【今さら聞けない経済学】経済を立て直す方策~財政政策って何?~

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第21回:経済を立て直す方策~財政政策って何?~

経済成長をするための政策

世界には、大きな国、小さな国、資源が豊富な国、資源が無い国、人口が多い国、少ない国など、さまざまな国が存在しています。日本は無資源の国であり、オーストラリアは資源豊富な国と言われています。どんな国といえども一国の中にある資源(土地、人口、資本など)だけで成長していくことはなく、その国がより高い経済成長を遂げていくためには「その国の事情に適した政策」の遂行が必要です。

どんな国にとっても有効な政策手段として考えられるのは、対内的には金融政策と財政政策の2つです。対外政策としては、外国為替変更政策がありますが、この政策は余程のことが無い限りは使われません。というのも、これはあまりにも自国本位な政策であり、頻繁に使うと戦争が起きてしまうからです。

従って私たちは、まず金融政策と財政政策について深い知識を持つことが求められますし、それらの知識は日々の生活にもとても役立ちます。前回のコラムでは金利や金融政策のメカニズムについて述べましたので、今回は「財政政策の手段と方法」について考えてみましょう。

財政政策とは何か

一国の政策を担当しているのは誰なのでしょうか? 金融政策においては金融当局(日本の場合は日本銀行)の仕事とされ、財政政策は財務省の仕事とされています。

まず「財政」という言葉の意味から考えていきましょう。これまで何度も見てきたように、一国の経済は「需要と供給」という2つの部門から成り立っています。供給とは「財(物)・サービスを作り出すこと」で、需要とは「財・サービスを買うこと」です。つまり、どんどん作られたものがどんどん売れればその国の経済は活性化していきます。これにより経済は成長していくのです。

そこで、需要の面から財政の役割を考えてみます。生産された財とサービスを購入するのは、一般に「民間部門・公的部門・海外部門」です。例えば車が生産されたとすると、それを買うのは民間の人びとであり民間の企業ですね。タクシー会社や、警察・防衛・消防関係なども車をたくさん買います。当然たくさん輸出もされますが、ここでは海外部門については考えないでおきます。さて、警察・防衛・消防部門は公的部門と呼ばれ、この公的部門の活動資金の面倒を見るのが財政であり、この資金を使って経済活動をすることを公共支出と言います。公的部門はとても広範囲にわたっており、防衛、警察、消防の他、司法、行政、教育などを含みます。これらの機関・部署で働く人びとの人件費や物品費などに政府(中央・地方)は莫大な資金を投入し、政府(中央・地方)は橋、道路、病院、学校、港湾施設、といった人びとが生活するために必要な設備をたくさん作るのです。これらを公共施設、または公共財と呼び、公共支出である資金を使って作られます。またこれらをまとめて、社会資本と言います。社会資本がしっかり充実すればするほど、その国の人びとはより豊かに生活を送れますし、また企業も経済活動が行いやすくなります。そのため、経済学者たちは「社会資本の充実こそが一国の経済発展の基本だ」とも主張するのです。

また、人びとが年齢を重ね働けなくなった時や失業した時に、手当を支給するなどして面倒を見るのも「政府の仕事」です。政府の非常に重要な仕事と言えるでしょう。憲法25条で明文化されている「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という原則に基いて、その費用は政府が出すとも決められていますので、この憲法がある限り国民は安心して日々の生活ができるのです。

しかし、これらを遂行していくためには莫大な資金が必要です。つまり、公共支出を充実させるために政府は国民から資金の供出を求めます。これが「税金」であり、憲法で「納税の義務(第30条)」が決められています。皆さんもよくご存知のように、納税は国民に課せられた3つの義務(納税・労働・教育)の1つですね。

政府が国民から税金を徴収し、それを資金源として国民のために公共施設を作るべく資金を支出することを「財政」と言います。その財政の規模を増やしたり減らしたり、また国民のためにうまく使うように考えるのが、「財政政策」ということになります。従ってこの財政政策は国民経済向上のためにとても大切な政策なのです。

財政政策の方法

さて、政府(中央・地方)は税金を国民から徴収し、それを「財源」としてさまざまな部門に支出します。国民から徴収する税額を増大し、それを財源として生活に困っている人びとに与えたり、また高齢者の年金額を高めたりしたら、国民全体の消費活動は高まり、経済全体で活性化が見られるようになります。これを「需要増大刺激政策」と呼び、財政政策の中でもとりわけ重要な政策と考えられています。

一方で、税額を高めると国民が困窮します。異常に税額を高めるとかえって消費支出が落ち込み、経済活性化に逆効果になるというわけです。そこで、税額を低く(減税)して、人びとの実質の所得を高めることで消費を活発化させるという方法も考えられます。所得から税額を差し引いた金額を可処分所得(人びとが自由に使えるお金)と言い、可処分所得を高めて需要を増大させることも財政政策の手段ですね。

更に、税額の大きさに頼らない財政政策の方法はないものか、と経済学者は考えました。これが「赤字財政政策」で、有名な経済学者ケインズが主張した政策です。今の時点で政府にお金が無くても、政府が借金をし、それを原資として公共支出に使えば消費は活性化し、生産は増大し、企業の収益も増大するので、その際に企業から税金を徴収して当初の赤字を補填していこう、という政策です。これを「呼び水効果」とも言います。その昔、家々に井戸があった頃、ポンプで最初に水を汲み上げる時に井戸に水を少し入れました。これが呼び水です。水をドーッと汲み上げるために最初に少しの水を入れることで水が出るようになるという仕組みで、経済もこれと同じです。経済を活性化するためには「呼び水的」に、投資として借金をしたお金を最初に投入する、というのがケアンズの呼び水政策です。

第2次大戦後の世界経済はこの政策に頼って展開してきました。戦後の世界だけでなく、現在の日本経済もこの政策に頼っているのです。よく知られているように、日本経済は約20~30年の間ずっと大デフレで、人びとの経済状態はこの間ほぼどん底状態。そんな時、税金を上げたら国民は瀕死の状態になってしまいます。そこで政府は「税金を上げずに経済の舵取りをしよう」としており、つまり赤字財政を遂行し続けるということです。

今の日本のGDPの総額は、500兆円をほんの少し上回る状態ですが、日本政府が背負っている赤字額は、なんとGDPの2倍以上の1,050兆円以上にも達しています。先進国でこれほどの借金を背負っている国は日本以外にありません。ギリシャ政府の赤字財政隠しの公表に端を発した「ギリシャ・ショック」の場合でも、政府の借金はGDPの1.5倍ほどでした。これと比較すると、日本の借金がGDPの2倍以上あるという事実の歴史的な意味をお分かり頂けることでしょう。

GDPはその国の力ですから、日本の国力の2倍以上の借金をしているということは、まさに異常な状態です。この状態から脱却するために政府は、現在8パーセントの消費税を2年後には10パーセントに上げようとしています。それを財源としてさまざまな財政政策を遂行していこうとしていますが、日本のGDPがもっと増大しないとそれも「捕らぬ狸の皮算用」というような惨めな結果になるかもしれません。

もっとも、先進国の間で消費税が1桁という低い率にあるのは日本だけです。そのため経済学者の中では「日本はまだ消費税を増大させる余地があるので大丈夫だ」という意見や、「日本経済がより安定するためには消費税は30パーセントくらいまで率を上げないといけない」という意見もあります。経済学者って、さまざまな主張をするものですね。

供給重視の経済学

ここまでは需要の面に焦点を当てて財政政策問題を考えてきましたが、経済は需要と供給の両輪で成り立っています。そこで、そこで財政政策を供給の面から国の経済を活性化させよう、とする考えもあります。それを「サプライサイドの経済学」または「供給重視の経済政策」と言います。

生産をする主体は企業です。そこで、思い切って企業に対する減税を施し、それを原資として投資を増大させ、生産を増大させ、これにより国の生産額(GDP)を増大させようとする政策を取ることになります。GDPを一層増大させて利益を確保してから、税額を上げることで国の税収入を増大し、それを財源として国民の生活の安定化を図ろうという考え方です。

さて、今回は財政政策について述べてきました。前回の金融政策と今回の財政政策の2つの理論を構築することにより、国の経済の成り立ちについてご説明したつもりです。どれほど皆さんにご理解頂けたかいささか気になりますが、もっと深い知識の習得については別の機会に譲ることと致します。今回も読んでくださりありがとうございました。



岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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