2016/17年度ニュージーランド政府予算案 概要とオーストラリア経済と税務の比較

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EY パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
アジア太平洋地域統括
菊井隆正

著者プロフィル◎アジア・パシフィックおよびオセアニア地域日系企業担当部門代表。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供することで、オセアニアで活躍する日系企業に貢献できるよう努めている。

2016/17年度ニュージーランド政府予算案 概要とオーストラリア経済と税務の比較

オーストラリアの予算案発表に続き、2016/17年度ニュージーランド政府予算案が5月26日に発表されました。ニュージーランドはオーストラリアの隣国であり、共に自国の国旗に英国旗ユニオンジャックを配しているだけでなく、経済的にも非常に結びつきの強い国と言えます。今月号ではニュージーランド政府の予算案概要に加え、経済と税務の観点から両国を比較した結果をご紹介します。

ビル・イングリッシュ財務相による今回の予算案は、わずかながら財政黒字(GDPの0.3%)を達成しました。16/17年度予算案は現在の消費需要と将来の経済成長に必要な体力強化の両方に配慮しており、バランスのとれた財政予算案と言えます。果たしてニュージーランド政府はこの2つのニーズに対してバランスを取れるのでしょうか?

財政余力は減税に使う?

熟練労働者不足や乳業が直面している厳しい状況に関わらず、ニュージーランド経済は引き続き堅調な景気を維持しています。成長率は依然2.8%という立派な水準を保持し、また20年までに失業率は4.6%まで改善し平均賃金も6万3,000NZドルまで上昇すると予測されます。全てが予想通りに進めば、政府は20年までに67億NZドルもの財政黒字を見込んでいます。これで政府は最優先目標を財政黒字の達成から債務の返済に切り替える余裕ができることになります。しかしながら、16、17両年度の財政黒字額は共に、かなり控えめな7億NZドルにとどまると見込まれます。これではキー首相が実現したいと言っている30億NZドル規模の減税などに必要な財源確保は、向こう数年間は困難であると思われます。

法人税改革

マイケル・ウッドハウス歳入庁長官は、向こう4年間にわたる税制の近代化のために純額8億5,700万NZドルの財源を確保しました。同長官が改革目標として掲げたのは、中小企業がより多くの時間を税務処理ではなく、事業経営に充てるようにすることです。

国際税制

現時点においての変更はありませんが、その予告は既になされています。イングリッシュ財務相は彼自身の立場を「多国籍企業をターゲットにした更なる変更を実施していく」と厳然たる言葉で示しました。同氏はこれらの「変更」の具体的な内容に言及しませんでしたが、政府が最近、国際共通の税務申告基準の導入に関する多国間所管官庁合意に署名したことを受けて、情報公開が最優先事項に挙がるのは間違いないと思われます。
 これに関して私たちは拙速な行動を懸念しています。今やるべきなのは、ニュージーランドの国際税制環境を入念に精査することだと考えます。

中小企業税制簡素化

より広義な法人税改革の一環として、中小企業税制のメイン・パッケージは16年4月に発表されました。これにより18年度から中小企業の仮払納税に分割(pay-as-you-go)方式がオプションとして認められる他、一部の納税者に対する納税の不足分に対する利息が緩和または無くなります。また契約労働者についても、一義的な基準ではなく自ら源泉徴収税率を選べるようになります。

インフラ

16/17年度予算案は大型なインフラ・パッケージを盛り込んでおり、歳入庁による税制改革の財源分を含めたその規模は向こう4年間にわたって21億NZドル支出するものです。しかしながら、同パッケージの主眼は専ら税制改革と学校教育に置かれており、住宅、更に交通インフラの整備には焦点が当てられていません。

税制改革以外の主な社会インフラ関連予算案:

・学校教育施設の整備用に総額8億8,300万NZドルの追加予算が加わり、合計9校の新規建設、2校の拡張、4校の建て替え(うち1校は「Kura」と呼ばれるマオリ族言語の語学学校)、そして教室480室の増設に使われる

・ギスボーン、マールボロー、及びタラナキの地方道路整備に1億1,500万NZドル

・昨年発表された2年がかりの予算の一部として、キウィレール鉄道の建設に1億9,000万NZドル

・ニュージーランド・サイクリング道路のアップグレード、及び各地域自治体内の小規模インフラ・プロジェクトに合計3,700万NZドル

ニュージーランドの社会インフラ投資不足の解消には、まだまだ気長な取り組みが必要です。

経済比較

オーストラリアはニュージーランドの最大の貿易・投資パートナーです。ニュージーランド人のオーストラリアへの国外流出には歯止めがかかりましたが、その理由は下記の比較で明らかとなっています。

経済比較 ニュージーランド オーストラリア
財政赤字/黒字
ニュージーランドは債務を徐々に返済しているが、「20年までに20%減」の達成可能性については未だ予断を許さない
16年:7億NZドルの黒字 (GDPの0.3%相当)
17年:7億NZドルの黒字 (GDPの0.3%相当)
18年から黒字拡大
16年:391億豪ドルの赤字 (GDPの2.4%相当)
17年:371億豪ドルの赤字 (GDPの2.2%相当)
20年までに赤字額は減少していく見込み
純債務
ニュージーランドは縮小に努力しているが、オーストラリアは拡大
16年:GDPの25.1%相当
17年:GDPの24.9%相当
16年:GDPの17.3%相当
17年:GDPの18.9%相当
実質GDP成長率
ニュージーランドが僅差でリード
15/16年度 2.6%
16/17年度 2.9%
18/19年度 3.2%
15/16年度 2.5%
16/17年度 2.5%
17/18年度 3.0%
インフレ率
両国ともに低水準
0.4% 1.3%
金利
両国とも一体どこまで下がるのか?
2.25% 1.75%
フルタイム労働者の平均週間賃金
賃金水準の回復には未だ長い道のり
1,110.59 NZドル
フルタイムに相当する労働者が通常労働時間で得られる平均賃金
1,145.70豪ドル
フルタイム成年労働者平均賃金 (15年11月時点)
失業率
引き分け
5.6%
16年6月時点での予測
5.7%
16年4月時点

税制比較

ニュージーランドの効率的な法人税制は重要な国家財産であります。歳入庁が発表した向こう数年にわたる法人税制改革は歓迎されるべきです。イングリッシュ財務相が圧力に屈せずオーストラリア方式の迂回利益税(diverted profits tax、DPT)を採用しなかったことは、更に賞賛に値します。

税制比較 ニュージーランド オーストラリア
税収:GDP比
ニュージーランドは安定傾向
16年:27.9%
20年まで28% 前後で推移する見込み
16年:24.0%
20年までに 25.9% に上昇する見込み
主要な財政措置
将来の展望

法人税制改革
税制の近代化に向こう4年間かけて8億5,700万NZドルを拠出

5億300万NZドルの新規運転資金

3億5,400万NZドルの資本取得用資金

歳入庁による2億8,400万NZドルの支出削減及びコンプライアンス強化による2億8,000万NZドルの税収増

「企業税制改革10カ年計画」
まず年商1,000万豪ドル未満の企業に対して法人税率を 27.5%へと引き下げ、さらに今後10年かけて全法人を対象に法人税率を25%までに引き下げる

個人所得税では、37% の税率が適用される最低収入基準8万豪ドルから 8万7,000豪ドルへと引き上げ、これにより約50万人が37%の税率の適用を受けなくて済むようになる

より指向性の高い年金拠出税制

税制の簡素化(金融取引に関する税制も含む

豪州への投資促進

従来型とasset-backed型の投資に対する税制上の扱いが同一になるように、2種類の新型投資ビークルを導入

向こう4年間にわたり毎年年率12.5%のタバコ税増税

国際租税回避防止
私たちは拙速な行動を懸念している。まずやるべきなのは、ニュージーランドの国際税制環境を入念に精査することだ私たちは拙速な行動を懸念している。まずやるべきなのは、ニュージーランドの国際税制環境を入念に精査することだ
なし

新しい迂回利益税(DPT, Diverted Profits Tax)制度導入により2018/19財政年度の政府収入は年間1億豪ドルと見積もられている。また豪州国内で発生した利益の不正な海外移転を試みる多国籍企業に、新たに40%の懲罰税率を設定

主に多国籍企業による租税回避の摘発を強化するため、租税回避撲滅タスクフォースに6億7900万豪ドルの追加予算。これにより、向こう4年間にかけて合計37億豪ドルの税収増を見込む

大企業向けの税務申告透明化に関する自主規則を新しく制定

税務不正を暴露する通報者に対する保護措置を導入

16/17年度個人所得税率
現時点で変更予定なし
※2%の予算均衡時限税は含まず
14,000 NZドルまで— 10.5%
48,000 NZドルまで— 17.5%
70,000 NZドルまで— 30%
70,000 NZドルを超過分— 33%
18,200豪ドルまでの分 — 非課税
37,000豪ドルまでの分 — 19%
87,000 豪ドルまでの分— 32.5%
180,000豪ドルまでの分 — 37%
180,000 豪ドルを超える分— 45%

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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コンタクト:

菊井隆正(ナショナル)
Tel: (02)9248-5986
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