不動産特集①シドニー未来予想図~広がる日系企業の取り組み~

積水ハウス「Taiga」の完成予想図

住宅開発から将来の高速鉄道まで
広がる日系企業の取り組み

技術とノウハウで強みを持つ日系企業にとっては、都市開発やインフラ整備の分野でビジネス・チャンスも広がっている。シドニー圏の発展に貢献する日本勢の主なビッグ・プロジェクトを追った。(取材・文:守屋太郎)

再開発や住宅建設、幅広く手がける

積水ハウス

積水ハウス・オーストラリアの阿部亨・代表取締役社長
積水ハウス・オーストラリアの阿部亨・代表取締役社長

豪州を重要拠点の1つと位置付ける大手住宅メーカーの積水ハウス(本社:大阪市北区)は2009年、シドニーに進出した。人口増に住宅供給が追いつかず、またさまざまな規制がある中で開発や商品の品質に改善の余地があり、同社が担える役割が大きいと考えた。以来、シドニーを中心に再開発や分譲マンション、宅地造成などの大規模な開発事業を手がけながら、地場の住宅メーカーを買収し戸建て住宅の建設にも注力する。

デベロッパー(開発)事業で注目されるのは、シドニー市内南部の再開発事業「セントラルパーク」だ。シンガポールの大手デベロッパーと折半出資で、5.8ヘクタールのビール工場跡地にマンションや商業施設、オフィスなどを建設。メイン棟「ワン・セントラルパーク」を含む1期工事は13年に竣工、2期工事は17年までに完了する。

特長は環境と景観に配慮した設計。外壁全体に緑を植える南半球最大の「壁面緑化」により、夏は涼しく、冬は温かくしてエアコン使用を抑えつつ、高層ビルの持つ威圧感を低減した。高層棟では巨大な反射板を空中に吊るし、柔らかな自然光を地下商業エリアまで取り入れた。ガスタービン発電を併用した「コージェネレーション」(熱電供給)で二酸化炭素排出量も50%近く低減した。エコな設計は高く評価され、ワン・セントラルパークは14年、米シカゴの「高層ビル・都市居住協議会」(CTBUH)による建築賞で「世界最良の高層ビル」に選ばれた。

現地法人、積水ハウス・オーストラリアの阿部亨・代表取締役社長は「一番嬉しかったのは、再開発で隣接した古い街区が活性化したこと。地域に貢献できる、孫の代まで100年以上残るものを作る」と話す。

このほか、シドニー圏では、西郊ウェントワース・ポイントで2,156戸の分譲マンション開発事業「ザ・ウォーターフロント」、南方グレッズ・ウッドでゴルフ場を囲んだ1,800区画の住宅開発事業「ザ・ヘリミテージ」などを手がける。QLD州でも、南東部リプリー・バレーで環境負荷の低い4,000区画の新しい街づくりを進める。

一方、事業のもう1つの柱である戸建て住宅の建設では、ソフト面で顧客サービスの質を改善し、ハード面では防火性や断熱性などを高めた木造住宅「シャーウッド」の販売を強化する。「オーストラリア人が好む開放的な設計は維持しつつ、日本の技術や発想を融合した新商品を提供する。スペース効率の向上や家族の絆を重視した家事動線の最適化など、変えられるところは変える。積水ハウスだからできるライフスタイルを提案し、より安心で快適な住まいを1人でも多くのオーストラリア人に届けたい」(阿部社長)。

 

 

西郊で2.5万平米の新しい街づくり

大和ハウス工業 

大和ハウス・オーストラリアの鈴木敦雄ダイレクター
大和ハウス・オーストラリアの鈴木敦雄ダイレクター

シドニー中心部から西へ約7キロ。2万5,000平方メートルの広大な製粉工場跡地で8月、複合開発事業「フラワー・ミル・オブ・サマーヒル」が着工した。大手住宅メーカー、大和ハウス工業(本社:大阪市北区)が、現地の不動産投資管理会社、住友林業、大和ハウスのグループの企業コスモイニシアと共同で、360戸の分譲マンションやテラスハウス、商業施設、オフィスなどを建設する。

大和ハウスは1980年代にゴールドコーストでマンション開発を手がけたが、11年に現地法人を新たに設立して再進出した。サマーヒルを足がかりに豪州事業の拡大を図る。着工した第1・第2ステージの住宅は既に完売、16年末の完成を目指す。第3・第4ステージも16年中の着工、18年の完成を目指している。

大和ハウス・オーストラリアの鈴木敦雄ダイレクターは「豪州は不動産取引の透明性が高く、投資する上で好ましい環境にある」と語る。シドニーの不動産高騰はバブルだとの指摘には、「シドニーの住宅の供給が足りないことは明らかで、実需がある。多少の調整はあっても、価格が急落することはないだろう」と展望する。

同社は日本で住宅以外の事業用開発プロジェクトを多く手がけているのが強み。ベトナムの工業団地開発などこれまでの海外事業のノウハウも生かせる。「住宅だけではなく物流や店舗などの事業施設の開発も視野に、省エネや環境技術といった付加価値を訴求していく」(同ダイレクター)という戦略だ。

 

 

新鉄道システムの建設・運営に参画

丸紅

丸紅インフラストラクチャー・インベストメンツ・オーストラリアの日比太郎ダイレクター
丸紅インフラストラクチャー・インベストメンツ・オーストラリアの日比太郎ダイレクター

日系企業はシドニーの交通インフラの整備にも貢献している。日本の総合商社、丸紅(本社:東京都千代田区)は、シドニー近郊の新鉄道システム「シドニー・メトロ・ノースウエスト」(SMNW)の建設・運営・保守を行う共同企業体に、香港鉄路(MTR)や豪建設大手レイトンなどと参画。昨年、NSW州政府とパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)契約を締結した。SMNWは、シドニー北部チャッツウッドと、人口が急増している北西郊外間の36キロ(23キロの新路線を含む)を結ぶ豪州初の全自動運転鉄道システム。既に着工し、19年中頃の開業を予定している。

丸紅は09年、機関車と貨車のオペレーティング・リース事業への投資を皮切りに、豪鉄道市場に参入した。11年には同社が26.67%を出資する会社が、ゴールドコーストの路面電車(トラム)システムの建設と運営、保守を行うPPP事業を開始。トラムは昨年、開業した。

鉄道事業を手がける丸紅インフラストラクチャー・インベストメンツ・オーストラリアの日比太郎ダイレクターは「丸紅が海外で蓄積してきた鉄道建設のノウハウを生かし、資金だけではなく人材も出して積極的に関わっている。政府と民間がリスクをシェアできるPPP案件を通し、今後も街の発展に寄与したい」と語る。

同社はSMNWに続き、チャッツウッドから海底トンネル経由で市内中心部を通り、南西部のバンクスタウンに至る新路線計画「シドニー・メトロ・シティ&サウスウエスト」への参画も目指す。同事業は24年までに完成する予定だ。

 

 

速くて安心・安全な新幹線技術PR

JR東海

JR東海シドニー事務所の吉田昌平所長
JR東海シドニー事務所の吉田昌平所長

シドニーを中心に東海岸を縦断する高速鉄道構想に向け、JR東海は新幹線の技術をPRしている。

連邦政府は13年、高速鉄道の実現可能性調査を発表。最高時速300キロ以上で、ブリスベン・シドニー間797キロを2時間37分、シドニー・メルボルン間824キロを2時間44分でそれぞれ結ぶ構想を明らかにした。財源や都市部の用地確保が課題だが、3時間以内なら航空機需要を代替できるとの見方もある。

JR東海シドニー事務所の吉田昌平所長は「シドニーなど豪主要都市では住宅の不足や高騰、道路の混雑が深刻。今後の人口増に耐えられなくなってきているが、高速鉄道は処方箋になり得る」と指摘する。生産性の向上による経済成長や温室効果ガスの削減も期待できる。吉田所長は8月、連邦下院の経済委員会で、新幹線が都市や地方を発展させた日本の事例を紹介した。

構想が実現すれば、日本の新幹線も有力な候補となる。新幹線は開業から半世紀以上、旅客の死亡事故がゼロで、1編成当たり最大約1,400人を数分間隔で高速輸送できる。JR東海はこれまでも日本政府や車両メーカーなどと「オール・ジャパン」で新幹線のメリットを豪州に伝えてきた。

同所長は「新幹線は高度な信号システムを含む総合的な運行システムによって安心・安全が確保されている上に、正確性や快適性、利便性、環境性能も高い次元で完成されている。東海道新幹線の技術力を生かすことで、豪州の鉄道発展に尽力したい」と強調している。

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