労働争議で高まるソーシャル・メディアの存在感

税務&会計Review

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アーンスト・アンド・ヤング
ジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター
篠崎純也

著者プロフィル◎オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。

労働争議で高まるソーシャル・メディアの存在感

今や多くの企業や個人にとって必要不可欠になってきたソーシャル・メディア。ソーシャル・メディアを1つのツールとして有効に活用することによって積極的に企業価値を高めることに成功している企業も多く見受けられます。その一方で、ソーシャル・メディアが労働争議に法的影響を与えてきはじめていることが懸念されます。雇用者である日系企業は、今後そういった動きにも注目していく必要があるでしょう。今月号では、雇用法とソーシャル・メディアについて解説します。

労働争議は多くの場合、従業員間のやり取りによってその行方が左右されることになると予想されます。Facebook、ツイッター、LinkedInなどのソーシャル・ネットワーク・サービスの登場以来、こうしたやり取りの頻度と方法が飛躍的に増加しました。例えば、ソーシャル・メディアの現在の利用者数とアクセス頻度の指標として、Facebook創設者のマーク・ザッカーバーグは先日、「2015年8月27日1日で、10億人超がFacebookを利用し、世界のオンライン・ユーザーの半数超が月に一度以上サイトにアクセスしている」と報告しました。

このことからも、オーストラリア国内の裁判所や法廷に提起される多くの労働争議にソーシャル・メディアが影響を及ぼすようになったと言えます。職場におけるソーシャル・メディアの法的影響については依然として答えの出ていない問題もありますが、最近のオーストラリア国内の複数の判決では、いじめやハラスメント、不正行為や不当解雇などの申し立てにソーシャル・メディアがいかに影響を及ぼすか、徐々にその枠組みが見え始めています。本稿では、最近の事例をいくつか詳しく検討します。

「職場」の概念が拡大中

職場はオフィスの四方の壁を超えて拡大し得るということは、雇用主ならすでに承知しているはずです。役員室での月曜朝の定例会議と同様に、オフィス以外での年末のパーティーも職場に含まれるのです。ソーシャル・メディアの利用により、職場の概念は更に拡大する可能性があります。例えば、従業員が就業時間中、実際にオフィスにいなければ、ソーシャル・メディア上の活動は雇用に関係のある内容とみなされないのでしょうか?

オーストラリア連邦レベル公正労働委員会(Fair Work Commission、FWC)の大法廷は先日、「職場で」いじめにあったという従業員の申立てを受けてこの問題を検討しました(オーストラリア法では、いじめ行為が「職場で」発生したものでなければFWCが介入できないことになっています)。Bowker(ボウカー)[2014] FWCFB9227裁判では、Facebookへの投稿も含めた不適切な行為に対して申し立てが行われました。被告側は、従業員が雇用主の就業場所で就業中にアップロードしたものでない限り、いじめの申し立てと投稿との関連性は認められないと主張しましたが、大法廷は、最初にコンテンツが投稿された場所が職場以外であっても、職場でFacebookのコンテンツに従業員がアクセスできれば条件は満たされるとして被告の主張を認めませんでした。大法廷は、こうした行為は「Facebookにコメントが残っている限り続く」とし、ソーシャル・メディアへの投稿という方法でいじめ行為がなされている点を根拠に正当性を示しました。

従業員はソーシャルメディア上での行動に要注意

時間や場所を問わず誰もが幅広くソーシャル・メディアのコンテンツにアクセスできるようになった現在、従業員は、雇用に影響を及ぼしたり雇用主の評判を損なうような行為のリスクを最小限に抑えるべく、オンライン上での活動に十分注意する必要があります。

例えば、あるジャーナリストは前の雇用主であるオーストラリアの放送局SBSからの解雇を巡って現在争議中です。このジャーナリストは、ANZACデー(戦争記念の祝日)にツイッターに投稿して物議をかもした一連の「つぶやき」が原因で、不当解雇されたと申し立てました。ANZACデーを追悼するオーストラリア人の名誉を傷つけた「つぶやき」は、SBSの方針に反しその評判を損なうものであるとみなされ、当該ジャーナリストはSBSから即時解雇されました。


また先日、Facebook上で同僚を「友達削除(解除)する」という一見害のない行為が、オーストラリア法上いじめがあったとの裁定に影響し得るとFWCがみなした事例もありました。Roberts vs VIEW Launceston(ロバーツ 対 VIEW ローンセストン)[2015] FWC6556裁判では、売り上げ喪失をきっかけに2人の従業員の間で始まったいざこざから、一方の従業員がうつ病と不安症と診断され、対立が解決するまで職場復帰は医学的に不適切であるとみなされ、いじめとハラスメントの申し立てにまで発展しました。FWCは最終的に、ソーシャル・メディアでの特定行動は相手や同僚に対する度重なる不適切な行為の一部であり、それが健康や安全に対するリスクをも発生させたと結論付けました。具体的には、1人の従業員をFacebookから友達削除することは、そのような状況では職場でのいじめとみなされることになるとして“感情的な成熟の欠如”を示すとFWCが判断しました。

境界は確かに存在する

労働争議においてはソーシャル・メディアにはまだ不明瞭な点が残されているものの、ソーシャル・メディアでの活動が司法に関連性のあるものとして考慮される範囲を裁判所が徐々に定義しつつあることが最近の事例からわかります。例えば、Rani vs Limitless Ventures(ラニ対リミットレス・ベンチャーズ)[2015] FWC6429裁判で、FWCはFacebookに投稿された前雇用主への苦情を従業員が「いいね」したという事実は、必ずしも彼女に「雇用主の企業としての評判を損なう意図があった」ことを示すものではなかったと結論付けました。そのため、当該従業員のこの行為は、解雇の正当理由になる不正行為に関与したかどうかという問題には関連性がないものとみなされました。FWCは、むしろマネージャーとしての重要職務の遂行という点で雇用主が当該従業員を信頼できないことのほうが問題があることを指摘しました。

デジタル時代への対応

ソーシャルメディア全盛の時代、雇用主には以下が求められます:

● ソーシャル・メディアに関して最新の方針を定めておく。方針は、いじめ・ハラスメント防止法や職場での健康・安全法を鑑み、許容されるソーシャルメディアの利用方法(職場内外で)を示すものでなければならない。

● 従業員のソーシャル・メディア活動を監視する場合は、必ず適用される職場監視法や方針に則って行う。 また、

● 疑わしいコンテンツや行動に対して措置を講じる場合は必ずその状況に応じて適切に行うよう、従業員のソーシャル・メディア上での活動を慎重に精査する。確信できない場合は、雇用主は措置を講じる前にプロの法律顧問に相談する。

ジャパン・ビジネス・サービス・ウェブサイト
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※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

※なお、本記事はEYのEmployment Law に所属するDanielle Wong(ダニエル・ウォン)およびSally Carr(サリー・ カー)の個人の意見を反映したものであり、EYの意見を反映するものではありません。この記事のお問い合わせについては、ジャパン・ビジネス・サービスの篠崎純也までご連絡ください。

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