【今さら聞けない経済学】財政赤字ってどうして起こるの?国は潰れないの?

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第26回:財政赤字ってどうして起こるの?国は潰れないの?

皆さんの家庭で、家計に毎月「赤字」が出たら、これは大変だ、どうしようと心配したり、時には夫婦喧嘩の原因になったりもします。

また、皆さんの会社が決算で「今期は赤字だ」ということになれば、とても大変なことになります。事実日本でも、世界的に有名な「東芝」という巨大企業が、歴代の経営者の不祥事の結果とはいえ、7,000億円という強大な赤字(欠損)を出して、いまや瀕死の状態です。東芝の株は一部上場から監理・特設部門に入れられて、注意株として扱われています。1日も早く立ち直って欲しいと願うばかりですね。

個人の家計や、一企業の赤字の話をしてまいりましたが、それが一国の家計の話になると事はそう簡単ではありません。

国の「赤字」とは何か

今までに「ショック」という言葉を、何度となく耳にしたことがあると思います。例えば、ニクソン・ショック(1971年)や、リーマン・ショック(2008年)、ギリシャ・ショック(2010年)などが有名で、世界の「3大ショック」とも言われています。

「有名」という表現はあまり良くありませんが、それでもこれら3つの出来事は皆さんの胸にしっかりと残っていることでしょう。

ニクソン・ショックは、元アメリカ大統領ニクソンが行ったのでこの名前が付けられました。当時、世界の取引で使われていたのはアメリカの通貨「ドル」でした(今でも事実上はそうですが)。ドルの価値を金としっかりと結び付けて、ドルの価値を安定させて、そのドルを世界通貨として用いて世界中の国々は貿易をしていたのです。

つまり、海外諸国がドルを持ってくれば、アメリカ通貨当局はいつでも金と「交換」しなければならなかったのです。そんなことを繰り返していたら、金がどんどんアメリカから流失してしまい、徐々に無くなってしまいました。そこでニクソンは、もうこれ以上ドルを持ってきても金と交換しないぞ、と世界に宣言してしまったのです。これが、「金・ドル交換停止」という、これまでの国際通貨体制をひっくり返すほどの大騒動でした。それによって日本経済は奈落の底へ突き落されたのです。それから今日まで、日本経済にはかつてのような輝きはありません。

次に、リーマン・ショックとは、アメリカの「リーマン・ブラザーズ」という巨大金融会社が、多くの金融会社が発行する大して価値の無い証書を証券化し、世界に売りさばいて金融不安を世界中に広めたことに端を発しました。そのいわば煽(あお)りを受けて「ギリシャ・ショック」も一気に噴出したのです。ギリシャという国の人びとは、自分の国が儲ける以上に贅沢な暮らしを「借金」することで送っていました。つまり、自分の力ではとても返せそうに無い資金をさまざまな国から集め、それで自分たちは「優雅な」生活を謳歌(おうか)していたと言っても過言ではありません。

どこかの国でもギリシャのことを他人事のように言ってはいられない、と多くの人々が心で密かに思っています。そうです、それは我が国「日本」のことです。五輪後にその「ジャパン・ショック」が来るのでは、という見方もあります。

3大ショック
 
●ニクソン・ショック(1971年8月15日)
●リーマン・ショック(2008年・秋)
●ギリシャ・ショック(2010年・春)

国の借金、「国債」とは何か

国が「借金」をするとは、何を意味するのでしょうか。どんな国でもやりくりをするためにはお金が要ります。例えば、橋、道路、鉄道、病院、学校、防衛、福祉事業、国の環境整備(治山治水事業)などの「公共事業」に多額の費用を必要とします。これらの仕事を遂行するのに、考えられないほどのお金、つまり「公共投資」が要ります。それらのお金は国民が支払う「税金」で賄われるのです。

皆さんもよくご存知のように、日本憲法で国民に課せられた3つの大切な義務があります。それは「教育・勤労・納税」です。これらは「3大義務」として国民には知られています。従って、国民はよほどのことが無い限りちゃんと税金を納めなければなりません。ちなみに、企業が支払う税金を「法人税」と言い、個人が収入の中から支払う税金を「所得税」と言います。

さて、政府の収入は、国民が支払う税金から成り立っているのですが、よく考えてみると、日本経済は先に述べた「ニクソン・ショック」に端を発してもう30年ほど「奈落の底」を這っているような状態です。かつては、「21世紀は日本の世紀だ」ともてはやされるような時代もありました。GDPも1968年にはアメリカについで世界で第2位になり、前途洋々とした時代でした。しかし、90年代に入って日本経済は「奈落の底」に突入し、30年近く経とうとする今でもそこから抜け出せない状態です。GDPは、今や中国に抜かれ(2010年)、第3位の状態ですが、近い内にその地位もインドに抜かれ、ブラジル、南アフリカ、更にインドネシアにも抜かれる、と言われるようになりました。

日本で人びとの賃金は上がりません。それは企業の収入が増大しないからです。そうすると、人びとからの所得税も、企業からの法人税も増えません。そこで政府は財政規模を拡大するために、「消費税」を上げるようになったのです。日本の消費税は、現在8%ですが、政府は2019年10月までに10%に引き上げようとしています。つまり税収は主として、法人税、所得税、消費税から成り立っていますが、日本経済の落ち込みが激しいのでそれらの税収が増大する見込みは、全くありません

そこで政府は「借金」をしなければならないのです。それが「国債」です。

●日本経済の落ち込みが激しい
 
・企業の収入が増えない(法人税増大の見込み無し)
・人びとの賃金が上がらない(所得税増大の見込み無し)
・消費税を上げよう(2019年10月までに8%から10%へ)


●税収増大の見込みなし

●借金(国債)

国債の発行の仕組み

では国債はどこで、どのような仕組みで発行されるのでしょうか。さらに、どんなに発行しても国は潰れないのでしょうか。

まず国債の発行についてですが、政府は年度の予算を決めます。その内税金で賄える額を決め、足らない額は「赤字」、つまり国債を発行して賄うという予算計画を立てます。つまり政府は「借金」をする、ということです。その時、政府は借金をするため「借用書」を発行することになり、国債という「債券」を発行します。

一般に会社が人びとからお金を集める時、やはり債券を売って集めます。その際、企業が発行するのは「社債」と言われます。国債も社債も借金の借用書であり、「債券」だということを忘れないで頂きたいと思います。

ところで、別に「債権」という言葉もありますね。これは、一般企業社会では、借金を取立てする権利のことですね。債券とは、英語で”bond”と言いますが、一方の債権とは”credit”とか、”claim”と言われています。

さて国債の発行についてですが、発行当局(財務省)が、これだけの国債を発行するという時、国債引き受け団が形成されます。これは「シンジケート」と言われ、英語で”Syndicate”とつづり、その意味は「債券発行引き受け組合」と訳されています。まさにこれは国債発行の引き受け集団を意味します。それは、日本のメガ銀行(3メガ銀行のうち、三菱東京UFJ銀行はこれから降りたので、今では2行だけです)、主要な証券会社など、ほぼ20社から構成されています。そこで次回発行される国債の発行利回りなどの条件が決められ、そこで国債が消化されることになります。更にその国債は、世間にあるたくさんの証券会社や銀行などを通じて、広く国民の手に渡ることになります。

よく「私は国債など買っていません」という言葉を耳にしますが、この人は直接買っていなくても、皆さんが預金している銀行が皆さんの預金でちゃんと国債を購入しているのです。また当然、個人でも退職金の一部で国債を買うという人はたくさんいます。つまり、人びとは金融資産として国債を購入するのです。国債とは、国の借金であると同時に、国民が国債を持っていれば「資産」だということも言えます。現在、マイナス金利時代であり、銀行に預金しても、恐らく「預け料」を取られるようなことになるかもしれません。また、低くても必ず「金利」が付く国債は有力な資産運用先かもしれないとも言われます。

私のような貧乏な大学教師にも、「ぜひ国債を買ってください」と金融機関が勧誘に来ます。その時、銀行とか証券会社の人は、「今買ってこれだけ払い込めば、満期時にはこれだけ返ってきますよ」言う、とても「甘い言葉」で売り込もうとします。その時、私は経済の教師ですから国債売買の実地の「勉強」をすることになります。本当なら私は、「家庭教師代」を支払わないといけないかもしれませんね。

今回は国債問題についての導入部分をお話しました。次回はもう少し深い部分に触れてみようと思います。今回も読んでくださりありがとうございました。



岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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