【今さら聞けない経済学】日本のGDPはなぜ増大しないのか

今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第39回:日本のGDPはなぜ増大しないのか

はじめに

今回は、上記のテーマで記述するために、まずはとても個人的なことから述べたいと思います。

本コラムを執筆する私、岡地は先の戦争中、名古屋で戦災を受け、着の身着のままで、親子5人で母の里がある愛知県三河の山深い村に疎開しました。親子といっても、母1人で、父は「行方不明」でした。原因は、私が小学校高学年になるまで分かりませんでしたが、要するに「家庭内の不和」でした。つまり、私たち一家は見知らぬ疎開先で米や野菜を作る田畑もなく、ただただわずかな配給米に頼る乞食のような「極貧」に喘(あえ)ぐ有り様でした。村の人びとの「限りないお情け」にすがって生きていたのです。

最近、思い掛けないお招きを受け、私は約半世紀ぶりにその村を訪れる機会を頂きました。そこは、日本の多くの村と同じく「限界集落」で、人の姿はほとんど見当たりません。時々見掛けるのは、年老いた人です。日本という国は、こうしていつか消えていくのかという寂しい気持ちが一瞬胸をよぎりましたが、村道で出会う人たちは昔と同じように親切で温情があり、昔のことをあれこれ話していると、つい私の胸の中から「アツイ」ものが込み上げてきました。

村の小学校の友達と転がるように毎日遊んだ「神明神社」の境内に佇(たたず)んだ時、一気に昔のことがよみがえりました。そして、思わずひざを折り両手をついてその大地に今日まで生きてこられたことへの感謝の気持ちを捧げたくなりました。

人生とは、雨の日晴れの日の繰り返し、というのでしょうか。

一国の繁栄の証

さて、話が横道にそれました。既に何度か繰り返したように、一国の繁栄や豊かさを測る時、「GDP」という物差しがあることを述べたいと思います。GDPは「一国内の『資本、労働、土地、更に技術』といった生産要素が一緒になって働き、新たに作り出した財やサービス(=付加価値)の総計のこと」を意味します。例えば、日本のGDPとは日本国内で、日本、アメリカ、オーストラリア、中国などのさまざまな国の人たちが働いて創り出した利益の総計を指します。

かつて日本のGDPはアメリカに次ぐ世界第2位でしたが、現在は驚くことにとても低い状態です。

【表1】2016年の主な国・地域の1人当たりの名目GDPの比較(単位:千ドル)

1位 ルクセンブルグ $100.4
2位 スイス $79.9
3位 ノルウェー $70.9
6位 アメリカ $57.6
7位 デンマーク $53.6
8位 オーストラリア $53.6
14位 ドイツ $42.2
15位 ベルギー $41.4
18位 日本 $39.0
19位 イスラエル $37.2
20位 フランス $36.9

表1は、日本の内閣府が公表した国民経済計算年次推計で発表されたOECDの比較表です。現在、OECDには35カ国が参加しています。それによると、2000年にはOECDの中で日本の1人当たりのGDPは2位でしたが、上の表が示すように現在は何と、いわゆる「並の国」の水準でしかないのです。1970年代の終わりから80年代にかけて日本経済は、「日出ずる国」「ジャパン・アズ・ナンバーワン」、更には「ミラクル・ジャパン(日本の奇跡)」などさまざまな敬称があり、日本経済は「不沈」を感じさせる勢いでした。21世紀に入ると、日本はもはやかつての勢いが微塵も感じられず、もしかすると今では「ごく並の国が日本だ」ということになっているのかもしれません。

なぜ、そのような状態になったのでしょうか。

GDPの大きさを測る際、さまざまな制約があります。よく例に挙げられるのが、「家庭内の主婦の労働」は一切GDPに計算されない、というものです。家庭で、主婦が朝から晩までどんなに働いてもGDPには反映されないのです。もし家政婦を雇うと、その人の1日の報酬は立派にGDPに反映されます。しかし、「お母さん」が朝から晩まで働いてもGDPの増大には何の貢献もないのです。1時間=1,000円という単価で働いたとして、お母さんはおよそ1日=1万5,000円ほどを「売り上げ」ているでしょう。

社会に出て企業でばりばり働く優秀な女性が、結婚し家庭に入り家事労働をすると、途端にGDPは減ります。家庭での仕事も立派な「労働」と見なせばGDPも増大するでしょう。しかし、それはないのです。これがGDP計算の「矛盾」です。

まだGDP計算の「矛盾」はあります。ある家庭が週に何回か友人に手伝いに来てもらったとします。その際、友人に「お小遣い」を渡すと、友人は「収入」を得ます。しかし、これはGDPに反映されないのです。なぜでしょうか。

つまり、取り引きが「市場」を通じていないのです。例えば「闇の世界」での取り引きは一切市場に反映されません。従って、取り引きがどんなに大きくてもGDPが増大することはないのです。取り引きが「市場」を経由しない、いわゆる闇取引がどれほど大きくなろうが、GDPが増大することはありません。このようにGDPの計算に表れない要因は無数にあると言われています。ざっと見渡すと、GDPのおよそ10%を占めるとさえ言われています。

日本のGDPが増大しない原因

もう一度GDPの計算について考えてみます。GDPは、日本国内で得られた収益の総計です。日本経済の移り変わりを見ると、日本のGDPがそれほど増大しない原因が分かります。

それは、「日本の企業が70年代後半から80年代に大挙して日本国内から生産拠点を海外に移した」という事実によって説明できます。例えば、70年代から起こった「日米貿易摩擦」で日本の企業、とりわけ電気産業や自動車製造産業といった日本経済の屋台骨を背負っていた企業の多くが海外に生産拠点を移したことで、日本国内では「空洞化現象」「ドーナツ化現象」と言われる経済状態が発生しました。

つまり、ある日ごっそりと工場ごと従業員も引き連れて海外へ移転してしまったのです。すると、日本にはぽっかりと「空洞」が発生し、生産力は一気に低下しました。私は80年代初めにアメリカのミシガン州デトロイトの近郷で、日本の中小企業の責任者から「親会社が突然アメリカに来たので下請けの我々も来なければならなくなった」、という事実を聞きました。

「円高」がもたらしたGDPの現象

事情は更に深刻です。かつて1ドル=360円で、ドルが高く円は安かったのです。当然、日本製品は海外でとても安かったので、「飛ぶように」売れたのです。その販売代金は日本へもたらされ、日本のGDPは増大することになったのです。

しかし、あまりにもドルが「高い」ことが原因で輸出ができないという、いわば言い掛かりを付け、アメリカは一気にドルを下げました。有名な「ニクソン・ショック」です。

当時のニクソン大統領が、「アメリカはもう世界から要求されてもドルと金を交換しない」と宣言したのです。アメリカは国内通貨であるドルを世界取引の中心にする目的で、ドルの信用を確立するためにドルと金とを結び付けました。それは「金=ドル体制」と言われ、世界経済の中心(要)でした。それもベトナム戦争の煽(あお)りを受け、アメリカ経済はだんだんと信用をなくし、それによりドルの信用も低下していきました。

そこで世界はドルを持つことが不安になりすぐに金を要求するようになったのです。アメリカの金保有が減少していき、ニクソン大統領がドルと金を交換しないことを宣言したのです。これを「ニクソン宣言」と言い、非常に大きな出来事でした。その宣言によって、急に「円高=ドル安」の構図が発生し、日本の輸出は一気に減少傾向に陥るという憂き目に遭いました。「円高=ドル安」を避けるために日本の企業は生産拠点を海外に求め、日本で物を生産しそれを輸出するという産業構造は一挙に崩壊していきました。

もう一度GDPとは何かを考えます。GDPとは、その国で、誰しもがもたらした収益を全て加えたものです。日本国内で誰もが創り出した総収益が日本のGDPなのです。日本の企業は円高が原因で海外へ出て行き、日本国内で生産することは少なくなるので当然日本のGDPは減少します。

また、日本に進出する外国企業も多くないのです。つまり、日本の円は高く、日本に進出して生産しよう、という外国企業などめったにありません。日本の企業は海外へ出て行く、日本に進出する外国企業はいない、これではどう考えても日本のGDPは増大しそうにありません。

日本経済の再生の道

それでは、どのようにしたら輝かしい日本経済を取り戻すことができるのでしょうか。これはとても難しい仕事です。考えてみると、日本は優秀な財を生産しそれを世界に輸出して成り立っている国です。その源点は、円とドルの関係であり、なぜ日本経済が立派になったかというと通貨の問題であり、円が安いことからでした。

しかし、今の世界通貨体制では円がかつてのように安い状態に戻ることはほとんど不可能です。世界経済の中で日本経済がもう一度輝かしい状態になるためには、日本の通貨である「円」を用いて、世界との取り引きを拡大することが日本のGDP増大に求められます。つまり、円による取り引きの拡大がこれからは何よりも大切だと思われます。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る