【今さら聞けない経済学】中央銀行とは何か ―日本銀行の仕事について―

今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第35回:中央銀行とは何か ――日本銀行の仕事について――

世界中の人びとは、「お金」を使って毎日生活をしています。世の中との関係を一切断ち切った生活をしていれば別ですが、まず、100人中99人がお金がなければ、1日たりとも生活を営むことはできないでしょう。
 その大切なお金は誰が、どのようにして手に入れ使っているのでしようか。お金が天から降ってくることはまずありえません。では、どのようにして世の中にもたらされるのでしょうか。
 私はボランティアとして、小学生に話をする機会があります。児童たちに、「皆さんはどのようにしてお小遣いを手に入れるのですか?」と質問をすると、大抵は「お母さんから」と答えます。そこで「お母さんはどのようにしてお金を手に入れているのですか?」と聞くと「お父さんから」と答えます。そこでまた「お父さんはどのようにしてお金を手に入れるのですか?」と質問すると「会社から」と応えます。そこで「会社はどのようにしてお金を手に入れているのですか?」と尋ねると、子どもたちは「銀行から」と言います。そこで「では銀行はどのようにお金を手に入れていますか?」と質問すると、黙ってしまいます。そうです、それが普通の返答です。
 そこで今回は、お金は誰が作ってどのようにして人の手に渡るのかというお金の仕組みについてつづってみたいと思います。

中央銀行とは

私はさまざまな所で講義や講演を行っています。ある会場で、年配の男性から「日本銀行は中小企業よりも、ずっと規模が小さいというのは本当ですか?」と質問された時、私は「そうですよ。日本銀行の資本金は1億円です」と答えると、会場内でどよめきが起こったのです。天下の日本銀行が資本金1億円の中小企業並だなんてという驚きの声です。そもそも、日本銀行に資本金があるというのが初耳だという人が多いのです。更に付け加えると、日本銀行の株はジャスダックという市場に上場され、売買されています、と述べるとどよめきが起こります。

皆さんは、日本銀行が民間の会社のようなシステムで成り立っているとは考えられないようです。日本銀行に関して詳しく知らない人がたくさんいますので、今回は日本銀行について考えてみようと思います。

皆さんの中には「中央銀行」とは何かと問われてもすぐに返答できる人は少ないかもしれません。しかし、中央銀行とは英語で「セントラル・バンク」と言われ、その国の金融行政を行う大切な金融機関のことです。皆さんがよく利用する町の銀行は商業銀行と言ってお金を人から人へ融通することを主な仕事としています。お「金」を「融」通するという言葉から「金融」と言う専門用語が生まれたのです。中央銀行と商業銀行は金融制度や金融組織で結ばれています。中央銀行と商業銀行とは、砕けた表現をすれば親分、子分の関係にあります。もし何かが起こった場合、親分は子分の面倒を見ますが子分は親分の命令に徹底的に従うというのが金融世界の「掟」です。商業銀行は中央銀行(日本銀行)の言うことを絶対に従わなければなりません。その主従の関係で「金融行政」は成り立っているのです。

中央銀行とはどんな銀行か

中央銀行とは下記のような銀行を指します。

  • ●日本――日本銀行
  • ●アメリカ――連邦準備理事会(FRB)
  • ●イギリス――イングランド銀行(Bank of England)
  • ●オーストラリア――オーストラリア準備銀行(RBA)

中央銀行は各国にどしっと構え、たくさんの商業銀行を従えて、その国の金融行政を行う場所です。その金融行政を通して、各国の経済の舵取りをすることになります。

日本銀行の成り立ち

日本銀行は、明治15年に日本の中央銀行として設立されました。第2次世界大戦中に日本銀行は政府に多大な協力をし、惨めな敗戦を導いたという反省から戦後の日本銀行は「戦争には関わらず、政府から独立的な存在であるべきだ」とする基本理念に基づいて平成9年に最新版に改正され、平成10年に実行された法律(日銀法)によって中央銀行として政府の干渉から完全に独立した日本銀行が成立しました。そこでは下記の取り決めが成されています。

  1. 1. 資本金は1億円、政府の出資金は5,500万円とし、出資に対する配当は年5分を超えないものとする
  2. 2. 日本銀行は法人である
  3. 3. 日本銀行の最高機関は政策委員会とする
  4. 4. 政策委員会の権限は金利変更の決定、準備率の変更、金融調節方針の決定、経済金融情勢の基本的判断の実行

日本銀行の金融行政と舵取りについて

日本銀行の舵取りを決定する組織を「金融政策委員会」と言い、9人の審議委員から成り立っています。総裁1人、副総裁2人、審議委員6人という構成です。審議委員に任命されるには、深い経済理論の知識が求められ、金利を上げ下げする決定を通して日本経済の舵取りをするのが金融政策委員会の大きな仕事です。

デフレ派、インフレ派、リフレ派という言葉を耳にしたことがありますか(下記の詳細参照)? 委員会の専門家はさまざまな考えをもった人が集まり、金融関係に長く従事してきた深い経済の専門知識を蓄えた人が就任します。

これらの3つの派を1つの図で見てみると下のように考えられます。

<――デフレ派 : インフレ派――> リフレ派――>
デフレ派――通貨の供給を減らして物価の下落を推し進めようとする考え
インフレ派――通貨の供給を増やして物価の上昇を進めようとする考え
リフレ派――リフレとはReflation(リフレーション)のことで、通貨再膨張を意味し、物価水準回復を目指す考え

政策委員会(9人)の中で、デフレ派は1人もいません。インフレ派と、リフレ派が大きな発言力を持っているようで、総裁も副総裁もリフレ派だと言われています。貨幣供給をどんどん実行して、インフレを人為的に作り出そうとし、そのことを「黒田金融政策の1丁目1番地政策」と呼んでいます。しかし、そのような政策を推し進めても日本の物価水準が上昇しないのはなぜでしようか・・・・・・。

これは、貨幣戦略のメカニズムと言われる図式です。

貨幣供給の増大(Mの増大)――>物価が上昇(Pの上昇)
貨幣供給の減少(Mの減少)――>物価の下落(Pの下落)

リフレ派は貨幣の供給を増大させようと非伝統的な金融政策、「異次元の金融緩和政策」「マイナス金利政策」を実行しました。この2つの政策はこれまでにあまり使われていなかったので専門化には非伝統的と言われています。異次元の金融緩和政策については当コラムで何度も言及しましたが、簡単におさらいすると、次のようなことを意味します。日銀は一般の銀行を相手に金融操作をするのですが、一般の銀行が持っている金融商品、例えば国債などを大量に買い込むとお金が日銀から出ていくことになります。そのことを貨幣供給の増大と言い、買い入れる時、6カ月や1年という期間を決めて買うのではなく、次元を長く設定することを言うのです。要するに、日銀は「子分の金融機関」から彼らが抱えている大量の国債を長期にわたって購入し、貨幣供給の増大を図っているということを意味します。

次に「マイナス金利」についておさらいをしましよう。一般の銀行は企業や個人からお金を預かるとそのお金を日本銀行に預けます。その時、日本銀行は金利を払います。なので一般の銀行は、無理して企業などにお金を貸してもうける必要がなくなります。きちんと親分が面倒を見てくれるからです。しかし、そうすると世の中にお金が回らなくなり、景気は一向に良くなりません。そこで日本銀行は一般の銀行にお灸を据える意味から、日本銀行にお金を持ってきても金利を払うどころか、金利を取るという制度に変更したのです。(2016年1月29日より)このことをマイナス金利と言います。

しかし、問題は民間の金融機関(銀行)から、市中にお金が出回らないから物価が一向に上がらないということです。そこで、もうこの金融政策も手詰まりだと言われていますが、今のところ両政策の他に手段がないのが現実です。これらは一種の金融政策の失敗とも考えられます。

黒田総裁の金融政策はこれまで大きな効果を日本経済にもたらしてこなかったので、再任(2018年4月まで任期)はあるのかという議論が巷で盛んに論じられるようになりました。しかし、安倍首相は黒田総裁を続行させ、2人の副総裁を代えるという決定をしたため、今の日本銀行の金融政策に大きな変更はないと考えられます。

今回は、中央銀行(日本銀行)とは何か、金融行政とは何かについて考えてみました。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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