第46回 オーストラリアにおける商標権を巡る法改正

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第46回 オーストラリアにおける商標権を巡る法改正

ベーカー&マッケンジー法律事務所
パートナー弁護士 リチャード・ラスティグ(左)
パートナー弁護士 ロバート・アーノルド(中)
シニア・アソシエイト 辻本哲郎(右)

Q オーストラリアにおいては昨年、商標法についての法改正が行われ、本年4月より施行されていると聞いておりますが、当該法改正において変更された主要な点について教えてください。

A オーストラリアにおいては、商標法(Trade Marks Act 1995 (Cth))の改正などを規定する「Intellectual Property Laws Amendment (Raising the Bar) Act 2012 (Cth) (Act)」という法律が2012年に成立しており、同法に基づく改正商標法が13年4月15日より施行されています。同改正法においては、商標権侵害が疑われる場面における権利保護をより簡便なものとする手続き的側面に係る改正に加え、権利侵害が生じた場合のペナルティーを強化する形で侵害行為を抑止しようとする実体的側面に係る改正が含まれており、商標権者の保護をより促進する方向への法改正であると考えられます。

 

1. 新たな税関における差し止め手続き

オーストラリア国内への商標権侵害のある商品の輸入が疑われる場合、商標権者は税関(Australian Customs)に対して差し止め通知(Notice of Seizure)を送付することにより、当該商品の輸入差し止めを申し立てることが可能です。当該手続きは、不正に偽造された商品がオーストラリア国内に流通する前に水際で差し止めることを目的とするものです。

しかしながら、法改正前においては、商品の輸入業者など当該差し止め通知を無視したり、商品の輸入業者などに対して通知が有効に到達しないケースなどが多くみられ、その場合、税関は当該対象となる商品について差し止め手続きから解放しなければなりませんでした。その後、商標権者が権利回復するための方法としては、輸入業者などに対して裁判を提起するしか方法がありませんでした。

このような事態を解消すべく、本法改正は、商標権者の保護の見地から、税関に対して以下のような新たな権限を付与することとなりました。

• 税関に対して差し止めが申し立てられた場合、輸入業者などが10営業日以内(同期間については一定の場面において延長請求可能)に適切な解除請求(Claim for Return)を行わない限り、税関は当該製品を自動的に没収することができる。
• 差し止めが行われた場合、当該商品の輸出業者および委託販売者などの詳細情報が税関から商標権者に対して提供される。これにより、商標権者は権利侵害者(特に常習の権利侵害者)およびこれに加担した者をある程度特定できる。

上記変更により、輸入業者などとしては、原則として10営業日以内に、返還を求める理由および自らの連絡先などを記載した適切な解除請求を提出しない限り、当該対象となった商品を取り戻すことができません。つまり、本法改正によって、商標権者は、一定期間内に正当な反論が提示されない限り、商品の破棄を求めることができることとなります。

なお、仮に輸入業者などが適切な解除請求を提出した場合、商標権者としては、当該請求の提出後10営業日以内に連邦裁判所(下記2に記載の法改正により連邦簡易裁判所に対する提起も可能)に対して差し止めの仮処分を提起する必要があります。

2. 連邦簡易裁判所(Federal Magistrates Court)への管轄権の付与

商標権に関する民事訴訟は、法改正前においては、連邦簡易裁判所(Federal Magistrates Court)に対して申し立てることはできず、商標権者としてはオーストラリア連邦裁判所(Federal Court of Australia)に対して申し立てる必要がありました。

しかしながら、今回の法改正後においては、商標権に関する民事裁判について連邦簡易裁判所においても管轄権が認められ、より安価かつ迅速な救済が期待できることとなりました。

3. 商標権侵害の場面における懲罰的損害賠償の創設

オーストラリアにおいては、これまで、特許権、意匠権、著作権などの侵害の場面においては、民事訴訟において「additional damages」(いわゆる懲罰的損害賠償)の支払いを命じることが認められていましたが、商標権侵害の場合にはこのような懲罰的損害賠償は認められていませんでした。

改正後の商標法においては、商標権侵害に係る民事訴訟においても、裁判所の裁量によって前記のような懲罰的損害賠償の支払いを命じることが新たに認められるようになり、悪質な侵害行為に対する有効な抑止力となることが期待されています。

4. 刑罰の厳罰化および「Summary Offence」の導入

上記の民事訴訟に係る改正に加え、商標権侵害に係る刑事罰についても、本法改正により強化されることとなりました。

具体的には、これまで商標権侵害に対する刑罰は最高で懲役2年6カ月および/または罰金500 Penalty Unitでしたが、これが最高で懲役5年および/または罰金550 Penalty Unit(9万3,500ドル)にまで引き上げられることとなりました。

さらに、新たに商標権侵害に対して「Summary Offence」という犯罪類型も導入されました。

これは、故意や重過失ではなく、過失による商標権侵害を認めるものであり、行為者に対して登録された商標権について権利侵害を行わないよう一定の注意義務を課すものと言えます。

5. 商標出願に対する異議申し立て手続き

以上のほか、改正法は、これまで長期にわたり適用されてきた商標出願に対する異議申し立て手続きについても変更するものとなっています。

具体的には、ある商標出願に対して異議を有する者は、商標出願の公開日から2カ月以内(改正前は3カ月以内)のみ異議を申し立てることができ、また、当該申し立て後1カ月以内に異議に係る詳細を記載した趣意書(Statement ofParticular)を提出しなければならないこととなりました。

そして、商標出願者は、異議申し立てに係る趣意書を受領した場合、答弁の意思通知(Notice of Intention to Defendthe Opposition)を提出しなければならず、これを行わなかった場合には商標出願が失効することとなります。

本改正による制度変更により、以下のような効果が見込まれます。

• 異議申し立てを行う者に対して上記のような1カ月以内の趣意書の提出が義務付けられたことにより、安易な異議申立ての抑止につながる。
• 異議申し立てを行う者が提出する趣意書においては、単に異議申し立ての理由のみが記載されるのみでは足りず、当該理由の根拠となる重要事実が記載されなければならない。そのため、商標出願者は、異議申し立て手続きにおいて、どのような論点および事実が主として争われることになるのかについて予測することが可能となる。
• 正当な異議が申し立てられた場合、商標出願者は答弁の意思通知において自らの防御方針を記載する必要があり、当該書面を受領した異議申し立て者としては、当該異議申し立てを遂行する上でどの程度の労力を要するのかについてある程度予測可能となる。

6. 結語

上記のように、今般の法改正は、商標権者の保護をより促進する方向での法改正であると考えられます。この点、本Q&A第38回では、近時、オーストラリアの裁判所において、商標権者の保護の観点から、並行輸入として許容される範囲が非常に限定的に解釈される傾向にあることを紹介しましたが、このことは上記のような法改正により商標権の保護を強めようとする立法の立場とも整合するものであると言えます。

オーストラリアでビジネスを行う企業としては、自らの保有する商標権についての権利侵害があった場合、改正法下においてどのような手続きにて保護されるのかを再度確認するとともに、他社の保有する商標権を侵害した際に自社がどのようなリスクに晒される可能性があるのかについて、十分認識しておく必要があると言えます。

企業としては、これらを積極的にビジネスに利用するかどうかを問わず、自らが晒される可能性がある法的リスクを十分に認識しておくとともに、それらに対する事前の備えをしておくことが重要であると言えます。


※本記事に関する意見・質問は下記まで。
リチャード・ラスティグ   Email: Richard.lustig@bakermckenzie.com
ロバート・アーノルド    Email: Robert.Arnold@bakermckenzie.com
辻本哲郎       Email: Tetsuo.tsujimoto@bakermckenzie.com

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