【今さら聞けない経済学】「デフレ」の発生原因とは?

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第23回:「デフレ」の発生原因とは?

経済的な不公平はどこから生まれる?

世の中には「不公平」という言葉があります。何を今さら、といぶかる向きもありますが、その不公平は人知れず忍び寄るようにやってくるのです。もし反社会的な事件を起こしてその人が没落していくのなら自業自得ですが、毎日一生懸命に汗水流して働いてもどんどん生活が苦しくなる、といったことは決して自業自得ではありません。一体なぜ一生懸命に働いても「地獄の底」へ落とされるようなことが起こるのでしょうか。

その1つには、一般にインフレやデフレと呼ばれる経済の状態のせいで人知れずそういう状態に陥ることがあります。そこで今回は、世にも恐ろしいデフレの問題にまず焦点を当てて考えてみましょう。

この世界には、本当に「富んでいる人」がたくさんいる半面、「困窮に喘いでいる人」も数え切れないほどいるのが現実です。世界で最も裕福な国と言われる日本でも生活困窮者は少なくありません。オーストラリアでもおそらく事情は同じでしょう。

近年、「相対的貧困率」が人びとの間で真剣に議論されるようになりました。相対的貧困率とは、可処分所得が全人口の平均値から半分未満のところにある人びとの状態を意味します。相対的貧困とは、その国の所得格差。日本はその値が急に高くなり、先進国グループであるOECDの中で、相対的貧困率は15.8%と下から4番目です。世界で最も裕福な国であるアメリカは17%で下から3番目、オーストラリアは12.3%で下から11番目です。ちなみに、最も相対的貧困率が低い国は5%のデンマークとスウェーデンで、これらの国は福祉政策が充実していることで有名ですね。

また、「子どもの貧困率」もさかんに論じられるようになりました。これは、親の所得が200万円ほどの家庭の子どもの割合を意味します。日本では驚くことに6人に1人の子どもが貧困状態にあり、その日暮らしをしていると言われています。かつて日本は稀に見るほど経済的に豊かで、その恩恵により高学歴社会であり、たくさんの若者が高等教育を受けて社会で有用な人材として活躍していました。世界でも珍しく所得の平等が行き届いている国として「1億総中流」という言葉がもてはやされたこともあります。しかし、そんな言葉も今や歴史のはるかかなたの事実となってしまいました。

「デフレ」とは何か

このような状態の元凶は、「デフレ」という状態に日本経済が落ち込んだからだと言えます。デフレとは「デフレーション(Deflation)」(縮む、収縮という意味)を短くした言葉で、経済においては物価がどんどん下がることを意味します。「物価が下がるとどうして経済が落ち込むの?物価が下がれば人びとの暮らしは楽になるのでは?」と思う人もいるでしょうし、事実その通りです。しかしそれは「ミクロの世界」であって、国全体のことを考える「マクロの世界」では物価の下落は経済状態を奈落の底へ陥れる大きな原因になります。

仮に今、価格がドッと下がったとしましょう。すると企業の利益が減少して、それが更に進展すると企業の収益は赤字となり、最悪の場合には企業倒産ということになります。企業収益の減少は従業員に対する月給・賞与の減少の原因にもなりますし、企業倒産となれば従業員は会社を解雇されるということもあるのです。つまりここで失業が発生し、「デフレ」=「失業の発生」という式が成り立ちます。

デフレで恐れられるのはこの式のような状態が発生することで、この状態になると人びとはこれまでどんどん物を買っていた状態から一気に買い控えをするようになり、企業内では売れ残り(在庫)が増えていきます。山と詰まれた在庫品を一掃するために、企業はその商品の価格を下げるでしょう。しかし、ちまたに失業者が溢れている状態ですと人びとは買い物どころではなくなり、どんなに値下げしても品物は売れないという状態になって、ついにはその企業は倒産するということになります。つまり、ケインズの言う「有効需要の消滅」という状態に突入するのです。そこで「デフレ」=「大不況」という経済学的にとても意味のある式が成り立ちます。日本経済の中でこの式が約25年間はびこったことで、かつて世界の中で「最も優秀な国」とされ、日本経済を見習えとまで言われていた状況から、今では「日本沈没」と言われるようになってしまいました。

デフレの発生原因

そんなに恐れられているデフレは、一体どのような経路で発生するのでしょうか。そしてデフレを克服する経済政策手段は何でしょうか。

まずデフレの原因を国内要因と外国要因の2つに分けて考えてみましょう。国内要因としては、金融当局の通貨供給の縮小が考えられます。金融当局が通貨の発行を減少させるとデフレが発生することになり、これは一般に「金づまり」と表現されます。更に詳しく述べると、金融当局が「通貨収縮政策」を取ると通貨の流通量が減少し、それに伴って物価が徐々に低下し、生産者の得るべき受け取り額が減ってしまい、不況に突入するということです。それを経済学の分野では次のような式で説明します。

① M V = T P

これは経済学の分野ではとても有名な式で、経済学を学んだ人なら誰でも一度は目にしているはずです(この式を知らないという経済学部出身者がいたらその人は「もぐり」か、大学の講義にほとんど出席していなかったかのどちらかのはずです)。Mは「通貨の供給」、Vは通貨の平均「流通速度」、Tは「財の取引」、Pは「物価」を意味します。

さて、経済状態を短期間限定で考え、上の式のVとTに急激な変化は無い、と仮定します。すると上の①の式は、下の②のように簡単な式になります。

② M = P

例えば、通貨当局が通貨の量(M)を減らしたとします。すると物価(P)も自動的に減少することになり、つまり物価が低下します。つまり通貨当局によって通貨の量(M)を大幅に減らされると物価(P)も低下し、これがデフレという現象なのです。

この式は、構築した経済学者アービング・フィッシャーの名前を取ってフィッシャーの交換式と呼ばれています。フィッシャーはエール大学の有名な経済学者で、第2次世界大戦を挟んでアメリカで活躍し、その後の世界経済の理論構築に多大な影響を及ぼしました。インフレとデフレを説明する際に絶えず用いられるこの有名な式は、一見簡単そうに見えて、物価の変動要因を説明するだけでなく、「インフレの原因・対策」も明らかにしてくれます。

さて、デフレ発生の国内要因として次に賃金の硬直化が挙げられます。これは人びとの賃金が上がらないことを意味します。賃金には名目賃金と実質賃金があります。名目賃金とは物価の変動を考慮しない賃金であり、実質賃金とは物価の変動を考慮した賃金です。この2つのうち大切なのは実質賃金で、人びとの物の購買は実質賃金に基づいてなされますので、これが上がらないと購買力も上がらないということになります。

次に考えられるのは輸入デフレです。輸入デフレとは、国内の経済要因以外によって発生するデフレだと考えられます。日本は財を外国へ輸出して成り立っている国ですので、もし外国の経済状態が悪化して日本からの輸出が止まってしまうと日本の産業は大打撃を受けます。例えば今も問題になっているようにアメリカのトランプ大統領が「日本車の輸入を大幅に制限する」ということが現実になると、日本経済の中で大きな役割を占める自動車生産は大きなダメージを受け、それが日本経済に「マイナスの効果」をもたらすことになります。すると日本経済のデフレ状態はより深刻になる、と考えられるわけです。

デフレの原因として次に考えなければならないのは、外国為替相場の変動です。外国為替市場で「円高・ドル安」が続くと(例えば1米ドルが100円を切るようなことになると)日本の輸出財の価格は外国で高騰し、輸出は困難になり、一挙に日本経済は落ち込むことになります。これを円高不況と言います。

事実、日本経済が、既に25年にもわたって「大不況」の状態にあるのは、この円高が原因だと考えられます。1949年に1米ドル=360円(固定相場制)と決定され、この「円安=ドル高」のレートでの日本財の輸出価格はきわめて安かったため、優秀な日本人が優秀な財を生産し、米ドルと円との交換比率で日本が有利になり、一気に「輸出大国」そして「経済大国」になりました。

しかし、73年の春に導入された変動為替相場制の影響を受け、外国為替相場の自由な変動により「円高=ドル安」の状態が1990年代から長く続き、それが原因で日本経済は「大デフレ」の状態に陥ったとも考えられます。

この外国為替相場の変動は、市場の需要と供給に影響を受けるものですが、最近あったようにアメリカのトランプ大統領が「円は異常に安い」という発言によって相場が大きく変動することなどもあります。これを口先介入と呼びますが、このような変動は本来あってはなりません。

さて、今回はデフレの発生原因を考えてみました。次回は、デフレを退治する政策について、そしてインフレの発生原因とその対策についても考えてみましょう。今回も読んでくださりありがとうございました。



岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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