第30回 財産権担保権法(PPSA)が資源開発事業に与える影響

第30回 財産権担保権法(PPSA)が資源開発事業に与える影響

ブレーク・ドーソン法律事務所
パートナー弁護士 イアン・ウイリアムス

豪州三井物産
リーガル・カウンセル 松浦華子

Q 私は日系企業の現地子会社の役員で す。当社は豪州において主に資源開 発の合弁事業に参加しています。財産 権担保権法が2012年初めに施行になると聞きましたが、当社の事業に影響はあるでしょうか?

A 財産権担保権法(Personal Property Securities Act 2009(Cth))(以下 「PPSA」)は、2012年1月30日に施行定です。PPSAの影響は金融業者に限られると考える方が多いようですが、資源開発参入企業を含め、実質的にあらゆる企業が影響を受けますので注意が必要です。

本稿では、特に、PPSAが資源開発に参入する企業に与 える影響の概要をご説明いたします。

1. 財産権(personal property)とは

PPSAの概略については、本連載第22回「新しい財産権担保権法とは?」で説明致しましたが、PPSAの対象は広範で、原則、土地・建物と一部の例外を除くすべての財産権に設定される担保権が対象となります。

豪州の各州・準州では、鉱業権(mining tenements)や 石油掘削権(petroleum permits)など一定の法定ライセ ンスはPPSAの財産権には該当しないとしているものの、 抽出した鉱石などの資源開発に関わる財産権はそのほか にも数多くあり、PPSAの適用対象となります。

2. PPSAの広範な対象範囲

PPSAにおける「担保権」は、固定/浮動担保権(fixed and floating charge)、譲渡担保権(mortgage)、および動産に関する買取選択権付賃貸借契約(hire-purchase agreement)、委託販売契約(consignment)、動産リースなどの財産権に設定されるほか、「実質的に」債務を保証するそのほかのさまざまな種類の取引においても生じることがあります。

さらに、PPSAは、必ずしも債務の実行を保証しないような取引にも適用され、これには、例えば、売掛債権 の譲渡、販売委託(commercial consignment)や動産の 短期リース(例:90日以上の車両リース)(以下「PPSリース」)が含まれ、これらの取引は「みなし担保権 と呼ばれます。

PPSリースには、(ア)1年以上の動産リースと、(イ)(自動車、航空機、船舶などの)識別番号付き財 産の場合は90日以上(いずれも延長・繰越期間を含む) にわたる財産のリースが含まれます。資源開発では膨大な数のリース取引が行われますから、担保権にPPSリースが含まれることは重大な意味を持ちます。

3. 資源開発において影響を受ける取引

PPSAでは、資源開発における以下の取引が主にPPSAの適用範囲に該当します。該当する場合、登記などの対 抗要件の具備(※下記参照)が必要になります。

 

クロス・チャージ(cross charge)
 鉱業合弁事業の契約においては、しばしば、「Deed of Cross Charge」 という契約の下で、鉱業権に対する譲渡 担保や、合弁事業の各資産に対して参加企業が相互に担保を設定し合うことで、当事者債務を保証します。クロス・チャージは、以下の事業資産にも及び、PPSAの対象となることがあります。

・採掘や抽出用のプラント機械・設備類
・抽出した鉱石(ストックパイルを含む)、加工された金属
・当該合弁事業に対する第三者の未払い金(現金および売掛金など)

 

所有権留保(retention of title (RoT))
 また、プラント機械・設備類(トラックや発動機)の リースやRoT条項付き売買は、PPSA上の担保権となり ます。これらの取引は実質的に金融取引であり担保権とみなされます。RoT条件付き売買の場合、売却商品への所有権を留保するという契約のみでは足りず、登記などPPSAに遵守した対抗要件を具備しなければ、担保権を有効に保護・実行することはできません。

 

固定/浮動担保権(fixed and floating charge)
 資源開発事業者は銀行の融資を受けていることが多く、この場合、融資元の銀行は、合弁事業の財産権に対して固定/浮動担保などの担保権を設定します。銀行は、融資の前に、合弁事業者が事業の資産についてPPSAを遵守していることを求めると思われます。

 

売却信託(trust for sale)
 合弁事業契約(joint venture agreement)では、いわゆる「売却信託」やそのほかの債務不履行の仕組みが担保権に該当するかどうかを検討する必要があります。売却信託とは、合弁事業において一参加企業に債務不履行があった場合に対応する仕組みです。例えば、ある参加企業が(規定に従った出資を行わないなど)合弁事業における義務を怠った場合、その企業の鉱物の持ち分をオペレーター(合弁事業管理者)が信託で保持し、売却後の収益を当該債務の補てんに充てる、というものです。

 

対抗要件の具備−PPSR登記
 担保権に対抗要件を具備する(第三者に対抗する) ためには、通常、PPS Register(PPSR)」という新 しい全国オンライン・システムで、画面上の「financing statement」と呼ばれる書面を作成し登記することが必要です。対抗要件を具備しないと、担保権者は下記の者に対して財産権担保権の優先権を失うことがあります。

・同一の財産権に対して担保権の対抗要件を具備しているほかの担保権者(通常、銀行。担保権設定者の資産に対する固定/浮動担保権を持つことが多いため)
・担保権設定者の資産に関して任命された清算人または管財人
・担保権設定者から財産権を購入またはリースしている第三者

4. 資源開発業界にとっての意味

資源開発に携わる企業は、PPSAが事業活動に与える影響を注意深く検討する必要があります。自社の契約が同法の要件を満たしPPSAによって受ける保護を最大限にするためには、資源開発事業者は同法施行後に締結する契約だけでなく、同法施行前に締結済みの契約も検討する必要があります。

 

合弁事業に参加している企業がすべきこと
 合弁事業としての製品販売、設備リース、借入・担保など、合弁事業全体に対するPPSAの影響はおそらくオペレーターが検討・対処するかもしれませんが、ご質問者のような合弁事業に参加している各企業は、(合弁事業全体としてのPPSA遵守とは別に)合弁事業関連契約において存在する自社の担保権を確認し、他社の債務不履行または倒産に備えてそれらを登記する必要があります(オペレーターが各参加企業のために登記をすることは通常ありません)。例えば、上記で触れたクロス・チャージの場合、各当事者(参加企業)が担保権を相互に登記する必要があるでしょう。

 

契約書の公開
 さらに留意が必要な点は、取引がPPSA上の担保権を構成する場合、同じ財産権に担保権を有する他社は当該取引の契約書のコピーを請求できることです。PPSA上の担保権を生む合弁事業契約書やそのほかの契約書に商業的な機密情報が含まれている場合は、その情報を担保権とは別の契約書に移した方がいいでしょう。

資源開発に携わる企業にとっては、自己の財産権上の権益に対する妥当な優先権を確実に保持するため、PPSAの機能を理解することは重要です。

なお、本稿は表題に関する一般情報に過ぎず、個別の状況には該当しないことがありますのでご注意ください。

※本記事に関する意見・質問は下記まで。
イアン・ウイリアムス  Email: ian.williams@blakedawson.com
ライオネル・ミーハン  Email: lionel.meehan@blakesdawson.com
松浦華子  Email: Ha.Matsuura@mitsui.com

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る