酒気帯びで帰社する従業員を即解雇することは問題ないですか?

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法律

Q

本日の昼食後、部下が明らかに酒気帯びの状態で戻ってきました。この従業員は、普段から態度に問題があり、飛び抜けて生産性が高い従業員でもありません。この従業員との雇用契約書の中には、明確に「従業員が就業中に飲酒した場合、雇用主は、その従業員を即解雇できる」との言及があります。この条項に従って、この従業員を即解雇しようと思いますが、問題ないでしょうか。(50代男性=管理職)

A

雇用契約書にそうした即時解雇する権利が書かれていたとしても、状況によっては即時解雇できない可能性があるので、慎重に対応する必要があります。「Fair Work Act 2009」により、いくら雇用契約に基づいた解雇であっても、その解雇が手厳しい(harsh)、不当(unjust)、または不合理(unreasonable)と判断される場合には、解雇された従業員から不当解雇のクレームを受ける恐れがあります。なぜなら、雇用契約書の条項より「Fair Work Act」が優先されるからです。特に即時解雇に関しては、従業員に何ら事前の解雇通知が与えられていないため、それが不当解雇と判断される可能性が高まります。

しかし、その従業員の行為が重大な不正行為であり、雇用主と従業員との信頼関係を根本的に損なわせるような場合には、即時解雇は合法です。何が「信頼関係を根本的に損なわせる重大な不正行為」であるかは、その個々の状況に委ねられることになります。

今回の相談では、「その従業員の職務内容」「酒気帯びの度合い」「過去にも同じようなことがあったのか」「その結果どのような被害を会社が被ったのか」などが重要になってくると思います。例えば、飲酒した結果、その従業員が重要な取引先との会議に出席できず、競争相手に仕事を取られてしまったというような場合には、即時解雇を正当化できる「信頼関係を根本的に損なわせる重大な不正行為」となり得ます。また、その従業員の職務内容が一般市民の安全に関わってくるようなもの(例:バスや電車の運転士など)であれば、即時解雇はやむを得ないかもしれません。

昼食後、単純に酒気を帯びて会社に戻ってきた場合で、かつ業務にそれほどの支障が出なければ、その従業員の即時解雇は不当解雇となる可能性が高いと思われます。これに加え、もしこの従業員が自分の態度及び生産性が会社により既に問題視されていることを認識していた場合、飲酒で即時解雇したとしても、解雇の真の理由は、他にあるのではないのかと問われる可能性も出てきます。

こうした場合、雇用主としては、業務中の飲酒は雇用契約違反であり、もし同じようなことが繰り返された場合には、解雇もやむを得ない旨を明確にしたいわゆる「Warning Letter」を出すのが良いと思います。その後、同じような状況が続くようであれば、即時解雇が可能となるでしょう。

なお、総従業員数が15人を下回るような小規模な会社の場合には「Small Business Fair Dismissal Code」が適用され、即時解雇がより簡単にできるようにはなっていますが、それでも即時解雇を正当化できる妥当な根拠が必要です。

*オーストラリアで生活していて、不思議に思ったこと、日本と勝手が違って分からないこと、困っていることなどがありましたら、当コーナーで専門家に相談してみましょう。質問は、相談者の性別・年齢・職業を明記した上で、Eメール(npeditor@nichigo.com.au)、ファクス(02-9211-1722)、または郵送で「日豪プレス編集部・何でも相談係」までお送りください。お寄せいただいたご相談は、紙面に掲載させていただく場合があります。個別にご返答はいたしませんので、ご了承ください。


林 由紀夫(はやし ゆきお)
H&H Lawyers

横浜市出身。1972年来豪。78年ニュー・サウス・ウェールズ大学法学部卒(法学士、法理学士)。79年弁護士資格取得。同年ベーカー&マッケンジー法律事務所入所。80年フリーヒル・ホリングデール&ページ法律事務所入所。84年パートナーに昇格。オーストラリアでの日系企業の事業活動に関し、商法の分野でのさまざまなアドバイスを手掛ける

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