【今さら聞けない経済学】経済成長の要因って?~GDPとGNPの違い~

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第22回:経済成長の要因って?~GDPとGNPの違い~

経済成長の不思議

ある国が限りなく成長を続けるためには何が必要でしょうか。例えば、日本という国を例にして考えてみましょう。日本は、広い太平洋の隅っこの方にあるほんの小さな国で、しかも経済活動にとって必要な天然資源はほとんどありません。昔は石炭があったので、それを使って日本経済は成長してきました。しかし今では石炭もほとんど無く、鉄、銅、金、銀などの資源もほぼ生産されていません。

一方、オーストラリアは日本と比べられないほどの天然資源が存在し「資源大国」といわれ、そんなオーストラリア人を世界の人びとは「ハッピー・ピープル・イン・ラッキー・カントリー」と呼んでいます。

しかしよくよく考えてみると、これまで無資源国である日本がどんどん経済を成長させ、資源豊富なオーストラリアが日本ほど経済を成長させてこなかったという事実は、どう説明されるのでしょうか。それこそ経済成長の「七不思議の1つ」ですね。そこで今回は、経済を限りなく成長させる要因について、GDPとGNPを中心にして考えてみましょう。

GDPとGNPの違いとは?

私は、仕事でしばしば講演に招かれ、あちらこちらで経済学のお話をします。その都度、参加者から「昔はGNPという言葉をよく聞いたが、今はなぜその言葉をあまり使わないのですか?」という質問を受けます。そこで私は「昔は世界経済規模が小さかったので1国だけのことを考えていれば良かったのですが、今は世界経済がグローバル化し、1国の経済だけを考えていてはとても分析ができないのです」とお答えし、GDPとGNPの「違い」を説明いたします。

GNPとは国民総生産(Gross National Product)のことで、「ある国の国民が、国の内外のどこででも1年間で得た利益を全て合計した値」を意味します。「日本のGNP」といえば、日本の人びとが世界のどこででも得た利益を全部合計した値です。これは、日本の企業がアメリカやオーストラリアでせっせと働いて得た利益を「日本の利益」として計算するということ。つまり、日本の経済的利益を上げる場所は全世界というわけで、それを全部合計して日本の所得として計算したものがGNPです。

しかし今から約15年前、この計算方法を変えようという意見が持ち上がり、「ある国の国内で上げた利益のみをその国の所得として計算する」ということになりました。これが国内総生産(Gross Domestic Product)という考え方です。このGDPとは、「ある一定期間(通常は1年間)、ある国において新しく作り出された全ての利益を合計した値」です。日本の例で考えてみると、日本国内で、日本人だけでなく外国の人びともせっせと働いて得た「もうけ」をも全部合計した値が「国内総生産=GDP」となるのです。日本に外国企業がたくさん入ってきて経済活動をして得た利益は、日本が上げた利益とみなし、国内総生産として計算します。

中国が経済成長を遂げた理由

さて、ここまでに述べた考えを広く世界的に見てみると、その現実が理解しやすくなります。今から25年ほど前まで中国の経済力はとても低く、眠れる獅子と世界から呼ばれていました。経済力は日本の20分の1ほどで、とても経済大国という表現からは遠い国でした。

しかし今では、日本は中国の経済力にとても及びません。現在の中国のGDPは日本のGDPの1.5倍近くもあり、中国は世界経済においてアメリカと並び称せられるほどの経済大国になりました。なぜ、中国はそこまでの経済成長を遂げたのでしょうか?

その理由は「資本、労働、土地、技術」。これらを生産の「基本的要素」といいます。日本、アメリカ、中国、オーストラリアを例に各国が持つ生産の基本的要素を見てみましょう。

生産要素賦存比較

国名 資本 労働 土地 技術
日本 - -
アメリカ
中国 - -
オーストラリア - - -

左の表は、経済活動に必要な生産要素賦存状態を示した比較表ですが、これを見ると経済の成長要因が明白に理解できると思います。この4つの国でどこの国が最も経済成長を遂げる好条件を備えているでしょうか?当然、プラスの記号を4つそろえたアメリカが最も好条件で、全ての生産条件が整っていると考えられます。アメリカが国際経済競争において「絶対必要条件」を備えている一方、上の表を見ると日本と中国は生産活動に必要な基本的条件の半分しか備わっていません。そして中国と日本では生産要素賦存状態が全く逆、つまり日本にあって中国には無いものがあり、中国にあって日本に無いものがある、という状態です。従って、中国と日本は、生産に必要な「補完関係」にあると言うことができます。これではどのように考えても日本の経済状態が現在以上に上昇するとは思えません。日本にある生産要素は、資本と技術の2つだけです。

人口減少が続く日本では今後、生産要素の中の「労働力」の状態も急激な向上は難しく、今以上に生産条件が悪化することが予想されます。現在、日本の総人口は1億2,700万人ほどですが、それが35年後には9,000万人を下回るのです。つまり労働者人口も減少します。そこから考えると、日本経済が生き残れる条件は、これまで以上に技術水準を高め、技術集約産業に特化していくことでしょう。日本が今日まで維持してきた経済規模を今後も維持していくためには、更なる人的資源の活性化を目指していく必要があります。これを成し遂げていくためには、国民の間で労働の質的向上を目指す、という気構えが必要のようです。

上の表でオーストラリアの状態を見てみましょう。日本と同じような状態ですが、広大な国土という絶対的条件が備わっているため、日本以上に経済活動に有利な条件があるように見受けられます。しかし自国での技術開発がどれだけ進むのか、というのがオーストラリアの更なる経済発展の課題ではないでしょうか。しかし、経済賦存状態がほぼ正反対であるように見える日本とオーストラリアが手を組めば、お互いに「補完作用」を発揮して経済効率を上げていけるようにも私は思います。

要素比率賦存状態と新古典派経済理論

経済学の分野に新古典派経済理論という、とても重要な考え方があります。現在の経済学はこの考えに基づいて形成されてきたとも言われており、「自由取引こそが経済発展の基本である」というのがこの理論の軸です。

更に、新古典派経済理論は、少ない資源をいかに効率的に生産活動に利用するかを基本として理論を組み立てています。つまり、世界経済は各国間での自由な取引によってより発展するということ。お互いに無いものを補完し合いながら、お互いが発展していく、というこの考えが現在の世界経済の在り方です。

こうして考えていくと、中国の豊富な労働という資源を求めて、日本企業が日本からドーッと出て行ったという事実も理解できそうです。つまり、豊富に労働者が存在すれば賃金も安くなり(かつて中国の1人当たりの賃金は日本の賃金の20分の1とも言われていました)、生産費が安ければその生産品の価格も安くなり、すると貿易量も拡大し、その国の経済規模も拡大すると考えられます。この理論によって中国は考えられないほど生産規模を拡大させ、中国の国内総生産(GDP)をどんどんと拡大させたのです。

一方、日本から中国へと企業が出て行くことによって日本国内の生産額(GDP)は減少の一途をたどる、という現実に直面することになりました。過去10年近くにわたり、中国の経済成長率は、ほぼ10パーセント以上という高い率を誇り、それによって日本経済をはるか彼方に突き放すこととなり、今や世界経済内において冠たる地位を占めるまでになりました。もっとも、現在の中国の経済成長率は6.5パーセントほどに低下してはいますが。

しかし別の考え方もできます。日本の国内総生産(GDP)は低下したままですが、かつてのような国民総生産(GNP)で計ってみたら、もしかすると日本の値はそんなに低下していないのかもしれない、ということです。確かに、たくさんの日系企業が中国へ進出してそこで生産額を高め中国のGDP上昇に貢献したのは事実ですが、以前のように日本人が世界各地で上げた利益を全て加えたものをその国の生産高(GNP)とする、という考え方が今でも成り立つとすれば、日本の生産額もそんなに低いことはないとも考えられます。

最近、こうしたやり方を取り入れようとするGNI(Gross National Income)という考えも出始めています。これは日本人が国の内外であげた所得(Income)を基本にして国の経済力を示そう、とする考えです。

これが果たして正しいかどうかを確かめるには、多くの専門家による理論の発展がまず必要でしょう。ただ現実には、国内で人びとが努力に努力を重ねた結果がその国の経済力だ、ということはいつの時代も変わらぬ事実です。「各国間での自由な取引こそが各国の更なる経済発展の基本的な要因である」という考えはおそらく永久に経済学的な真理だと思われます。そうすると「America First」(米国第一)と声高にスローガンを掲げたアメリカ新大統領の考え方は、果たして自由世界で通用するかどうか、経済学の見地からすると大いに疑問でもあります。



岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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