オーストラリアにおける駐在員の個人所得税申告について(後編)

税務&会計Review

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング ジャパン・ビジネス・サービス
雇用関連税務 シニア・コンサルタント 
歐陽慶(Kei Ouyang)

著者プロフィル◎豪州公認会計士。NSW大学大学院卒業後、大手税理士法人に入所。その後豊富な駐在員税務と法人会計管理業務経験を経て昨年8月よりEYシドニー事務所に入所。日本語が堪能。

オーストラリアにおける駐在員の個人所得税申告について(後編)

オーストラリア国税庁が2015年8月に発表した「ATOと移民局による情報の共有化」では、13/14年度から16/17年度の4年間にわたりデータ・マッチング・プログラムが行われることとなりました。これに伴い、一時滞在ビザ保有者の雇用における源泉徴収やフリンジ・ベネフィット税だけでなく、個人所得税申告書税務における遵守義務を正しく管理していることなど、雇用におけるコンプライアンスの重要性が高まっています。先月号に引き続き、オーストラリアにおける駐在員に係る給与事務においての留意点に触れながら駐在員の所得税申告について説明します。

主な所得控除及び税額控除項目

■経費控除

オーストラリアにおいては、日本のように給与所得控除という一律の控除項目はありませんが、必要経費(Work Expenses)として控除を認められるためには「課税所得の獲得に係る支出または損失」かつ「その性質が資本的または私用目的でないこと」が必要条件となります。

一般的に、業務随行のために掛かる経費などで、会社より立替精算を受けていないものについては所得控除の対象となります。ただし、出張に同伴した家族のための旅費などは私用目的と見なされるため、必要経費として控除が認められません。

また、控除経費が合計300ドルを超える場合には、その控除額を証明するため領収書などの書類が必要です。

※旅費に関しては、上記に加え、連続6泊以上を伴う場合には、行われたビジネスの「性質」、「日付と時間帯」及び「行われた場所」などの詳細が記載された日誌のような記録を残さなければならないことがあるため、注意が必要です。

◆駐在員へのポイント
 駐在または現地採用(永住者)の雇用形態に関わらず、業務に直接関連する情報誌や専門誌などに掛かる定期購読の費用は必要経費として控除が認められます。また、万一病気やけがになった際に収入を保障してもらうために加入する保険に関しても、一部の保険費用については控除が認められる場合があります。登録されているオーストラリアの慈善団体への寄付、個人の税務申告に関連して発生する経費も控除することができます。

■人的控除(税額控除)

経費控除以外に、所得税負担額を緩和するものとして、人的要素などを考慮する税額控除項目があります。それぞれに特定条件や調整後課税所得(Adjusted Taxable Income, ATI※)の制限が設けられているため、全ての納税者に適用されるものではありません。下記に、いくつかの税額控除項目を取り上げます。

※年間調整後課税所得額(ATI)とは、個人の課税所得の他にReportable Fringe Benefits(調整後額)、退職年金(雇用者申告対象分及び個人控除額分)拠出額、特定非課税政府補助金、特定非課税海外所得、投資純損失額(金融と不動産投資)や養育費などを合算した収入審査のための指標を指す。

•低所得者控除(最大控除額445ドル)
•医療費控除(19/20年度以降当該項目は適用できなくなります)
•扶養(障害・介護)者税額控除
•プライベート健康保険控除

※人的控除項目において、低所得者控除項目以外は一時居住者に適用しません。

税額控除項目 税控除額(2015/16) 特定条件内容
低所得者控除 $445 年間課税所得が$37,000以下の場合は税額控除全額適用。$37,001から$66,667未満の所得に対しは、$1ごとに1.5セントの税額控除額が減額されます。※実質年間課税所得$20,542までは所得税が掛かりません(通年居住者の場合)
医療費控除(19/20年度以降当該項目は適用できなくなります) 補填された金額を差し引いた純支出額の最大20% 障害者補助費または介護費、並びに所定老齢者介護費を対象に、扶養家族構成と年間調整後課税所得の基準に従い、医療費の純支出が一定額を上回った場合のみ※家族構成が配偶者と12歳の子ども1人、かつ調整後課税所得額が$180,000以下の場合は、純支出額が$2,218を超えた金額に対して20%の税額控除が認められる
扶養(障害・介護)者税額控除 $2,588 所定障害者または所定介護者を扶養している場合のみ、対象扶養者1人につき最大税額控除可能額※調整後課税所得が$100,000以下が条件
豪州プライベート健康保険控除 支払保険料の最大37.72%まで 納税者の年齢と扶養家族構成に従い、それぞれ調整後課税所得の条件が設けられている※家族構成が配偶者と12歳の子ども1人、かつ納税者が65歳未満の場合、最大27.82%までの保険料控除が認められる(夫婦合計調整後課税所得額が$180,000以下の場合)

その他の留意点

■スーパーアニュエーション(退職年金)

日本の厚生年金保険の場合、将来公的年金を受けるため従業員が会社と保険費を折半して給与から拠出しますが、オーストラリアでは、雇用主が従業員に代わって給与の9.5%をオーストラリアの基準に準拠する退職年金基金に対して退職年金保証料(Superannuation Guarantee Charge、SGC)を拠出する義務(強制退職年金加入制度)があります。この拠出率は21/22税務年度より10%となり、その後25/26税務年度までの間、徐々に12%に上昇します。

ただし、日本とオーストラリアは2国間社会保障協定を締結していることから、雇用者はオーストラリアで就業する日本人駐在員の日本での年金拠出を継続して行い、派遣前に日豪社会保障協定厚生年金保険適用証明書(Certificate of Coverage)を申請し、入手することによって、オーストラリアでのスーパーアニュエーション制度への拠出義務の免除を受けることができます。

また、上級経営幹部として任命される駐在員についても同制度において免除措置があります。

◆人事担当者へのポイント
 当該免除措置が受けられない場合、駐在員(一時居住者)のために拠出した積立金については、本人がオーストラリアを出国しビザが無効になった上、退職年金出国脱退一時金(Departing Australia Superannuation Payment)を申請し本人が払戻しを受け取ることができます。

■メディケア・レビー(健康保険税)

税務上居住者とみなされる個人は一般的にメディケア・レビー(2%)が課税されます。また、課税所得などが一定基準を超え、かつ十分にプライベート健康保険に加入していなかった場合は、メディケア・レビーに加え、メディケア・レビー・サーチャージ(最大1.5%)がそれぞれ課税所得額などに応じて算出され課税されます。

ただし、一時居住者ビザでオーストラリアで就業している日本人の場合、通常メディケア・レビーの免除を受けることができます。免除を受ける条件として、毎年年度末後にメディケア資格証明書(Medicare Entitlement Statement)を申請する必要があります。

メディケア資格証明書とは、メディケアの受給資格がないためにオーストラリアの税務申告においてメディケア・レビーの免除を受けられるということを確認するための書類です。

◆人事担当者へのポイント
 メディケア資格証明書は所得税申告の際にメディケア・レビーの免税申請のために必要とし、ATOによって免除が認められた場合還付金として受け取れます。メディケア資格証明書の申請を行う前提を事由に支払給与に対するPAYG源泉徴収税率に含まれる2%のメディケア・レビーの徴収義務が自動的に免除されることではありません。

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

コンタクト:

篠崎純也(シドニー)
Tel: (02)9248-5739
Email: junya.shinozaki@au.ey.com

 

歐陽慶(シドニー)
Tel: (02)9276 9325
Email: kei.ouyang@au.ey.com

 

渡辺登二(シドニー / ブリスベン)
TeL: (02)9248-4771 / (07)3011-3526
Email: toni.watanabe@au.ey.com

清水規史(メルボルン)
Tel: (03)8650 7650
Email: nori.shimizu@au.ey.com

 

井上恵章(パース)
Tel: (08)9217-1296
Email: shigeaki.inoue@au.ey.com

 

川井真由美(アデレード)
Tel: (08)8417-1974
Email: mayumi.Kawai@au.ey.com

EYジャパン・ビジネス・サービスのウェブサイトはこちらから
www.ey.com/AU/en/JapanBusinessServices

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る