第10回オーストラリアの独禁法−Trade Practices Act 1974(取引慣行法)(TPA)とは ?

企業法務Q&A

第10回
オーストラリアの独禁法
−Trade Practices Act 1974(取引慣行法)(TPA)とは ?

ブレーク・ドーソン法律事務所
パートナー弁護士 イアン・ウイリアムス
弁護士 松浦華子
Q
 私は最近、日本からオーストラリアの子会社に赴任して来ました。こちらで締結する契約に「Trade Practices Act 1974」という法律がよく出てきますが、これは日本の独禁法に当たる法律だという理解で正しいですか ? この法律はどのような法律なのか概要を教えてください。

A
 これは、「Trade Practices Act 1974(取引慣行法)(TPA)」という連邦法で、主に①事業者間の公正な競争と取引を促進することと、②消費者を保護することを目的としており、オーストラリア競争消費委員会(ACCC)がこの法律の遵守を監督しています。
 法律の目的と内容から、日本の「私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律」(いわゆる独禁法)に概ね対応するものと考えればよいでしょう。
 この法律は、商品の製造やサービスの提供をする企業・個人だけでなく、商品をオーストラリアに輸入し販売する企業・個人にも適用されます。また、株式・営業譲渡にも適用されることもあります。このように、ビジネスの多くの場面で幅広く適用される法律です。
 本記事では、
・どのようなことがTPAに定められているのか
・ACCCにはどのような権限があるのか
・TPAに違反するとどのような不利益が生じるか
 について概要を説明したいと思います。
具体的には、どのようなことがTPAに定められているのか
 大きく、公平な競争を促進することを目的とする法規と、消費者を保護することを目的とする法規に分類されます。数多くある禁止規定のうち代表的なものを以下に列挙します。
1. 競争を促進することを目的とする主な法規
(1)価格カルテル(price fixing)の禁止
 例えば、競争相手と価格、値引き幅、割引の中止などについて合意すること。
(2)市場分割カルテル(market sharing)の禁止
 例えば、競争相手と顧客の分割について合意すること。
(3)不当な取引拒絶(collective boycotts)の禁止
 例えば、競争相手との間で特定の事業者と取引しないことを合意すること。
(4)不当な排他条件付取引(exclusive dealing)の禁止
 例えば、自己の競争相手から商品を購入しないことを条件に、取引相手に商品を売ること。ただし、この行為は、競争を実質的に減らす意図や効果がある場合のみ違法。
(5)取引相手と第三者との間の取引の拘束(third line forcing)の禁止
 例えば、第三者からの商品購入を条件に取引相手に商品を販売すること。ただし、取引相手に第三者の商品を推薦すること自体は必ずしも違法ではありません。
(6)再販売価格維持行為(resale price maintenance)の禁止
 例えば、製造者が小売業者の販売価格を一定金額以上に義務付けること。ただし、販売代理店の場合は、再販売ではないので自由に価格設定できます。
(7)市場支配力の濫用(misuse of market power)の禁止
 例えば、市場支配力を持った事業者が、市場の競争をなくす目的で、取引先に部品などの供給を拒むこと。ただし、部品が在庫不足であるなどのビジネス上の正当な理由がある場合は、市場支配力の濫用とみなされません。
(8)市場における競争を実質的に減らすような合併や営業譲渡、株式取得などの禁止
2. 消費者を保護することを目的とする主な法規
(1)誤解を招く行為(misleading conduct)/欺瞞的行為(deceptive conduct)の禁止
 例えば、製品やサービスに関して虚偽または不完全な説明をした場合や誇大広告やおとり広告での販売をした場合。誤解を招く行為をしようとしたかどうかという意図や目的がなかったからといって、裁判で罪を免れることはできないので注意が必要です。また、この禁止事項は幅広くビジネスの場でも適用され、例えば会社が契約締結前に行う表明事項について「誤解を招く表明を行った」として追及されることがしばしばあります。
(2)非良心的な行為(unconscionable conduct)の禁止
 例えば、取引相手の英語の読解力や理解力が欠如していること、経済的困窮状態にあること、独立の法的アドバイスを得られる状況にないことなど、取引相手の弱い立場につけ込んで、取引すること。また、会社間のビジネス取引についても同様の規定が適用されます。
(3)消費者に対する商品・サービスの黙示の保証(implied warranty)
 これは、製造者/輸入販売者が一般消費者に、4万ドル未満の商品・サービスの売買する時、または個人・家庭での消費を目的に商品・サービスの売買をする時は、商品が商品本来の目的に適合していることや、サービスが適切な注意と技能をもって提供されていることを黙示に(つまり、例え契約書にその旨が記載されていなくても)保証する義務があるということです。また、この保証は、強制適用されますので、たとえ消費者と「このような保障の適用を除外する」という契約を締結しても排除することはできません。また、製造者/輸入販売者は一般消費者に対して製造物責任も負います。
ACCCとは何か。また、どのような権限があるか
 ACCCは、オーストラリア競争消費委員会(Australian Competition and Consumer Commission)の略で、TPAの遵守を監督する連邦機関です。日本の公正取引委員会に対応する機関と考えていいでしょう。
 ACCCには、幅広い権限が認められており、主な権限としては、違反の疑いがある場合は、①取り調べのために呼び出しをすること、②関連するEメールや秘密書類の提出を命じること、③会社の敷地に立ち入り、関連書類を差し押さえるため捜査令状を取得すること、④カルテルの疑いがある場合、捜査の目的で電子通信を傍受すること、またその記録を裁判の証拠として使用すること、⑤企業や従業員をTPA違反で起訴すること、などができます。
TPAを違反すると、どんな不利益が生じるか
<罰金>
 罰金は、競争促進法(例えば企業がカルテル禁止条項)に違反した場合は、
・1,000万ドル、または
・カルテル行為により得た利益の合計額の3倍、または
・利益の金額が不確定の場合は、その企業グループの過去12カ月の売上高の10%
 のうちいずれか最も高い金額の罰金が科される可能性があります。
 また、消費者保護法に抵触した場合、法人には最高110万ドル、個人には最高22万ドルが科される可能性があります。
 罰金は、1つの取引でも各TPA違反ごとに罰金が科されていくこと、法人と個人とは別個に罰金が科されること、さらに個人が罰金を科された場合、会社は補償しないということに注意が必要です。
<罰金以外に裁判所が下す命令>
 罰金以外に裁判所が下す命令の例としては、以下が挙げられます。
・TPAに違反する行為の差し止め、または是正命令
・損害賠償命令
 そのほか、会社・従業員は、
・事実関係の調査やACCCへの対応、さらに訴訟手続などに多大な労力と時間、さらに多額の費用を費やさなければならないこと、
・会社・従業員の評判や名声が毀損されること、
 などの不利益を被ることがあります。


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