派遣社員の最低労働条件を守るのは、誰か?

労働・雇用法弁護士 勝田順子の
職場にまつわる法律の話
第10回 派遣社員の最低労働条件を守るのは、誰か?

豪州の企業では、派遣社員の労働力を利用することは一般的です。警備員やイベント・スタッフ、清掃員などは、多くが人材会社から派遣される労働者で成り立っていると言われています。また、事務職を派遣で賄っている企業も多いでしょう。派遣社員を利用する利点の1つには、社員の直接雇用によって発生し得る企業の義務や責任を避け、雇用者のリスク管理ができるという点が挙げられるでしょう。ところが、先日のフェア・ワーク・コミッションの対応は、派遣先の企業の責任も問われる傾向にあることを顕著に示す事例として注目を浴びました。

大手スーパーマーケット・チェーンのColes Australia Pty Ltd(以下“コールス”)は、ショッピング・カートの回収作業員を派遣作業員で賄っていました。回収作業員には、土日祝日勤務手当てや残業代、スーパーアニュエーションが支払われておらず、10人の回収作業員が計22万ドル強の未払い賃金の支払いを求めて、雇用主である派遣会社を相手にフェアワーク・オンブズマン(以下“FWO”)へ申し立てをしました。

これを受け、FWOは、雇用主とコールスの双方を調停の当事者として訴えを起こしました。通常であれは、コールスは雇用主ではないので、未払い賃金に対して責任はないはずです。なぜこのような対応が可能なのでしょうか。

豪州での労働基本法といえるフェアワーク法の第550条では、雇用主でなくても、特定の労働者の労働に深く関わっている企業や個人による恣意的な言動が労働法違法行為に加担したり、助長したりした場合には、その企業や個人の法的責任を問うことができるとしています。2014年度では、この第550条に基づいて27の罰金(金額にして約58万ドル)が雇用主ではない企業や個人に課されています。

FWOは、コールスが執拗に複数の派遣会社に安い料金で派遣社員を提供するように圧力をかけていたり、最低労働賃金が支払われていない可能性については知っていたはずであるとの見解を持って訴えに踏み切りました。

 今回の事案でFWOが雇用主でないコールスの責任を追及するポイントとなったのは、たとえ直接の雇用主でなくても、労働者の権利を阻害する違法行為を黙認したり、助長するような行為があれば、間接的に雇用主と同等の法律上の責任が問われるという点でした。

本件の場合は、本格的にFWOの調停で審議がされる前に、コールス側が倫理的・道徳的な責任を受け入れ、22万ドルの未払い賃金の支払いと将来起こりうる未払い賃金の訴えに対して上限50万ドルの支払いに対し、雇用主の派遣会社とともに責任を持つことを約束して訴えが取り下げられることになりました。

事業主へのアドバイス

派遣社員・作業員を受け入れている事業主は、状況によっては雇用主同様の法的責任が発生し得るということを認識し、たとえ直接雇用の社員でなくとも、自社の職場で働く労働者の最低労働条件が守られているか、また、安全でハラスメントなどがない職場環境を提供できているか監督する必要があるでしょう。


PROFILE

2004年に来豪。シドニー法科大学院卒(Graduate Diploma in International Law)。09年にNSW州弁護士登録。専門分野は労働・雇用法。Katsuda Synergy Lawyers(カツダ・シナジー・ロイヤーズ/www.katsuda.com.au)の代表弁護士。 複数の弁護士事務所と協業体制をとり、企業法務全般、訴訟、家族法や移民法(ビザ)をはじめとする幅広い分野において専門性の高いリーガル・アドバイスを提供している。連絡先: contact@katsuda.com.au

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