第39回 オーストラリアにおける並行輸入に関する規制

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第39回 オーストラリアにおける並行輸入に関する規制

ベーカー&マッケンジー法律事務所
パートナー弁護士 リチャード・ラスティグ(左)
シニア・アソシエイト エリザベス・タイスハースト(中)
シニア・アソシエイト 辻本哲郎(右)

Q 有名ブランド品が正規販売店以外で安く販売されている理由として、いわゆる海外からの「並行輸入」による販売があると聞きます。このような並行輸入がどのような仕組みで成り立っているのか、また並行輸入によってブランド品などを販売することはオーストラリアで合法であるのかについて教えてください。

A 「並行輸入」とは、ある国においてブランド品などに付される商標についての使用権限を有する者(以下「商標権者」)以外の第三者が、当該国以外の国において商標権者から許諾を受けた者により製造された商品を輸入販売する行為を言います。

このような並行輸入は、オーストラリアにおいては必ずしも違法ではありませんが、登録された商標権者との関係で商標権侵害とならないためには、「当該商標がその商品に対して、登録商標権者により、またはその同意に基づいて付されたものである」ことが必要とされています。

近年、オーストラリアの裁判所は当該「登録商標権者により、またはその同意に基づいて付されたものである」という要件を厳格に解釈する傾向にあり、ブランド品などの商標権者は、海外において商標権のライセンスを付与する際の契約などにおいて適切な手当てを行うことにより、このような並行輸入を効果的に制限することが可能となります。

1. 並行輸入とは

「ナイキ」「リーバイス」「コカコーラ」などの有名ブランドは、商品の一定の品質を確保し、また当該ブランドの商標権の価値を維持するため、ある国における独占的な商標権の使用権限(以下「ライセンス」)を、特定の者(以下「正規ライセンシー」)に対して付与しているのが一般的です。

しかしながら、世界各国における正規ライセンシーにより製造された同じ商品が、ある国においてほかの国より安価で販売されているケースはよくあり、当該価格差を利用して、同商品を、安価で販売されている国から高価で販売されている国に輸入し販売するというビジネスが成り立ちます。これがいわゆる「並行輸入」(Parallel importing)という名称で呼ばれるビジネスです。

2. オーストラリアにおける並行輸入の法的規制

オーストラリアにおいて、このような並行輸入は多くの商品において合法とされており(なお、このような並行輸入が許されない例としては、自動車が挙げられます)、並行輸入業者は、「当該商標がその商品に対して、登録商標権者により、またはその同意に基づいて付されたものである」(「the trademark has been applied to, or in relation to, the goods by, or with the consent of, the registered owner of the mark」)限り、商標権侵害であるとして責任を問われることはありません(商標法第123条)。

もっとも、オーストラリアの裁判所は、近時、当該条項について狭く解釈する傾向にあり、当該商標が「登録商標権者の同意に基づいて付された」と言えるかどうかについては、非常に慎重な検討が必要となります。

3. 近時の裁判例

(1)「GREG NORMAN」および「SHARK」商標に係る裁判例

並行輸入が近時問題になった裁判例として、「GR EGNORMAN」および「SHARK」(有名ゴルフ・プレーヤーのブランド)の商標に関するものが挙げられます。

本件では、当該商標の登録商標権者であるGreg Norman Corporation(以下「GNC社」)およびそのオーストラリアの正規ライセンシーであるSport Leisure PtyLtdが、同商標の付された商品をオーストラリア国内において販売していたPaul’s Retail Pty Ltd(以下「Paul’s Retail社」)という会社に対し、GNC社のインドにおける正規ライセンシーが製造したものをオーストラリア国内に輸入して販売したとして、訴訟を提起しました。

これに対してPaul’s Retail社は、当該商品に付された「GREG NORMAN」および「SHARK」の商標は、インドの正規ライセンシーが、商標権者であるGNC社の「同意の下で」付したものであり、商標権侵害はないと反論しました。なお、GNC社とインドの正規ライセンシーとの間のライセンス契約では、商標権の使用範囲が、インド国内における製造、広告、流通および販売に関する使用に限定されていました。

これに関し、連邦第1審裁判所および連邦控訴裁判所は、インドの正規ライセンシーがインド国外において商品が流通されることを認知していたという場面においても、GNC社が正規ライセンシーに対して同ブランドの商標を付することを承認していたとは言い難いと判断しました。

すなわち、Paul’s Retail社が輸入した商品は、インドにおいて正当に付与されたライセンスの範囲を超えて製造されたものであり、本物(genuine)ではないとして、適法な並行輸入であるというPaul’s Retail社の抗弁を認めませんでした。

(2)「LONDSDALE」商標に係る裁判例

上記「GREG NORMAN」および「SHARK」ブランドに係る判決から数日後、連邦控訴裁判所は、これとは別の「LONDSDALE」ブランドの商品に関する訴訟においても、Paul’s Retail社の異議申し立てを却下しました。

当該訴訟の背景事実は、「LONDSDALE」ブランドの登録商標権者であるLondsdale Sports Limited(以下「Londsda le社」)が、ドイツのPunch Gm BH( 以下「Punch社」)に対して、ヨーロッパにおける「LONSDALE」ブランド商品の広告、流通および販売のライセンスを与えていたところ、同Punch社からキプロス共和国の会社であるUnicell Ltd(以下「Unicell社」)に対して販売され、さらにUnicell社から米国会社であるTMSLLCに対して販売された「LONDSDALE」ブランド商品約30万点(商品価値は約200万豪ドル)を、2011年8月にPaul’s Retail社がオーストラリア国内に輸入しようとしたというものでした。

同商品はオーストラリアの税関で差し押さえられ、Paul‘s Retail社は、オーストラリアにおける「LONDSDALE」ブランドの登録商標権者であるLondsdale Australia Limitedから、訴訟を提起されることとなりました。

Paul’s Retail社は、Punch社はLondsdale社の同意の下で「LONDSDALE」の商標を商品に付したのであるから、当該商品は本物であると主張しました。しかしながら、連邦控訴裁判所はPaul’s Retail社が輸入しようとした商品は、Punch社からUnicell社の中国所在の倉庫に対して販売されたものであるところ、Punch社は「LONDSDALE」ブランドの商品を中国で販売するライセンスを受けておらず、「LONDSDALE」の商標はLondsdale社の「同意の下で」付されたとは言えないと判断し、適法な並行輸入であるというPaul’s Retail社の抗弁を認めませんでした。

4. 実務上の留意点

上記のような近時の裁判例を勘案した場合、企業としては以下の点に留意が必要であると言えます。

① オーストラリアにおいて登録がなされている商標の付された商品を輸入することは、原則として商標権の使用に該当し、商標権侵害の問題となり得る。
② 輸入業者としては、当該商標が商標権者の同意の下で付されたものであるとして、並行輸入の抗弁を主張し得るが、当該主張の立証責任は輸入業者が負うこととなる。
③ 国外において付与されたライセンスに地域的限定が課されており、ライセンシーが当該地域外での販売がなされることを認知しつつ商品を製造および供給したという場面においては、正当な並行輸入であったと立証できる可能性は極めて低い。

このことは、登録商標権者側から見た場合、国外で商標ライセンスを行う際に、当該商標の付された商品の地域外への輸出を制限する内容の契約を締結することによって、第三者による並行輸入を効果的に制限できるということになります。

5. 結語

並行輸入に関する各国の規制はそれぞれ異なりますが、オーストラリアにおいては、合法的な並行輸入の範囲が近時、かなり狭く解される傾向にあるという点について、留意が必要と言えます。


※本記事に関する意見・質問は下記まで。
リチャード・ラスティグ   Email: Richard.lustig@bakermckenzie.com
エリザベス・タイスハースト Email: Elizabeth.ticehurst@bakermckenzie.com
辻本哲郎       Email: Tetsuo.tsujimoto@bakermckenzie.com

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