オーストラリアの印紙税:変わり続ける制度

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤングオーストラリア 税務ディレクター
ジャパン・ビジネス・サービス
渡辺登二

著者プロフィル◎国外投資スキームのストラクチャリング、移転価格、M&A、資金調達、税務当局対応において税務とリーガルをあわせ15年以上の経験を有する。現在、日系企業の豪州およびパプアニューギニアへの投資に対する税務サービスを担当
オーストラリアの印紙税:変わり続ける制度

オーストラリアの印紙税は、全国8つの州政府および準州政府にとって重要な財源の1つであり、その制度は特に過去15年間にわたり変化し続けてきています。
 今月号では、オーストラリアにおける変わりゆく印紙税制度について各州政府および準州政府に焦点をあてて解説していきます。

最近の傾向としてオーストラリアでは、各州政府および準州政府とも印紙税の適用対象となる取引や資産の範囲を拡大していますが、この数年間においてはそれぞれの州政府および準州政府が採るアプローチが異なってきていることが見て取れます。こうした継続的な変化と州・準州ごとの規則の違いのため、印紙税は思わぬ問題につながる可能性があります。

印紙税とは?

オーストラリアには譲渡税(オーストラリア国内の資産や事業に関する直接取引に課されるもの)、土地権利税(land richduty)/土地保有税(landholder duty)(オーストラリア国内の土地や鉱業権の間接的な譲渡に課されるもの)、保険税、抵当税、株式譲渡税および自動車の所有権譲渡税を含む多様な印紙税があります。今月号ではその中でも、一般譲渡税および土地権利税/土地保有税に焦点を絞って説明します。

印紙税は、オーストラリア国内にある土地に関する権利(賃借権を含む)、事業資産(有形資産、のれん、知的財産、法定免許やそのほかの特定権利)および特定の会社や信託の持分に関わる取引に対して適用されます。加えて、オーストラリア国内の鉱業合弁事業における少数持分の取得や売却も課税対象となりえます。

また、オーストラリアと直接的な関係がない場合においても、印紙税の課税対象となることがあります。例えば、オーストラリア国内の土地または鉱業権を持つ会社の20%の株式を保有する別の海外居住法人(例えば日本の会社)の株式を譲渡または売却する場合においても、印紙税が課される場合があります(譲渡先または売却先が同じグループ企業の一員であっても課税される可能性があります)。

紙税の拡大:政治的背景

特にこの15年間における印紙税制度の変遷の背景には、連邦政府と各州政府および準州政府の間で互いの財源と責任の分担をめぐって繰り広げられてきた国家的な政治論争があります。1999年6月の物品サービス税(Goods and Services Tax、GST)導入に合わせて、一部の州政府および準州政府は特定の印紙税の段階的廃止を検討することに合意しました。その後一部の印紙税は実際に廃止されたものの、いくつかの印紙税目(とりわけ譲渡税と土地権利税/土地保有税)は徐々に拡大されてきました。

一例として、2008年の西オーストラリア(WA)州政府による改正を皮切りに、タスマニア(TAS)州を除く各州・準州政府はそれぞれ従前の「土地権利税」を「土地保有税」に変更しました。これらの改正により、印紙税はより多様な取引に適用され、また各取引においてより多くの資産に対しても適用されるようになりました。もう1つの例としてはニュー・サウス・ウェールズ(以下、NSW)州およびクイーンズランド(QLD)州における、印紙税課税対象となる鉱業権の種類の追加が挙げられます。

加えて、印紙税の免税措置の適用可否を判断する際、より厳しい調査により厳密に運用(具体的には、印紙税関連法の解釈を狭めるか、法律自体を改正する形で)されるという傾向があります。例えば最近では「オーストラリア納税者」と「非オーストラリア納税者」という属性の違いに注目する傾向が強まっており、その結果印紙税の免除適用を否認される件数が増加しました。

相違点:各州・準州ごとの異なるアプローチ

今年すでに発表された各州政府および準州政府の予算案から、印紙税に関して各々が異なるアプローチを取っていることが分かります。例えば、南オーストラリア(SA)州政府はむこう3年間にかけていくつかの印紙税目を廃止する意思を表明しました。この動きは、12年にオーストラリア首都特別地域(ACT)準州政府がいくつかの印紙税につき、向こう20年間にわたって毎年段階的に税率を下げていくことによって、最終的には廃止すると決定したことに続くものです。

一方で、ビクトリア(以下、VIC)州政府は15年7月1日から外国人に対する印紙税率を実質上引き上げるといった法改正を行うなど、かなり異なるアプローチをとっています。こうした法改正の結果、外国人による直接的または間接的な住宅物件の取得を含む一定の取引に課される印紙税率は3%引き上げられました。その上、対象となる外国人購入者は当該3%の増加分に関して同州の税法に基づくさまざまな特典を受けることができません。

上記法改正では十分検討されていない文言や、場合によっては意味があいまいな文言が使われているため、とりわけオーストラリアの不動産業界から批判を受けています。このような批判をかわすためVIC州政府はガイドラインを発表し、州財務相に「VIC州における住宅供給に資する商業活動(主に住宅用を目的とする新規開発または再開発)を行う」外国人購入者を適用から免除する単独裁量権を与えることにしました。同ガイドラインは「対象住宅物件に対する外国人投資家の所有権または支配権の実質および程度」と「当該外国投資による地域社会への影響」を考慮するなど、州財務相が尊重すべきいくつかの原則を規定しています。しかし実際の運用では、投資家が商業上慎重に扱うべき情報を州政府に開示しないと単独裁量を申請できないという問題が伴います。このような問題を考慮に入れた上、VIC州にある宅地に関する取引を行う前に、州財務相の単独裁量による印紙税減免を申請するかどうかを検討する必要があります。

印紙税:不透明な将来

本記事で取り上げられた実例は、オーストラリアにおける印紙税制度の今後の方向性が極めて不確実であることを示唆しています。他の州政府および準州政府はVIC州の後に続いて国内と国外の納税者を差別化する方向に転じるか否かについて態度を明らかにしていません。さらに、連邦政府が「税制改正」と「各級政府間の責任分担に関する改革」をテーマにした2つの報告書の作成を表明していますが、これらに印紙税に関する提言が含まれるかどうか、また含まれたとしても各州政府および準州政府がそれを採用するかは明確ではありません。

結論として、これらの改正によりオーストラリア国内の資産に直接的または間接的に関連する取引を実行する場合には、事前にオーストラリアの印紙税制度に関してアドバイザーに相談することが、重要となります。

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※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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