OECDのBEPS行動計画に関する最終パッケージがオーストラリアで事業を展開する日系多国籍企業に与える影響

税務&会計Review

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アーンスト・アンド・ヤング ジャパン・ビジネス・サービス
パース・リーダー 
井上恵章

プロフィル◎勅許会計士・登録税理士・WA州弁護士・CTA。2012年にEYパース事務所入所。法人税・国際税法・石油資源税を専門とし多岐にわたる経験を基に実務的なアドバイスを日系多国籍企業のお客様へ提供している。

OECDのBEPS行動計画に関する最終パッケージがオーストラリアで事業を展開する日系多国籍企業に与える影響

税源浸食と利益移転(BEPS)の防止は、経済開発協力機構(OECD)と、日本やオーストラリアを含むOECD加盟国が重点的に取り組んできている課題です。今月号では、日系多国籍企業にも影響があるBEPSの最新情報をお届けします。

BEPSとは、多国籍企業がある特定の国の間での税法の違いやずれを利用して、企業グループ全体の税負担をグローバル・レベルで軽減させようとする戦略を指します。一部のBEPSに対応する法律はすでに施行されていますが、ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントや不適切な移転価格上の算定法などに対応する当事国の税制や租税条約に関してまだ抜け穴や不備がある点を懸念する声が高まっています。

OECDは多岐にわたるステークホルダーとの2年間の協議を経て、2015年10月5日にBEPSプロジェクトに関する税務上の提案事項を含む最終パッケージをG20首脳に向け発表しました。OECDによる最終パッケージは15の行動計画で構成されており、国内で利益を生み出す経済活動が行われ、かつ経済的価値が創出される場合、これらの経済活動より生じる利益に対する当事国の課税権の確保を目的としています。また、レポートでは特に一貫性、経済的実体、透明性に重点を置き、各国の税法及び国際税法について大きな政策の見直しを提案しています。

日本とオーストラリアでは、国際的租税回避に対応する法改正がすでに始まっています。OECDによるBEPSの最終レポートを公表、そして政治的な圧力が続く中、今後、税制改正のスピードは早まることが予想されます。本稿では、オーストラリアで事業を展開する日系多国籍企業に影響を及ぼしうるBEPS提案事項に焦点を当て、特に以下の点について取り上げます。

●国際税務における経済的実体の重要性
●恒久的施設の定義の変更
●提案されるグローバル税務報告書についての措置

経済的実体の重要性

OECDのBEPS最終レポートの主題の1つとして、国際税務における経済的実体の重要性が挙げられます。例えば、移転価格に関するBEPSレポートでは、移転価格上の分析結果と取決めの経済的実体の一貫性を確保するという目的について言及しています。この目的を達成するため、OECDの移転価格ガイドラインでは契約条件自体だけではなく取引の経済的実体に更なる焦点を当てるようになる予定となっています。なお、取引きの経済的実体を判断する際に考慮される主な要因には、従業員数、資産のレベル、関連国におけるリスクが含まれます。更に、租税条約に関しては条約の締結国において経済的実体のある事業体のみが当該条約の恩恵を授与できるよう制限する提案がされています。

恒久的施設の定義の変更

また、BEPS最終レポートで日系多国籍企業に関連するものとして「恒久的施設」の定義の変更に関する提案も挙げられます。この提案が多国間協定を通じて租税条約に反映されるまでには時間がかかるものと考えられますが、この新しいアプローチにより現行法/条約とは大きく異なる結果がもたらされる可能性が出てきます。

OECDにより提案されている定義上では、契約の締結までのプロセスで主要な役割を果たす代理人をオーストラリア国内に有する場合、非居住企業はオーストラリアに恒久的施設を有するとみなされる可能性が出てきます。この変更案は、国内の販売代理人を通して当事国の顧客関係を維持する形態を取る業界に対し特に影響を及ぼす可能性があると考えられます。

また特筆すべきは、オーストラリア国内で日本居住企業を代表して実質的に契約交渉する権限もしくは企業の名において契約を締結する権限を有しており、かつ常習的にその権限を行使している代理人(独立代理人を除く)がいる状況を現行の日豪租税条約が「恒久的施設」の定義に含めている点です。これは、他の多くの租税条約とは異なる点であり、今後の「恒久的施設」に関する提案の流れが日豪租税条約の定義に果たしてどのような影響を及ぼすか興味深い点になってくると考えられます。

グローバル税務報告書についての措置

多国籍企業のグローバル事業展開と各国地域内での経済的実体に関するより詳細な情報を当事国の税務当局に提供することによって、事業の透明性をグローバル・レベルで向上させることをOECDは提案しています。

オーストラリアでは国別報告書(CBCレポート)に関する法案は15年12月3日に議会で可決されており、16年1月1日以降に開始する課税年度から適用となります。国別報告書は以下の基準化された3層構造アプローチにより構成されます。

1)マスターファイル:全ての関連税務当局に提出される企業のグローバル事業活動及び移転価格ポリシーについて概観的な情報を提供する文書

2)ローカルファイル:各企業の事業、重要な国外関連取引、当該国外関連取引における独立企業間価格算定にあたっての分析をまとめた文書。これは当事国の税務当局に提出

3)国別報告書:税務当局が各国のリスクを判断できるように企業の各国地域における事業活動についてさまざまな統計データを要約した報告書

なお、国別報告書はグローバル本社または指定された子会社の税務当局に提出することになる見込みであり、他の地域の税務当局にも共有されます。

本稿の執筆時点では、国会に法案が提出されていないものの、日本でも16年4月1日以降に開始する事業年度から国別報告書が導入される見込みです。また、この報告要件は、日本の場合連結売上高が1,000億円超の多国籍企業に適用される見込みですが、オーストラリアでは、10億豪ドルが同様の基準値となっています。

このように国別報告書の要件が両国で異なることにより、日系多国籍企業では報告時期の相違や報告要件の相違が生じる可能性があるため、慎重に対応する必要があります。

ジャパン・ビジネス・サービス・ウェブサイト
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※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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