【今さら聞けない経済学】国際通貨とは何か、どの国の通貨がなるのか

今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第40回:国際通貨とは何か、どの国の通貨がなるのか

先日、自宅の勉強部屋の机の上にある旧式の電話が鳴り、何か急用でも起こったのかと高鳴る胸を押さえながら受話器を取ると、いきなり英語が聞こえてきました。「ミスター・オカチ、キーノート・スピーカー(Keynote Speaker)をして欲しい」という、旧知の韓国の大学の教授からの依頼でした。その教授は、自分が中心となって資金を集め人脈も構築し、世界で学会を既に19回も開催している人で、その第20回目を大阪で開催するから、私にその冒頭で短い基調講演をして欲しい、という依頼でした。

世に「晴天の霹靂(へきれき)」という言葉がありますが、まさにその言葉通りでした。キーノート・スピーカーは高い学問的業績を積み、世の意見を引っ張っていくような研究者が行うのがこれまでの慣わしです。私などに、その任が回って来るわけなどないのです。

しかしこの教授は、自身の大学に客員教授として招待してくれ韓国の大学で研究生活を送る、というすばらしい体験を私にさせてくれました。私にとっては言わば「義理のある先生」、むやみにお断りするわけにもいきません。そこで、恐る恐る勇気を出してその大任を引き受けることにしたのです。

私はその学会の冒頭で「ABENOMICS: Its Success or Failure」というテーマで話をしましたが、その任を終えた後は、どっと疲れが出たことは事実です。

「国際通貨」とは何か

さて、今回は国際通貨がどのようにして誕生し、またどの国の通貨が国際通貨となるのか、という問題を中心に考えてみたいと思います。

国際通貨とは、世界の財とサービスの取引で用いられる通貨のことです。ある国が、「今日から私の国の通貨は国際通貨だぞ」と言っても世界で通用するはずがありません。

まず国内通貨はどの国も持っています。自国での取引だけに使われる通貨が国内通貨だと、国の法律によって規定しているのです。例えば日本は「円」が国内通貨です。日本では「円が通貨だ」、そしてそれは「強制通用力がある」と法律で規定されている法定通貨です。

誰かがお店で買い物をして1万円札で支払おうとする時、お店の人が「あなたのお金は受け取れない」とは言えないのです。なぜなら、お金には「強制通用力」があるからです。もし外国の人が日本で買い物をし自国のお金で支払おうとすると、お店の人はそのお金は受け取れないと言えます。そのお金は日本において強制通用力がないからです。

一般に、貨幣の機能(役割)は、①価値尺度(または、計算単位)、②支払い手段、③価値保蔵手段、という3つの「機能」が備わっていると言われています。例えば日本の通貨「円」は、日本社会でこれらの機能をしっかりと付帯させているので、たとえ「紙切れ」であっても人びとは「紙幣」を欲しがるのです。時として「愛よりもお金が欲しい」、などとも言われます。

「地獄の沙汰も金次第」とも言われていることを人びとは良く知っています。それは洋の東西を問わず同じことが言えます。

国際通貨と国民通貨の違い

ある国のお金はその国でしか通用しないのが経済の道理です。余程のことがない限りA国の通貨がB国でも使える、ということはあり得ません。皆さんは日本からオーストラリアへ行く際、日本円からオーストラリアの通貨・豪ドルに、空港や街にある通貨交換所で交換をするでしょう。さもないとオーストラリアでは日本円だと食事もできません。

円と豪ドルを交換する時の「基準」はどうするのでしょうか。適当に交換することもできません。そこで、円と豪ドルを交換するときの「基準」となるのが「国際通貨の役目」なのです。かつて、その基準は「金」でした。以前に本連載でも一度、「金本位制」について述べたことがあります。

19世紀から20世紀前半にかけて、世界経済は「金本位制」で成り立っていたのです。金本位制とは、国の通貨の発行を「金」を基準に決めていたのです。これだけの金をこれだけの通貨と同じ価値基準にするという制度です。通貨はたかが紙切れですが、その価値は金によって裏付けされており、下図によって成り立っていたのです。

上図のように、各国の通貨価値は金によって固定され、金が通貨発行の肝心要だったのです。これを「金本位制」と言います。金は絶対的な価値を持っていたので、金と結び付いている通貨の価値もしっかりとしたものでした。世界の通貨がこのようにして結ばれていたのです。従って貿易もとてもやりやすく、各国はお互いの支払いを金で実行し、金が入ってきた国はそれに基づいて自国の通貨を印刷すれば良いのです。つまり金本位制の下では、例えば日本円を持つことは金を持つことと同じだったのです。

そのような制度で世界経済は成り立っていたのです。

金本位制からのドル本位制へ

しかし、よくよく考えてみると、世界の国々の経済状態は「金のあり・なし」によって強く束縛されることになります。金をたくさん持っている国は、多くのお金(貨幣)を印刷でき金回りが良くなり、金がない国はお金(貨幣)を作り出すこともできません。

そうした「不便の経済制度」を止めてしまい、各国は自国の通貨発行を金に依存しないでおこう、という制度を取り入れることにしたのです。これを「管理通貨制度」という名前で呼びます。通貨発行はその国の通貨当局の裁量に任せよう、というものでお金は一見ただの紙切れなのですが、されどお金であり、法律により強制通用力を付けさせたのです。従って、通貨は通貨当局の裁量によってどれだけでも印刷できるようになったのです。

しかし、世界で貿易をする時に明確な基準がないと国同士で通貨を交換する時にとても不便です。そこで通貨の交換基準をアメリカのドルを中心にしよう、という制度を作ったのです。つまりアメリカのドルを中心にして各国の通貨価値を決めたのです。それが、次のような図です。

上図で示されているように、金1オンスを35ドルという値段で金とドルをしっかりと結び付けてその周りに各国の通貨を並べたのです。すると円から豪ドルへいとも簡単に交換できるのです。これが戦後の国際通貨体制の1丁目1番地だったのです。これを「金・ドル体制」と一般に呼び、それにより国際通貨体制は固定相場制が確立されたのです。第2次大戦で大した傷を負わなかったアメリカは、戦争で培った技術をふんだんに使いこなし世界の富をほぼ一手に収めたのです。それによって金をたくさんため込み、莫大な金によって上図の通貨制度を構築し、世界経済はまさにアメリカの「手中」に存在した、といっても過言ではありませんでした。

金・ドル体制の崩壊

世界経済で絶対的な地位を占めていたアメリカも1960年中頃に入ると、あの忌まわしいベトナム戦争に本格的に介入し、「瀕死(ひんし)の重傷」を負ったのです。それまで絶対的に君臨してきた世界経済における力も急速に衰え出し、当時「アメリカよ、どこへいく」とまで言われました。

世界での信用も、アメリカの通貨ドルの信用も地に落ちてしまい、とりわけヨーロッパ諸国はドルへの信用を低下させてしまい、「ドルよ、さようなら、金よ、こんにちは」、という言葉まで人びとが口にするようになりました。

ドルを受け取るとすぐに金と交換し、アメリカがため込んだ金の山は見るも無残な状態になり、アメリカは世界に向かって叫んだのです。「もうアメリカへドルを持ってきても金とは交換しない」と。これが世界を震撼(しんかん)させたあの有名な「ニクソン声明」であり、それに端を発して、世界の国際通貨体制は大きく転換することとなりました。

ニクソン声明で世界の通貨体制は大きく変化、人びとは「ニクソン・ショック」と呼び、世界の通貨体制は大きな転換を余儀なくされたのです。「1971年8月15日」のことでした。これが原因となり「固定相場制」から「変動相場制」へと世界の通貨制度は変革していったのです。本格的な変動相場制の導入は1973年の春ごろでした。

「円安」から「円高」への転換

日本は1ドル=360円という「超円安」のお陰で、日本が作るほぼあらゆる製品はアメリカで安く売れ、輸出が「絶好調」の状態が長く続きました。日本のGDPの増大に大きく貢献し、世界でGDP第2位の地位まで上り詰めました。

しかし、この為替相場もあの忌まわしい「ニクソン・ショック」に端を発し1ドルが一気に300円となり、更に260円から200円となり、ついに2011年10月25日には1ドル=75円73銭、という「超円高」状態に突入するという現象も起こりました。その時、いよいよ日本経済もこれで「おしまいか」という声も巷(ちまた)では方々から聞こえました。現在、少し回復したものの1ドル=110円近辺をうろうろしている状態です。日本経済は「外圧に弱い」と言われていますが、案外このことを意味していると考えるのが妥当です。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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