【今さら聞けない経済学】経済現象の理解と見方について 実質と名目の違い

今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第34回:経済現象の理解と見方について 実質と名目の違い

経済の問題を考える時にとても大切なことですが、「ややこやしい」問題として「実質」と「名目」という言葉があります。この2つの言葉の違いは、一度言われても容易に理解できそうにありませんし、事実、多くの人はしっかりと理解していないように見受けられます。

随分前に、テレビで映し出された国会の予算審議で、時の首相が「日本のGDPはどんどん上がっている、それは私たちの経済政策が首尾良くいっている証拠だ」と、とても自慢げに述べていましたが、質問者が「それは実質ですか、名目ですか」と質問したところ、首相は途端に口をもごもごし始めたのです。その光景を私は今でもよく覚えています。恐らくその偉い人は、実質と名目の違いをよく分かっていなかったのでしょう。それほど、実質と名目で測るということは、一国の経済の状態を見る時に大切です。

GDPとGNPの違いについて

まず初めに、おさらいも兼ねて、GDPとGNPの違いから考えていきましょう。少し前、招かれて講演をしていた時、私は得意げに「日本のGDPは……」などと話をしていました。すると1人の老紳士がすーっと立ち上がり、「それはGNPのことではないのか」と質問するのです。確かに、「その昔」は、ある国の経済の大きさを測る際には、GNPが使われていました。そこでその老紳士は自分が学生時代に習ってきたGNPを思い出されたのでしょう。1990年代の初めまでは一国の経済の大きさを測る物差しとしてGNPが世界的に使われてきました。しかし、それ以降では、世界が複雑になり始めたため一斉にGDPを共通の物差しとして使うようになったのです。

GNPは「Gross National Product」、GDPは「Gross Domestic Product」の略です。前者は「国民総生産」と言われ、後者は「国内総生産」と言います。GNPとは、「その国の人びと」が、ある一定期間(通常1年)、国内外(世界のどこででも)で作り出した儲けを総合計した値です。一方GDPとは、ある国において1年間で「国内外の人びと」が作り出した儲けを総合計した値である、ということです。

さて、上記の文章をよく読んでみると「なるほど」と頷くのではないでしょうか。GNPとは、例えば、日本国の人びとが、日本の国だけでなく「世界のどこでも」儲けた全ての利益を全部合計した値なのです。一方、GDPは、日本の国の中で「誰でも」が稼いだ儲けを全部合計した値です。

「世界一の経済大国」から「並の国」へ

現実の経済状態を考えてみると、日本のGDPは下がる道理だ、という理由が分かります。かつて1970年代の日本は「黄金の時代」と言われていました。それは、日本のたくさんの企業が生産を上げ、世界各地に売りまくり、せっせと稼いでいたからです。「日本人」が世界を相手に稼いだその「儲け」が日本のGNPとなったのです。そこで日本は「世界一の経済大国」という、うれしいレッテルを貼られていたのです。

しかし、1990年の後半から2000年にかけて、よく知られているように「円高」問題が日本経済を襲い、日本企業が日本で生産し、それを世界に輸出するというメリットがなくなってしまったのです。また、安い賃金労働者を求めて、日本企業の多くは、特に中国へ工場ごと移転を余儀なくされたのです。その結果、日本国内での生産が減少してしまいました。その後日本には、「空洞化現象」や「ドーナツ化現象」が起こり、一気に国内総生産(GDP)は減少するようになったのです。「21世紀は日本の時代」と言われていたのが、今では「並の国」になってしまいました。

日本政府が狙う「ブーメラン効果」

この問題を手っ取り早く話せば、目下、アメリカのトランプ大統領は、アメリカの「法人税」を大幅に下げようとしています。法人税を下げればアメリカは、外国企業にとって「投資活動に魅力的な国」となり、外国企業がアメリカに積極的に投資をします。するとその企業にアメリカの労働者が雇われ、その結果、雇用の増大と賃金の上昇が可能となり、アメリカ経済に「好循環」がもたらされる、というシナリオを描いています。

それに負けじと日本政府も法人税を現在のほぼ30パーセントから25パーセントほどに、更にケースによっては20パーセントほどにまで下げよう、そしていったん外国へ出て行った日本企業に再度日本に帰って来てもらい、日本国内で投資活動を活性化してもらおう、という戦略を立てています。まさに日本企業の「ブーメラン効果」を狙った政策です。

実質GDPと名目GDPとは何か

表1の数字を見て頂きたいと思います。実質GDPと名目GDPとでは、かなりの金額に差が生じています。例えば、2014年では両者の差はわずか8兆円しかありません。しかし、17年では、なんと15兆円もその差があるのです。そこで、名目GDPを取れば、「我が政策のためにGDPは上がっているではありませんか」と胸を張ることができます。しかし実質GDPは、さほど増大していないことが分かります。そこで、GDPにおいて名目を取るか実質で取るかでは、かなり「実績」の評価も分かれてきます。

【表1】日本のGDPの年表

年度 実質(兆円) 名目(兆円)
2014年 510.9 518.5
2015年 518.3 533.9
2016年 524.4 539.3
2017年 534.1 549.2

名目GDPと実質GDPとは、どのようにして計測されるのでしょうか。GDPとは、その国の産業や企業が作り出した、「新たに作り出された生産額=付加価値」を合計した値なのです。例えば製鉄業の生産を例にしてみます(表2)。

生産金額 中間投入 原料(例えば鉄) 付加価値
30兆円 18兆円 7兆円 5兆円

表2の例で考えると、製鉄業の生産額は30兆円もありますが、人件費、鉄などの原材料費を差し引いて、実際に儲け出した金額(付加価値)は5兆円です。このように全ての企業が作り出した「付加価値」を計算した総額がGDPということなのです。

実質GDPと名目GDPの違いについて

生産活動を考えると「生産台数×価格=生産額」という式が成り立ちます。日本のあらゆる製品にこれを当てはめると、日本のGDPが出ます。そこで問題を簡単にするために、次は自動車の例で考えてみましょう(表3)。

自動車生産年度 生産台数×一台の価格=生産額
X年 100台×100万=1億円
Y年 100台×110万=1億1千万円

表3の例からも分かるように、自動車の生産において生産額は確かにX年とY年では違いますが、生産台数においては変化がありません。つまり、物価が100万円から110万円と10万円も上昇したため生産額が増大したのであり、それは「真の成長」ということにはなりません。このケースで言えば、名目的に成長したことになり、実質的な成長ではありません。名目GDPと実質GDPとの区別は、名目GDPから「物価の変動」を差し引いた値が実質GDPです。名目GDPは、言わば「水ぶくれ」のGDPです。従って、本当に大切なGDPの成長は実質GDPと言えるでしょう。もし、物価の変動がなければ、理論的には、「実質GDP=名目GDP」、という構図になります。

アベノミクスの成果

ところで、今日本では下記のような戦略構図で「アベノミクス」の成果が真剣に論じられています。

アベノミクスの「成長戦略」構図
 インフレ2パーセント → GDPの成長3パーセント → 2019年秋に消費税10パーセントに引き上げ → 2020年までに600兆円のGDP達成

しかし、アベノミクスが導入されてから、早や5年以上の月日が経ちますが、インフレの成長は1パーセント → 1.2パーセントぐらいで、とても20年までには600兆円のGDP達成は無理だと経済学者は見ています。恐らくアベノミクスは、名目GDPの600兆円を目論むものと思われますが、本当に大切なのは実質GDPが600兆円になることです。

「水ぶくれ」的な経済成長では人びとに真の幸福をもたらしません。経済政策担当者はこのことを肝に命ずべきだ、と私は思います。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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