不動産特集①シドニー未来予想図~再開発と交通網の整備が加速~

積水ハウス「Taiga」の完成予想図

街が変わる!インフラが進化する!
シドニー未来予想図

今世紀末の人口1,000万人も視野に
再開発と交通網の整備が加速


アジアのダイナミックな成長を取り込むシドニーでは、今後も長期的に人口が増え続けていく見通しで、都市開発やインフラ整備は不可欠だ。「CBD」と呼ばれる市内中心部では大規模な再開発事業が進み、遅れていた交通ネットワークの整備も動き出した。(取材・文:守屋太郎)

豊かな生活環境に恵まれたシドニーには、海外や国内各地からヒトが集まってくる。オーストラリア統計局(ABS)によると、シドニー広域都市圏の人口は2014年6月時点で484万628人と前年同月比で1.77%増えた。仮にこのペースで増え続ければ、単純計算で25年に現在より約100万人増え、27年頃に600万人を超える。さらに、ABSの長期予測(13年)によると、今から46年後の61年、シドニー圏の人口は最大で約892万人と現在の東京23区の水準にほぼ肩を並べる。今世紀後半には1,000万人を超えるかもしれない。

カネも世界中から集まる。チャイナ・マネーの流入や利下げもあって、シドニーの不動産価格は最高値圏にある。不動産調査会社コアロジックRPデータによると、15年7月のシドニーの住宅価格の中央値は79万ドルと前年の同じ月と比べ18.4%上昇した。戸建て住宅は92万1,500ドル(19.8%上昇)。主な住宅地の戸建て相場は既に100万ドルを突破している。

東京都内の戸建てやマンションが軒並み1億円以上に跳ね上がった日本の1980年代後期を思い出す中高年の読者も多いだろう。確かに「遅かれ早かれバブルは崩壊するのでは」との悲観論もある。ただ、中国経済の急減速による影響は注視すべきものの、空室率が2%前後とほぼ満室の状態が続いているため、日本のバブル崩壊後のような急落はないとの見方が根強い。

■2大都市の人口長期予想(単位:万人)

2012年 2036年 2061年
最大シナリオ シドニー 467 660 892
メルボルン 425 679 983
全豪 2,272 3,444 4,826
最小シナリオ シドニー 467 654 796
メルボルン 425 612 761
全豪 2,272 3,072 3,678

出典:オーストラリア統計局(ABS)

再開発が街の風景を一変させる

シドニーの不動産価格の高騰の主な要因としては、このところの中国人の投資拡大や低金利といったマネー要因だけではなく、人口増に住宅供給が追い付かないという需給バランスのひっ迫がある。特にCBDでは、大規模な再開発が可能なまとまった用地はあまり残っていない。

そうした中で「ウォーターフロント最後の再開発」として注目されているのが「バランガルー」地区。CBD北西部のダーリン・ハーバーに面した22ヘクタールの港湾施設跡地では、シドニーのスカイラインを一変させる巨大プロジェクトが進行している。目玉は69階建ての超高層カジノ複合リゾート(IR)「クラウン・シドニー・ホテル・リゾート」。ねじ曲げた金属片を思わせる奇抜な建築デザインが特徴で、シドニー・オペラ・ハウスと並ぶ街を象徴するような建物になる。VIPや外国人客専用の超高級カジノ、「6つ星」の最高級ホテル、超富裕層向けのマンションなどが入る。住居エリアの最上階に入るペントハウスの販売価格はオーストラリアで初めて1億ドルを超える見通しだと報じられ、話題になった。

同地区では、このほか超高層オフィス・ビル3棟が連なる「インターナショナル・タワーズ・シドニー」、集合住宅、商業施設、レストランなども建設する。北側の約3分の1を占める海浜公園では、シドニー湾の砂岩を配置して自然の波打ち際を人工的に再現している。総開発費は60億ドル。カジノは19年の開業、全プロジェクトの完成は22年を予定している。

一方、CBDの南側では、再開発の事業化や計画が相次ぐ。シドニー工科大学やシドニー大学に近い学生街に接した街区に高層マンションや商業施設、学生用住宅などを建設する再開発事業「セントラルパーク」が、積水ハウスとシンガポール企業の合弁で進んでいる(次ページ「不動産特集①シドニー未来予想図~広がる日系企業の取り組み~」参照)。

セントラルパーク前のブロードウェイを西に進むと、道の名前はパラマタ・ロードに変わる。渋滞の中を大型トラックが走る殺風景な産業道路だが、一帯をカフェや低層の集合住宅が立ち並ぶ洒落た住宅地に変える都市計画もある。新高速道路「ウエストコネックス」が将来開通すれば車両の流れが劇的に変わり、パラマタ・ロードの交通量が大幅に減ると見込まれるからだ。

さらに、セントラルパークに近接したセントラル駅については、NSW州政府が南北約3キロの線路上の空間を活用する構想を発表している。青写真の段階だが、線路を地下化したり、上に構造物を被せて80ヘクタールの広大な市街地を新たに創出することを検討している。中心部の再開発のトレンドは、南の方角へ向かっているようだ。

「バランガルー」完成後のシドニー市内中心部の予想図
「バランガルー」完成後のシドニー市内中心部の予想図

交通ネットワークの整備進む

シドニーでは遅れていたインフラ整備が急務となっていたが、ここ数年はインフラ建設に力を入れる地元NSW州と連邦の保守政権同士が連携し、鉄道や高速道路などの拡充にアクセルを踏み込んでいる。

CBDと南東郊外を結ぶ全長16キロ、総工費16億ドルの新しい路面電車「CBDアンド・サウス・イースト・ライト・レール」は9月、建設工事を開始する。営業開始は4年後の19年を目指す。ルートは、CBD北部サーキュラ・キーを起点に、メイン・ストリートのジョージ・ストリートを南進、セントラル駅から東に曲がり、南東郊外で分岐した後、キングスフォードとランドウィックにそれぞれ至る。最短4分おきに車両を走らせ、1時間当たり最大9,000人を輸送する。移動時間が短縮されるほか、既存のバスの運行数を大幅に減らすことで中心部の渋滞緩和が期待される。ウィンヤードからタウンホールまでのジョージ・ストリートは、クルマの通行ができないライト・レールと歩行者の専用道路となるので、中心部の街並みはずいぶん様変わりするだろう。

また、人口が急増している北西部と南西部の郊外に、次世代の鉄道システムを走らせるオーストラリア最大級の公共交通建設事業「シドニー・メトロ」も進行している。第1期事業の「シドニー・メトロ・ノースウエスト」(SMNW)は、北部郊外チャッツウッドから北西郊外に至る全自動運転鉄道システム。丸紅も参画して建設を進めており、19年に開業予定だ(次ページ参照)。

第2期事業の「シドニー・メトロ・シティ&サウスウエスト」の計画も明らかになった。チャッツウッドからクロウズ・ネストを通り、海底トンネルでシドニー湾を渡ってCBDに入り、バランガルーの新駅などを経て南西郊外に至る全長30キロの鉄道システムを建設する。今後、建設や運営を行う業者を選定し、24年の開業を目指す。

渋滞が慢性化している道路網の整備も待ったなしだ。連邦政府は13年、西部郊外からCBDを経由して南部郊外に至る全長33キロの新高速道路「ウエストコネックス」を事業化した。総工費149億ドルの国内最大級の道路整備事業で、今年中に着工し、23年の全線開通を予定している。完成すれば西部の「M4」と南部の「M5」、南西部の「M7」が1つの環状高速道路となる。現在、CBDを通過している車両の通行量が減り、中心部の渋滞緩和が期待される。

オーストラリアの高速鉄道構想に合わせて、JR東海が高い技術をPRする東海道新幹線の最新型車両「N700A」
オーストラリアの高速鉄道構想に合わせて、JR東海が高い技術をPRする東海道新幹線の最新型車両「N700A」

激しさを増す空の混雑への対策も急務となっている。現在のシドニー国際空港は近い将来、伸び続ける航空需要に対して処理能力が限界に達する見通し。そのため連邦政府は昨年、中心部から西へ約50キロのバジェリーズ・クリークに第2空港を建設することを決めた。16年に着工し、20年代中頃の開港を目指す。

一方、ブリスベン、シドニー、メルボルンの東海岸3都市をそれぞれ結ぶ将来の高速鉄道構想も浮上している(次ページ参照)。今のところ想定開業時期は半世紀後の65年だが、高速鉄道導入が経済や国民生活にもたらすメリットは大きいだけに、実現の大幅な前倒しが切望される。

ただ、そこまで長いタイムスパンで見るなら、時速500キロ以上の「超電導リニア」(マグレブ)導入の可能性も全くゼロとは言えない。既に建設が始まった日本の中央新幹線の技術なら、シドニーからメルボルン、ブリスベンまでの所要時間はそれぞれ1時間半程度となり、通勤圏内に入る。シドニーの人口が1,000万人をうかがう今世紀後半、超電導リニアによって、シドニーは東海岸一帯のメガロポリス(巨大都市圏)の中心地になっているかもしれない。

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