資産の簿価評価に関する取締役の役割

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング
シニア・マネジャー/ジャパン・ビジネス・サービス 
荒川尚子

★著者プロフィル=豪州勅許公認会計士・米国公認会計士。
日本・米国・豪州の上場企業への監査業務を専門とし、会計基準比較アドバイスと監査業務を専門とする。JBSでも資源・電力業界のEYグローバル・ネットワークを屈指し、さまざまな包括的サービス提供に従事。
資産の簿価評価に関する取締役の役割

オーストラリア証券投資委員会(ASIC)は、オーストラリアの企業登記と証券規則を監督する責務を負う政府機関です。ASICは、財務諸表レビューと監視プログラムにおいて注目している点、レビューやその他監視プログラムから得た結果、またそれに対して講じている対策の内容を定期的に公表しています。今月号では、昨年末に発表された調査結果について解説します。

ASICは2014年12月12日に、14年6月30日付財務報告監視プログラムの結果を発表しました。この発表によれば、ASICは73の質問事項に関して55社に回答を求めました。質問事項の27パーセントは減損と簿価に関するもので、これらはほかを引き離して最も大きな懸念事項でした。

減損はASICの最重要項目です。ASICが最近実施した質問事項の27パーセントが減損と帳簿価額に関するものでした。

ASICが通常このような調査を行う場合、企業の取締役に書面で通知の上、比較的短時間での回答を求めます。したがって、企業が採用する減損テストのアプローチとその結果が、減損評価をする時点でしっかりと包括的に文書化されていることが重要です。さらに取締役が注意深く内容を確認した上、社内記録の一部としてきちんと保管されていなければなりません。

監視プログラムの結果を説明する際に、ASICの長官であるジョン・プライスは次のように述べています。

「ASICの調査対象とその結果、今回も1番件数が多かった事項は、不十分な資産の減損処理と不適切な会計処理に関するものでした。財務報告書を作成する際には、こういった点に重点を置くべきであり、質が高く、有益な情報を投資家やほかの財務諸表利用者などへ確実に提供しなければなりません」

また、14年7月1日以降にASICが実施した調査の結果、企業がこれまでに市場に向けて発表した情報に重要な変更が生じた場合、ASICはその内容を公表すると述べています。公表内容には、企業名も含まれます。

その目的は、取締役および監査人がASICの懸念に対する理解を深め、同じような問題が起こるのを防ぐためです。この発表以降、ASICが実施した調査の結果、財務報告書を修正した企業に関して10件のプレス・リリースが発表されました。そのうち7件が減損に関するものでした。

ASICの14年6月30日の監視プログラムによる資産価値と減損テストに関わる調査結果は、主に以下のような点です。

a)資金生成単位(CGU)の帳簿価額の決定
以下の事例が見受けられた;
(1)CGUの識別単位が大きすぎる
(2)キャッシュインフローを生成する資産のなかに、帳簿価額に含まれないものがあった
(3)CGUの回収可能な金額を決定するにあたり、誤って欠損金による税務上の利益を含めた
(4)帳簿価額から誤って負債を差し引いた

 

b)キャッシュフローと前提条件の妥当性
回収可能な金額を決定する上で企業が用いるキャッシュフローと前提条件を、過去のキャッシュフローや企業の資金調達法、市場状況と照らし合わせた際に、妥当性や裏付けがなかった。

 

c)回収可能額の公正価値評価
経営陣からの多数の情報を基に計算されているにもかかわらず、公正価値を決定するためにディスカウント・キャッシュフロー法を使用した企業があった。また、市場参加者間の秩序ある取引による資産売却で受け取る金額を確定できない場合、企業は回収可能金額を決定するために使用価値の計算法を用いるべきである。d)減損の指標市場条件の著しい悪化や報告された純資産が時価総額を上回る、などといった減損の可能性を示す事象を見落していた企業があった。

 

d)開示
以下の開示を怠った企業があった

● 減損までの許容範囲が狭く、1つ以上の前提条件が変わる確率が比較的高いことにより、減損につながる可能性がある場合の感応度分析

● 主要な前提条件や過年度の主要な前提条件が変更した場合の説明

● 回収可能金額が公正価値から売却費用を引いたものに基づいており、取引価格が存在しない場合、採用した評価方法、主要な前提条件を決定する経営陣の手法、前提条件は過去の経験を反映しているか、もしくは外部からの情報と整合しているか、もしそうでなければ、違いの程度と理由

私たちは、減損テストで使われる主な前提条件と前提条件の変化に対する回収可能額の感応度分析を市場で開示することが増える傾向にあると見ています。

貴社への影響

監査人は、とりわけ現行年度の財務成績と予算、全体的な将来の見通しを検討します。また、経営陣の減損評価と、必要であれば期末日の減損テストも監査します。また、実行する手順に基づき、経営陣の評価とその結果に同意すべきかどうかも監査人が判断します(例えば、減損は存在しないかどうか、また、減損がある場合、減損の引当額が適切に算定され、期末日に適切に計上されているかどうか)。

さらに監査人は減損に関する開示と会計方針も監査して、重要な調査結果(すなわち、企業の財務への影響が大きく議論を呼びやすい会計方針の選択)を検討し、必要に応じて改善を求めます。監査人は、重要な判断と見積りの開示も平行して十分に監査して、該当する開示要件を十分満たしているかどうかを判断します。

私たちの見解

減損に焦点が当てられている現状に鑑み、取締役が経営陣の減損評価、そして必要に応じて減損テストを確認することは重要です。取締役は採用されているプロセスと適用されている前提条件が合理的で、適切に文書化されているかどうかを厳密に調べる必要があります。また、取締役は財務諸表における開示を会計年度ごとに見直して、開示が引き続き適切で市場慣行と一致していることを確かめることも重要です。

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※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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