自国の繁栄は他国の犠牲の下に成り立つ」とも言われていました。その証拠に、強い国はますます強く、弱い国はますます弱くなっていきました。そこで弱い国は弱い国同士でいわば徒党を組んで強い国と対抗する、という図式が採られ、挙句の果てには戦争をする、といった悲しい出来事が起きたことも歴史的事実です。

貿易取引においては、為替相場の一方的な切り下げ競争などが頻繁に行われていましたし、大きな国が小さな国を武力で植民地化するということもありました。

しかし、現在の世界ではそのようなことはめったに起こっていません。なぜなら、そのようなことをすれば双方にとって非常に大きな不利益が発生するという事実が理論的に証明されてきたからです。それを証明したのは、実は経済学の理論でした。この理論によって世界で自由貿易が発展し、世界は曲がりなりにも「均衡的」な発展を遂げてきました。その1つがEUであったのも事実です。TPPもまた、この理論を基に構築することが参加国間で同意されていることもよく知られています。しかし、そのEUもイギリスが離脱に向かって動き始め、ユーロ圏内だけでなく世界中が大騒ぎをしていますが、経済学で理論武装をしてきた世界経済の均衡的な発展理論が存在する限り、この問題もきっと解決されるものと思われます。

そこで、自由貿易の拡大に尽くした経済理論に焦点を当てて考えてみましょう。

「自由貿易の利益」とは?

世界には、大きな国、小さな国、資源の豊かな国、無資源の国、とさまざまな国や地域がありますが、「自由取引」を国の方針とすれば、その国はだんだんと豊かな国になれるというのが経済学を構築してきた「先人たちの知識」です。

例えば、資源豊富なA国と、技術先進国のB国の2つの国家があるとします。そこでA国の資源をB国が輸入し、そこで製品化してA国へ輸出すれば、A国の人びとの生活も向上します。しかし仮にA国が「B国へ資源を輸出することは嫌だ、自分の所で製品にする」と言っても、生産の技術のないA国ではおびただしい時間がかかり、それは「不可能」ということになるでしょう。そこで、A国は資源・原料を、B国は技術を相互に交換し合えば、A国とB国の双方とも利益が増大すると言うことになります。これが、ごく簡単な「自由貿易の利益」発生の説明です。

これを現実の世界に当てはめてみるともっと明確に理解しやすくなるでしょう。日本は「技術大国」で、オーストラリアは「資源大国」です。そこで、もしオーストラリアが自分たちで技術も開発して無尽蔵に存在している資源を用いて製品化して輸出し、より豊かな国になろうとしても、まず膨大な時間がかかります。それよりも、日本の優れた技術を用いて資源を製品化したほうが、あらゆる点で「より有利」であることは間違いありません。これを「自由貿易の利益」と経済学者は主張するのです。

「技術大国」同士の自由貿易

資源大国と技術大国との自由貿易の利益は理解できたと思いますが、技術大国同士での自由貿易は利益をもたらすのでしょうか?つまり、同じような財をより高度な技術で生産している国同士の貿易、これが問題ですね。

例えばアメリカと日本という技術の進んだ国同士で自由に貿易ができるかどうか、も疑問が起こります。しかし経済学者は「同じく進んだ国同士でも自由に貿易をすれば、両国に利益が発生する」と説くのです。

仮に日本とアメリカで、現在の世界経済で最も高度な技術を要する2つの製品(コンピューターと乗用車)を生産しているとします。これら2つの製品の生産において、アメリカが日本より有利な立場にあるとすると、これら2つの財の両方をアメリカで生産し、日本へ輸出したほうが良いのでしょうか?「いや、それは違う」というのが「自由貿易の利益」の理論です。

日本とアメリカで同数のコンピューターを生産するために、日本では150人、アメリカでは100人必要とします。するとアメリカの方がコンピューター生産に必要な労働者が少なくて済みますね。しかし同じ大きさの自動車を生産するために、日本では200人、アメリカでは300人必要とします。すると、車の生産に関しては日本の方が少ない労働者で生産できますね。つまりこの例で言うと、アメリカはコンピューターを日本より「比較的有利」に生産でき、日本は自動車をアメリカより「比較的有利」に生産できる、という事実が分かります。このように、高度な技術が進んだ国同士であっても、自国で「比較的より有利に生産」できる財を生産し、「自由に取引」をしたほうがお互いにとってより「大きな利益」が発生すると考えられるのです。

以上は「自由貿易の利益」の基本的な考えですが、これはとても大切で、世界経済の自由化促進の基礎にもなっています。

要素価格均等化の定理

経済学の理論で「要素価格均等化の定理」という、世界経済に大きな影響を与えた説があります。この定理をよく知ると、いわば「当たり前」のことであり、ことさら大げさに掲げるようなことではない、と皆さんは思うかもしれません。でもこれは「コロンブスの卵」です。コロンブスの卵という言葉をご存知の方は多いかもしれませんが、今となっては「なんだ、そんなことか」と誰にでも分かることでも、最初にそれを発見するのは容易ではなかったもの、という意味。この要素価格均等化の定理にも、まさに同じことが言えます。

生産をする時に絶対に必要な「労働、資本、土地」といったもののことを、生産要素と呼びます。それぞれの要素には「価格」があり、労働なら「賃金」が、資本なら「利子」が、そして土地なら「地代」が価格です。

さて、A国とB国とで自由貿易が実行され、例えば賃金が均衡したとします。これが「要素価格均等化の定理」です。再びアメリカと日本の例で考えてみましょう。今から50年ほど前の日本の労働者の所得は、アメリカの労働者の所得の10分の1から15分の1で、「アメリカの労働者はなんて豊かなのか」と我々日本の労働者はとてもうらやましく思ったものでした。しかし、賃金の安い日本の生産物は販売価格もまた安く、アメリカで「飛ぶように」売れました。日本からアメリカへ輸出がどんどん増大し、日本財への需要が増大し、日本でのその生産のために働く人びとの賃金も考えられないほどに増大していきました。そして、あれよあれよという間に日本とアメリカの労働者間の賃金格差は解消するほどになったのです。これが、自由貿易が作り出す大きな経済効果と言われています。

また、日本と中国との間でも同じことが言えます。約20年前の中国の労働者の賃金は、日本の労働者の20分の1ほどでした。安い労賃で作り出される中国製品は、それこそ「考えられないほどの安さ」であり、自由貿易のお陰で、日本からの中国財への需要は「ウナギ登り」に増大しました。そこで、中国では、一気に労働に対する需要が増大して、賃金が急速に上昇する、という結果が現れるようになったのです。賃金の安い中国の名は今では返上され、もはや労働者の安い国というレッテルははがれてしまいそうですね。日本と中国での「自由貿易」の結果として、2国間で「要素価格が均等化する」ということが実証されました。これは、自由貿易の大きな利益だと言えます。

経済学者サミュエルソン

世界経済の発展に欠かせない自由貿易の大切さについて、お分かり頂けたでしょうか。自由貿易の結果と言える要素価格均等化の定理を唱えたのは、アメリカの有名なポール・A・サミュエルソンというマサチューセッツ工科大学の教授です。この先生はとても優秀で、たくさんの新しい経済理論を導き出しました。経済学を少しでも学んだ経験のある人でしたら、彼の『経済学』というとても分厚い経済学のテキストを手に取った経験があるかもしれません。

私が1965年にアメリカのジョージア大学で学んでいた時、経済学専攻の全ての学生がこの本を自室に持っていたことがとても懐かしく思い出されます。それほどに、『経済学』は全世界で「大ベストセラー」でした。サミュエルソン教授は、この本で巨万の富を得、さらにたくさん有名な理論を構築したということで70年に第2回ノーベル経済学賞をも手にしました。もしかしたらノーベル経済学賞はサミュエルソンに与えるために創られたのではないのか、とまで言われたほどでした。つまり、「富と名声」の2つを手にしたというとても稀で有能な経済学者です。サミュエルソンは、たくさんの研究者から惜しまれながら、2009年12月に永い旅に発たれました。また別の機会に、サミュエルソンについてもっと詳しく記したいと思います。



岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了、フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業析研究所主宰

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