【今さら聞けない経済学】経済を成長させる要因について

今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第42回:経済を成長させる要因について

はじめに

本連載を始めて今月でちょうど3年半になります。連載のお話を頂いた時、1年ほど執筆できればうれしい、という気持ちで引き受けました。私にとって3年半も継続できたことはうれしい限りで、毎回、励まして頂いた日豪プレスの皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。そして、毎号この連載に目を落としてくれる読者の皆さんに心から感謝したいと思います。

さて、今年の日本は大型台風の来襲、北海道ではM7の強大な地震が襲い、多くの人たちが大きな被害を受けました。本当に気の毒な気持ちでいっぱいです。日本では恐ろしいものに「地震・雷・火事・おやじ」がありますが、現在の世の中は、「おやじ」を恐ろしいものだと考えていないので、「恐怖の3要素」のうち、日本という国は自然の災害から逃げられません。日本で生活するために絶えず、いざ、という時のための蓄えを増やし、お互いに労(いたわ)り合い生活を営まなければなりません。

そんな日本では、人びとが日々の生活を幸福に営むために国が限りなく経済成長を遂げる必要があります。それを成し遂げるために人びとは励まなければなりません。そこで、今回は限りなく成長を遂げるための基本的な条件について考えてみます。

成長の基本的な条件

経済が成長を遂げていくために、生産の基本条件として「生産要素の賦存(ふそん)」が考えられます。それは「生産要素」と言われ、「資本・労働・土地」が挙げられます。最近、経済の理論ではこれらの3要素に「技術」が加えられ、いわば生産の4要素とも言われています。これらの要素の賦存状態で、国の経済状態(経済成長)が決定されると考えられます。

しかし、これらのうち「土地」は物理的に拡大させることは、ほぼ不可能です。また、「労働」の増大も人口移動がない限り容易ではありません。現在どの国も、労働者の「自由な移動」を現実的な政策だ、とは考えていません。

国が限りない成長を遂げていくためには、生産要素の中で、「資本の増大」と「技術水準の向上」が考えられます。この2要素を増大させることで、国の経済を成長させていかなければなりません。そこで、今回は資本の増大政策の必要性に問題を絞って考えていきましょう。

経済学では、「人びとが消費(Consumption/C)をする、更に民間企業がどんどん買ってくれる、つまり投資(Investment/I)を一層増大させる」ことで生産は増大すると考えます。それを式で表すと以下のようになります。

①:Y=C+I
②:S=Y-C

①式は、「国民所得決定式」と言われ、経済学の基礎を知る上でとても大切な式です。まずYとは総生産のことを意味し、経済学ではいわゆる「儲け」「所得」であり、これをYで表します。Yは「Yield」という英語から取っており、Yieldは「儲け」「収穫」という意味を持っています。

②式は、所得(Y)から消費(C)を差し引いた残りが貯蓄(Saving/S)だと分かります。つまり人びとの貯蓄は所得の中から消費に使った残りの部分である、ということです。

更に、①式と②式から以下のような式が得られます。

③:S=I

③式は、経済の基本的なことを考える上でとても大切なことを教えています。それは、1国の経済の中で、人びとがもたらす貯蓄額(S)は投資額(I)に等しい、ということを意味しているからです。つまり、貯蓄(S)が増大すると投資(I)が増大する、ということです。また、貯蓄が減少すると投資も下がる、ということも意味します。

これが、経済学でいう経済成長の基本理論です。どの国でも投資の増大がないと国の経済は発展しません。投資が「天から降ってくる」ということは絶対にないのです。国民が汗を流して稼いだ賃金の中から振り分けた貯蓄が投資となって経済を発展させる、というのが経済学の基本的な教えです。

人びとが働いて稼いだ賃金の中から幾分かを銀行に貯金し、銀行はそれを企業に融資します。人びとの貯蓄の増大が投資の増大をもたらし、国の経済を成長させる、というとても大切な発展要件なのです。

日本の経済成長が衰えた原因

かつて日本経済は、「Japan as No.1」「21世紀は日本の時代」などと世界の人たちから尊敬と羨望の眼差しで見られていました。私が1965年に初めてジョージア大学へ行った時、ジョージア州の人びとは私を「日出国からようこそ」と言って迎えてくれました。それから何度もアメリカの大学へ研究のために訪れましたが、その都度、アメリカの人びとは日本経済を羨望の気持ちで眺めていました。第2次大戦に完全に負けた日本は、国土は焦土化し、技術はないに等しい状態にまで落ち込みましたが、1960年代中頃になると「奇跡の復活」を遂げます。その要因は何だったのでしょうか。

まず、生産の要素である資本の存在量が大きな成長要因だ、と言えます。先程、人びとは汗を流して労働し、その対価として賃金を受け取り、貯蓄するという経済行動を取る、と述べました。銀行での貯蓄残高が増大すれば、それが投資となって企業に振り向けられ、そこで生産が増大し国は発展をする、というのが経済学の教えです。

今、私の手元に貴重な資料があります。日本政府(内閣府)が発行する「経済財政白書」(平成30年度)という日本経済の姿を示している統計資料です。同資料によると、日本経済は1990年代に突入した大デフレ状態から少しずつですが、回復しつつあるという現実がかすかに見えるようになりました。

また、この資料から日本経済の変化と家計貯蓄率の関係が読み取れます。「もはや戦後ではない」という言葉の下、戦後の荒廃から奇跡的に立ち直りを見せ、1964年にはオリンピックまで開催し、大成功を収めた日本経済の急速な復興を実現させた要因は、まさに日本人による「貯蓄率の高さ」にあったのです。

1960年代には、表が示すように、家計貯蓄率が15.5%でした。戦後まだ15~20年しか経っていないのに既に日本人は月給の16%ほどを貯蓄に回していたのです。驚くほど高い貯蓄率です。日本人が貯蓄に励むのはそれなりに原因があるようですが、それにしても高い貯蓄率です。これほどの高い貯蓄率は、おそらく世界で類を見ないでしょう。

その貯蓄残高が一斉に投資となって産業界に流入しました。そこで③式で見たように貯蓄高の上昇が投資の増大をもたらす、という経済理論の基本が成り立つのです。

【表】日本の実質生産比の変化と家計貯蓄率の関係 平成30年度:「経済財政白書」(内閣府)

年度 実質生産(GDP)の成長率 家計貯蓄率
1960 12.0% 14.5%
1965 6.2% 15.8%
1969 12.0% 17.1%
60年代平均対前年度比 10.4% 15.5%
1970 8.2% 17.7%
1975 4.0% 22.8%
1979 5.1% 18.2%
70年代平均対前年度比 4.9% 20.4%
2008 -4.1% 2.4%
2010 1.5% 3.7%
2017 1.7% 2.2%
(2016年)
21世紀初頭の平均対前年度比 1.2% 2.1%

表は実質生産(GDP)の変化と家計貯蓄率の変化との関係を示しています。日本経済の成長率は1960年代で、年率にして10%以上を示していました。統計的には、現在10%の成長率を毎年達成すると、10年間でGDPがちょうど2倍に増大します。そんな成長率も2000年代に入ると急に低下し、時としてマイナス成長さえ示すようになりました。08年の経済成長は大きくマイナス4%という異常な値を示していますが、有名な「リーマン・ショック」の影響をまともに受けたのが原因です。

それにしても日本人の貯蓄率の大きな落ち込みようには本当に驚くばかりです。1970年代には20%の高率を誇っていた貯蓄率も2000年代になると、何と10分の1の2%台という低さなのです。「2%」という値は、現実的にほとんどなきに等しい、と言えるのではないでしょうか。つまり現在の日本社会は「貯蓄ゼロ」という家計が多いというのが現実です。

もう一度③式を見てみましょう。経済成長の基本的要因は「S=I」という簡単な式によって考えられます。貯蓄(S)が増大すれは投資(I)が増大し、それによりGDP=国内総生産は増大します。貯蓄の増大こそ、国の経済成長にとって「基本的な条件」だ、と言えます。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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