【今さら聞けない経済学】アベノミクスの経済政策と「3本の矢」

今さら聞けない経済学

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日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。

第2回 アベノミクスの経済政策と「3本の矢」

1945年に終結した第2次大戦で日本は壊滅的な打撃を受け、日本経済の再興はもはや不可能とまで考えられていました。そのわずか23年後、68年には日本のGNP(国民総生産。当時はGDPとは言いませんでした)は世界で第2位となり、「日本の奇跡」と驚嘆の声が上がりました。70年代の初めには、世界の経済研究者たちから「Japan as No.1」とまでもてはやされるようになり、そんな声に日本中が酔いしれる状態になりました。

そんな日本に、誰も想像していなかった「魔の手」が忍び寄って来たのです。それは円高という問題。この円高が日本を世界経済の頂点から「並の国」へと陥れたました。円高は80年代後半から日本を襲い、それによって「大デフレ」という経済状態に突入したのです。以降、日本では「失われた20年」という言葉が人々の胸に突き刺さりました。そんな経済状態から日本を脱却させようとして始まったのがアベノミクスです。

ここで、なぜ日本に「円高」問題が襲ってきたのかを明らかにしておきたいところですが、その問題については次回、理論的に考えることとします。その前に今回はまず、目下日本だけでなく世界経済においても問題となっているアベノミクスの本質について考えていきましょう。

アベノミクスの3本の矢

安倍政権の経済政策は「3本の矢」に例えられます。日本では昔から、矢を手折ることについて「1本の矢は簡単に折れてしまう、2本の矢も力を加えればすぐに折れる、しかし3本の矢を束ねればどんな力にも耐えられる」と言われています。アベノミクスでは、大デフレからの脱却を目論み3本の矢となる戦略を構築しました。

3本の矢に例えられたアベノミクスの実際の内容は、次の3つに要約されます。

(1)異次元の金融緩和
(2)大胆な財政支出の出動
(3)成長戦略の遂行

それぞれの戦略について、1つずつ見ていきましょう。

(1)異次元の金融緩和

まず、金融政策とは、日本銀行が民間の銀行を通して行う政策です。一般的に「日本銀行は国家機関であり、そこに勤めている人々は公務員だ」と思っている人が少なくありません。しかし日本銀行は日本銀行法によって、「日本銀行は独立した法人である」ときちんと定義されています。資本金は1億円で、その55パーセントは政府から、45パーセントは民間からの出資とする、とも明記されています。また日本銀行の株は株式市場で売買されており、正式な株式会社なのです。したがって日本銀行で働く人々は公務員ではありませんね。

日本銀行の最も大切な仕事は、この日本銀行法によって通貨の安定を図ることとされています。つまり、日本銀行の役割は民間の銀行のトップに立って、通貨の出し入れを通して物価と日本経済の安定を達成していく、ということです。

さて、日本銀行が実施する政策を「金融政策」と言うのですが、これは次のような仕組みで実施されます。

一般の銀行は必ず、日本銀行に「当座預金口座」を持っており、この預金口座にお金が入るとそこからお金が社会に流れていく、というシステムになっています。例えば日本経済が大不況、つまりデフレという状態に置かれているケースを考えましょう。デフレの際、日本銀行は、日本銀行にある一般の銀行の当座預金口座に「お金」を入れます。すると一般の銀行を通じて企業、団体、市民といった人々にお金が十分に流れていき、取り引きがより円滑に進むようになり景気が回復する、というシステムです。

また、世の中がインフレで悩んでいる時は、日本銀行は市中に出回っている過剰な通貨を吸収してしまうのです。すると通貨不足という状況が作り出され、加熱した景気が一旦冷やされることによって、物価の上昇が抑えられることになります。以上が日本銀行が実施する金融政策のあらすじです。

日本が大不況から脱出するために主として採られている「異次元の金融緩和」ですが、なぜ「異次元」などという耳慣れない言葉が使われるのでしょうか、またここでいう異次元とは一体何を意味するのでしょうか。

日本銀行はこれまで、一般の銀行が日本銀行に持っている当座預金口座にお金を入れる際、1年や6カ月などの短い期間に区切ってお金を入れてきました。けれどもそれではあまりお金が市中に出回らないので、3年や5年など長期に渡り、つまり、次元を越えてお金を導入しようとしたのです。次元を超える、これが「異次元」ですね。異次元に渡ってどんどん市中にお金を供給することでデフレを克服しようとしたのです。

アベノミクスでは当初、異次元の金融緩和によって2年でデフレを克服し、2パーセントの物価上昇をさせることを目論見ました。まず物価を上昇させ、企業の収入を増大することによって労働者の賃金を上昇させ、同時に消費支出をも増大させ、経済を活性化しようとしたのです。それによってGDPの成長を3パーセントまで達成しようとしましたが、現実にはそう上手くはことが運びません。なぜでしょうか。その理由の1つである供給と需要の問題についても探っていきましょう。

(2)大胆な財政支出の出動

経済の仕組みを見ると、供給と需要に分かれます。供給とは、生産、つまり「物を作る」ということ、そして需要とは、消費、つまり「物を買う」ことです。

「供給>需要」という状態になれば、経済はデフレの状態になります。また「供給<需要」という状態になれば、経済はインフレの状態になります。そこで大切なのが「供給=需要」という状態になることなのですが、そう簡単にはそのような状態になりません。

今、日本経済は「供給>需要」という状態ですので、まずは需要を増大させなければなりません。この需要の内訳を見ると、一般の消費、民間の投資、そして政府支出(政府が物を買うこと)の3つから成り立っています。現在、これらの3つのうち一般の消費は、経済の低迷で賃金が上がらないため、上昇しません。また企業も景気が悪いのでそうそう工場などは作らず、つまり民間の投資も増大しないということです。すると需要を増大させるためには、政府支出の増大がとても重要になってきます。これが、アベノミクスの提示する「大胆な財政支出の増大」にあたるものです。

しかし日本政府は、世界でもこれほどの借金をした政府はない、と言われるほどの大きな借金をしているため、なかなかこれ以上財政支出を増大できそうにありません。だから、アベノミクスはなかなか効果が出ていないのです。

(3)成長戦略の遂行

成長戦略として挙げられている方策を見てみましよう。まず考えられている方策は、女性労働の活用です。よく言われているように、日本経済における女性労働の活用比率は先進国でも最低水準です。そこで女性が働きやすい労働環境を作ろうとしています。女性の幹部登用比率を上げること、託児所の整備を進めて既婚女性の労働参入の促進をすることなどが考えられています。

さらに、日本人の質的優秀さを高めるために「世界大学トップ100」に日本の10の大学を入れようとしています。それに加え、ヒト、モノ、カネの自由化の促進によって日本の食糧輸出を増大させること、電力関係投資を30兆円規模で増大させること、また、公共投資の補完としてPFIという民間事業資金を10兆円以上活用して経済事業を活性化させること、などが検討されています。これらは「戦略項目」ですので、果たして本当に実現可能かどうかはひとえに政府の指導にかかっています。

以上がアベノミクスの「3本の矢」です。次回は、アベノミクス登場に至る状況を生み出した「円高」の原因などについて考えてみたいと思います。


岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了、フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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