第25回 職場における男女平等推進法の改正案とは?

第25回 職場における男女平等推進法の改正案とは?

ブレーク・ドーソン法律事務所
パートナー弁護士 イアン・ウイリアムス

豪州三井物産
リーガル・カウンセル 松浦華子

Q 在豪日系企業の取締役です。豪州の企業に職場での男女平等の推進を求める法律の改正案が出されると聞きましたが、現行法と改正案の内容を教えてください。

A 2011年5月9日、女性の地位担当大臣のケイト・エリス(以下:大臣)は職場での男女平等を推進する現行法の改正案を発表しました。改正案では、従業員100人以上の企業による、男女平等の産業別基準に照らした達成状況の年次報告書の提出を求めています。
 本稿では、現行法と改正案における企業の義務の概要と、ASX(豪証券取引所)コーポレート・ガバナンス協議会発行の「コーポレート・ガバナンス(企業統治・内部統制)に関する原則と勧告」(以下「ASXガイドライン」)が規定する性別の多様性に関する要件との違いをご説明致します。

1. 職場における女性の機会均等法:Equal Opportunity for Women in the Workplace Act 1999 (Cth)(現行法)

現行法では、豪州国内に従業員が100人以上いる企業には、以下の義務があります。

①女性差別の撤廃と女性の機会均等を目的とした職場プログラムを策定し、実施すること
②職場プログラムの成果を「職場における女性の機会均等局」(Equal Opportunity for Women in the workplace Agency)(以下:EOWA)に報告すること

この報告義務にもかかわらず、現在、雇用主は職場プログラムの成果を示す数値データを提出する必要はなく、EOWAにも基準に照らした実施状況の報告を企業に求める権限がありません。また、雇用企業が最低3年間報告義務を果たした場合、EOWAはこの義務の遵守を一定期間猶予することができます。
 政府の推定では、現在、豪州の約3分の1の企業が現行法の遵守義務を免れています。

2. 改正案

改正案は、従業員100人以上の企業は全社、男女平等に関する成果に関する年次報告書を作成し、(EOWAに替わる)「職場における男女平等局」(Workplace Gender Equality Agency)(以下:WGEA)に提出する義務があるとしています。

 

(1)男女平等報告書に記載すべき新規事項
・取締役会における男女比の概要
・産業別「男女平等指標」に照らした企業の達成度の評価
・CEOおよび従業員側代表の署名

 

(2)遵守状況の管理体制

WGEAには、報告書が正確かどうかを判断するために「企業を再調査する」新たな権限とより多くの財源が与えられます。改正案における義務を遵守しているかどうかの判断には、産業基準に照らした達成度と時間の経過に伴う進展度が考慮されます。WGEAには、企業が改正案における義務を遵守しているかどうかを主観的に判断する権限があり、これは、違反した場合の重大性を考えると、重要な点です。

 

(3)違反した場合
政府は違反した企業名を公表することを提案しています。これにより、企業は、現地の優秀な従業員の確保・維持が難しくなったり、企業のブランド・イメージや市場評価に悪影響が出たりする可能性があります。
 また、政府は男女平等基準を満たさない企業とは契約を締結しないことや、補助金の給付を行わないことを提案しています。これにより重要な収入源を失ったり、経営や事業の拡張が制限されたりする企業・組織もあるかもしれません。

3. ASXガイドラインにおける性別の多様性との比較

同法の改正案は、ASXガイドラインよりも、詳細な要件が書かれています。
 ASXガイドラインとは、ASX上場企業・組織を対象とするコーポレート・ガバナンスに関する指針が書かれており、適用・遵守は強制ではありませんが、上場企業・組織がこれに遵守しないことを選んだ場合は、その理由を年次報告で開示する義務があります。
 ASXガイドラインは、2010年に改定され、ASX上場企業の取締役会の人員における多様性を推進しています。ガイドラインには、以下の方針の実施と報告に関する勧告が規定されています。

(ア)取締役会は多様性に関する方針を作成し、その方針またはその概要を開示し、それには下記の事項を含むべきである
・性別の多様性を達成するための測定可能な目標を設定すること
・毎年その目的と達成の進捗状況を査定すること

 

(イ)年次報告で下記の項目を開示すべきである
・取締役会で達成するべき多様性と能力とはどういうものか
・取締役会が定めた性別の多様性を達成するための測定可能な目標とその達成度
・組織全体、取締役会と上級管理職で女性が占める割合

改訂前の段階で、ASX上場企業の取締役総数のうち女性の割合は10%未満であり、ASX 200社のうち85社には女性取締役は皆無でしたが、豪州企業取締役協会(Australian Institute of Company Directors)の報告によると、改訂後の2011年3月11日の時点で、ASX 200社の取締役会における女性の割合は11.2%に上昇し、新規任命の取締役を含め女性の割合は2010年に大幅に増加しました。

 

<改正案とASXガイドラインの違い>
 改正案は、ASXガイドラインと比べると、以下の特徴があります。

・適用の対象範囲—ASXガイドラインは上場企業・組織のみを対象としているが、改正案は、非上場の大企業を含め、従業員100人以上の企業全社に適用される。

 

・「多様性」の範囲—ASXガイドラインは上場企業の取締役会における多様性の推進を目指しているが、改正案は企業全般における男女平等の推進を目的としている。また、ASXガイドラインは、多様性を性、年齢、民族、文化的背景を含み、またこれらに限らないとして定義している。

 

・遵守義務—改正案における報告書の提出は義務となる。対象企業は、たとえ産業基準が自己の企業に適合したものでなくても、それを遵守する義務がある。一方、ASXガイドラインは、上述の通り遵守しないことを選択することができる。ただし、同原則に従わない場合は、年次報告において非遵守の理由を説明しなくてはならない。また、上場企業は性の多様性の達成に向けて独自の測定可能な目標を策定できる。つまり、産業基準は参考基準ではあるが絶対的なものではない。

 

・違反した場合—前述したように、政府の改正案に違反した場合は、企業名の公表や補助金の給付停止など、深刻な結果を招きかねない。一方、ASXガイドラインでは性の多様性の推進努力が足りなくても、企業が受ける影響は、株主や一般からの批判、関係者の支援の撤回など、ある意味間接的な影響に限られる。

4. 改正案の今後の動き

改正案は、一般からの意見・要望の聴取後、今年後半に国会に提出される予定です。同法の法律名は「職場における男女平等法(Workplace Gender Equality Act (Cth))」に変わり、改正法に基づく最初の報告書の提出期限は2013年とされています。改正案の内容は、まだ変更する可能性がありますので、企業は改正案に備えるために具体的なアクションを起こす必要はまだありませんが、今後の改正案の動向を注視する必要はあるでしょう。

※本記事に関する意見・質問は下記まで。
イアン・ウイリアムス Email: ian.williams@blakedawson.com
松浦華子 Email: Ha.Matsuura@mitsui.com

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