第34回 スーパーアニュエーション負担率の上昇および遠隔地勤務手当て制度の変更が及ぼす影響

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第34回 スーパーアニュエーション負担率の上昇および遠隔地勤務手当て制度の変更が及ぼす影響

ベーカー&マッケンジー法律事務所
パートナー弁護士 リチャード・ラスティグ(左)
シニア・アソシエイト エリザベス・タイスハースト(中)
シニア・アソシエイト 辻本哲郎(右)

Q 当社には日本からの駐在員を含めて多数の従業員がおりますが、近時のスーパーアニュエーションの雇用者負担率の増加および遠隔地勤務手当て制度の変更は、企業にとって人件費の大幅な増加につながるものであると聞いております。これらの変更との関係で、企業が留意すべきことがあれば教えてください。

A 連邦議会は2012年3月29日に「Superannuation Guarantee Act(以下、「SG法」)」の改正を可決し、その中でSuperannuation Guarantee Charge(以下、「雇用者負担率」)を、現行の9%から12%まで段階的に引き上げることを決定しました。また、政府が12年5月8日に決定した「Federal Budget 2012/13」では、これまで海外企業が多くの恩恵を受けてきた遠隔地勤務手当て(以下、「LAFHA」)に係る税制上の優遇措置についての大きな変更が組み入れられ、今後、海外からの駐在員が同優遇措置を受けることは非常に困難となりました。

これらの変更は、従業員と締結している雇用契約の内容次第では大幅な人件費の増加につながるものであり、企業としては各従業員との報酬条件などについて再確認することが重要であると考えられます。

1. スーパーアニュエーションの概要およびその変更内容

スーパーアニュエーション(以下、「SA」)とは、SG法により定められたオーストラリアにおける年金制度であり、雇用者は従業員の給与額に雇用者負担率(現在9%)を乗じた金額を従業員個人のSAファンド口座に払い込まなければならず、さもなくばこれに相当する金額を税務当局に納付しなければなりません。

ただし、18歳未満の従業員、70歳以上の従業員、月額給与450ドル未満の従業員に対しては、その支払いが免除されています。また、日豪間の条約(Social SecurityTreaty)に基づき、日本企業の駐在員などについては、一定の要件を満たすことを条件に、最長5年間の免除を受けることが可能です。

当該SAの雇用者負担率は、02年以降の長きに渡り9%とされてきましたが、12年3月29日に可決されたSG法の改正で、以下の通り現行の9%から12%まで段階的に雇用者負担率を引き上げることが決定されました。

年度 雇用者負担率
2013-14 9.25%
2014-15 9.5%
2015-16 10%
2016-17 10.5%
2017-18 11%
2018-19 11.5%
2019-20 12%

2. LAFHAの概要、その変更内容および経過措置

LAFHA(Living Away From Home Allowance)とは、豪州内で働く従業員で、職務遂行のため通常の居住地から離れて居住せざるを得ない者に対して、その住居費や食費を補填するために付与される遠隔地勤務手当てのことを言い、現制度下では、同手当てが一定の上限金額まで従業員の課税収入に算入されない取り扱いとなっていたため、日本企業を含めた海外企業に勤務する駐在員にとって大きな節税源となっていました。

しかしながら、豪州政府は12年5月8日に「Federal Budget 2012/13」を承認し、LAFHAに関する優遇措置を変更することを決定しました。そして当該変更内容を規定する法律の変更案のドラフトがつい先般公表され、12年7月1日以降におけるLAFHAによる税務上の優遇措置について、以下の通りに変更されることが規定されています(なお、当該変更案については未だドラフト段階であり、今後修正が加えられる可能性もあります)。

・同優遇措置を受ける従業員は、豪州内に通常の住居を有している必要があること(以下、「豪州内所有要件」)。
・同優遇措置は、勤務地にかかわらず最大12カ月までに限定されること(以下、「12カ月限定要件」)。

なお、同変更案は12年7月1日から14年6月30日までの経過措置を規定していますが、現状の優遇されたLAFHAを引き続き受けるためには、以下の両要件を満たす必要があります。

(a)12年5月8日時点でLAFHAを付与されており、同年6月30日まで変更なく継続していること。

(b)「temporary resident」または「foreign resident」に該当する者でないこと。

これら両要件を満たす場合には、14年6月30日までの間、前記の豪州内所有要件および12カ月限定要件の適用を受けず、引き続き従来の優遇されたLAFHAを受領できることとなります。

しかしながら、サブクラス457ビザで就業する多くの海外駐在員は、一般的に「temporary resident」に該当すると解され、上記(b)の要件を満たすことができないため、現状の優遇されたLAFHAを引き続き受領することはできなくなります(なお、これらの者に対しても、14年6月30日までの間、経過措置として12カ月限定要件は免除されることとなりますが、当該恩恵を受けることのできる該当者は極めて限定されるものと思われます)。

なお、「temporary resident」が12年7月1日までの間に税務上「永住者」として認められることになった場合には、上記経過措置の適用を受けられる余地はありますが、12年7月1日以降に税務上「永住者」となった者については、原則として上記経過措置による恩恵を受けることはできないものと思われます。

もっとも、これらの点については上記変更案のドラフトでは必ずしも明確ではない点であり、また、財務省(Department of Treasury)もその取り扱いを明示していないため、今後の動向に留意する必要があります。

3. これらの変更が雇用者に与える影響

①スーパーアニュエーションの変更に係るコスト増

雇用者が一定の基本給与額にSAを付加して支払うという形で報酬合意をしている場合、今後予定されている9%から12%への雇用者負担率の増加は、原則として雇用者負担となるため、その分人件費が増加することになります。一方で、雇用者がSAを含めた総給与額として報酬合意をしている場合、上記雇用者負担率の増加は基本的に人件費に影響を及ぼさないことになります。

②LAFHAの変更に係るコスト増

前記の通り、海外から豪州国内に駐在する駐在員の多くは、12年7月1日以降LAFHAによる税務上の優遇措置を受けることはできなくなり、無課税のLAFHAを組み込んだ報酬パッケージにて駐在員に条件提示をしてきた企業(住居費全額を住居手当てとして支払うなど、税引後のネット額で合意しているような場合)にとっては、大きなコスト増が生じることとなります。

③相乗的なコスト増の可能性

現状の制度ではLAFHAはSAの算定の基礎となる給与額には算入されませんでしたが、12年7月1日以降においては、LAFHAが一般の課税収入(ordinary timeearnings)を構成することになるため、同金額に相当する金額についても、SA額の算定の基礎額に繰り入れる必要があります。

上記①で記載した通り、仮に雇用者が基本給与額にSAを付加して支払うという形で報酬合意をしている場合、雇用者負担率の利率の上昇と相まって、今後さらなるコスト増を生み出す可能性もあります。

企業としては、これら予測される人件費の増加に備え、雇用契約、労働協約(enterprise agreement)、オファー・レターなどについて注意して作成する必要があり、また既存の契約についても再確認することが必要であると言えます。

 

※本記事に関する意見・質問は下記まで。

リチャード・ラスティグ   Email:Richard.lustig@bakermckenzie.com

エリザベス・タイスハースト Email: Elizabeth.ticehurst@bakermckenzie.com

辻本哲郎          Email: Tetsuo.tsujimoto@bakermckenzie.com

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