2015/16年度鉱業・金属セクターの事業リスク・トップ10

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

EY パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
アジア太平洋地域統括
菊井隆正

著者プロフィル◎アジア・パシフィックおよびオセアニア地域日系企業担当部門代表。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供することで、オセアニアで活躍する日系企業に貢献できるよう努めている。
2015/16年度鉱業・金属セクターの事業リスク・トップ10

EYは毎年、世界有数の鉱業金属企業の幹部をインタビューし、業界を取り巻く環境を分析した結果を基に、鉱業金属セクターの主要ビジネス・リスクをレポートにまとめています。今月号では、その最新のレポートのキー・ポイントをご紹介します。

将来の成長、生産性と資本の確保

鉱山開発事業者が直面している事業リスクのトップ3は、将来の成長、生産性、そして資本の確保です。

世界の鉱業・金属セクターは今、スーパー・サイクルに対する「スーパー・コレクション(調整)」のさなかにあります。コモディティー価格の下落と変動の長期化は、セクターの利益、バランス・シート、投資家の見方に未曽有の影響を及ぼしました。このため、セクターの企業は引き続き、利幅、キャッシュフロー、使用資本利益率に注目しています。

設備投資の大幅な削減や鉱山の閉鎖など、回復の種はすでに数年前からまかれています。その結果、現在は、いくつかのコモディティーで供給に制約が出始めており、今後数年間の上昇サイクルが期待されています。しかし、上昇の程度はコモディティーによって異なります。

資本市場でのリスク回避傾向が強まる中、ほとんどのセクター企業が、コスト削減や株主還元の最大化といった短期的な施策やリスク回避を目的としているため、将来の成長見通しは限られています。

こうした脅威に加え、プライベート・キャピタル投資家やコモディティーのトレーダーが新たな競争相手として台頭し始めています。これらの投資家やトレーダーは、戦略・財務上の優位性を生かして、リスクを嫌う一般株主の抵抗を受けることなく、長期にわたって景気循環に逆らうような投資を行うかもしれません。

次の成長局面は迫っており、資産はまだ比較的安価で、オポチュニスティックな買収の機が熟しています。新たな供給の開発には時間がかかるため、将来の成長に向けた投資判断は今すぐ下さなければなりません。機会を逸すれば、長期的な利益は減少することになるでしょう。

セクターの持続可能性を実現するには、長期的な再投資と成長が不可欠ですが、公開資本市場は依然として、それとは逆行しています。この動きが今年の「鉱業・金属セクターの事業リスク」ランキングで、「成長への転換」を首位に押し上げたファクターでした。

生産性の向上と資本の確保は、今年のランキングでもトップ3に食い込みました。ほとんどの鉱山開発事業者はすでに、「増産最優先」の時代に失われた生産性を取り戻すための行動を起こしています。しかし、企業の生き残りと発展には持続的、長期的な生産性の向上が今も欠かせません。生産性の向上は、具体化と定着に2~3年がかりの変化を必要とすることから、今年もセクターの事業リスクの上位にランク・インしました。ある程度の取り組みを行っても、まだ相当に余地は残されているからです。生産性の向上は、今回のランキングでは第2位でしたが、事業上の課題としては今年度もCEOが再優先で取り組む分野となる見込みです。

資本の確保は、ほとんどのジュニア企業と多くの中堅企業にとって、引き続き生き残りを懸けた課題であり、今回も第3位でした。一部の比較的小規模で高コストの鉱山開発事業者については、近い将来に業績が改善する見込みはほとんどありません。他方、資本市場にアクセスできる企業にとって、資本の確保というリスクは、資金調達モデルが複雑化していることを意味します。

進化するリスク:資源ナショナリズムと社会的操業許可

第4位と第5位につけたのは「資源ナショナリズム」と「社会的操業許可」でした。現在、多くの国が積極的に鉱業・金属セクターに投資資金を引き寄せようとしています。しかし、生産国での選鉱・製錬義務化と税の透明性向上のための施策が世界中で進められており、資源ナショナリズムが変化し続ける事業リスクであることに変わりありません。同様に、セクター企業にとっては今や日常業務となっている社会的操業許可も、脅威の度合いは高まり、その性質も進化しています。地域社会と企業の利益が対立すると、政府が地域社会をバック・アップすることが増えたため、プロジェクトが遅延または完全に見送られるケースも後を絶ちません。

衰えないリスク:価格および為替のボラティリティー、投資計画の実行

価格および為替のボラティリティーは今回の調査でも第6位となりました。このリスクは過去1年間減少しておらず、多くのセクター企業に引き続き打撃を与えています。このリスクが企業の重要課題であり続けているのは、為替が大幅に変動し、価格または為替どちらかのボラティリティーに注目が集まっているためです。

投資計画の実行も、引き続き事業リスクのトップ10に食い込みました。投資計画に振り向けられる資本は激減していますが、スーパー・サイクル期に承認されたプロジェクトはリード・タイムが長いため、まだ開発が続いています。EYの調査によれば、鉱業・金属セクターでは資本をめぐる激しい競争とは別に、大幅な予算超過が続いているために、数十億ドル規模の複雑なプロジェクトの遂行が困難になっていることが分かりました。投下資本の生産性はCEOの重要課題であり、コストの暴走と予算超過への対処は不可欠です。

増大する脅威:エネルギーの確保、サイバー・セキュリティ、イノベーション

原油価格の低下は、鉱業・金属セクターの企業にひと息つく余裕を与えましたが、このセクターはエネルギーを大量に消費するため、エネルギーの確保は長期的な重要課題です。エネルギー・インフラが整っていないへき地に進出する企業が増えたこと、二酸化炭素排出量とエネルギー消費量の削減が先進国の義務であることを考えると、プロジェクトの構想段階から、エネルギーを持続可能でコスト効率に優れた形で安定的に供給することが、これまで以上に重要になるでしょう。生産国の国民が豊かになるにつれ、鉱業・金属セクターの企業と地域社会の間で、エネルギーをめぐる競争が厳しさを増しています。

「サイバー・セキュリティー」と「イノベーション」はどちらも今年初めてトップ10にランク・インしました。鉱業・金属セクターでは、サイバー・ハッキングが高度化し、拡大しています。EYの2014グローバル情報セキュリティー調査では、鉱業・金属セクターの企業の65%が過去1年間でサイバー脅威は高まったと回答しました。報告されていない(軽微な)事故も多数あるため、実際には、この脅威はもっと深刻である可能性が高いでしょう。また、ITと運用技術(Operation Technology)の融合は、サイバー・ハッキングに対する組織の脆弱(ぜいじゃく)性を高める可能性があります。しかしIT分野の高度なセキュリティーと統制が運用技術にも適用されれば、両者を融合したテクノロジー環境は徐々に強化されていくはずです。どんなささいなサイバー攻撃であっても、生産性の低下によって何百万ドルもの損失を与えたり、従業員の安全を脅す可能性があります。機密情報が漏れれば、企業の評判にも大きな傷が付くでしょう。

生産性の回復が重視されるにつれて、このセクターにイノベーションの欠如が浮き彫りになり、今年のランキングに初めてイノベーションが登場する結果となりました。利幅を長期にわたって確保するにはイノベーションが不可欠です。将来の収入を最大化するカギはイノベーションにあります。

ジャパン・ビジネス・サービス・ウェブサイト
ey.com/au/en/JapanBusinessServices

 

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

コンタクト:

菊井隆正(ナショナル)
Tel: (02)9248-5986
Email: takamasa.kikui@au.ey.com

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る