ニュージーランド税制事情:今、内国歳入庁が最も力を入れている取り組み

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EY パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
アジア太平洋地域統括
菊井隆正

著者プロフィル◎アジア・パシフィックおよびオセアニア地域日系企業担当部門代表。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供することで、オセアニアで活躍する日系企業に貢献できるよう努めている。

ニュージーランド税制事情:今、内国歳入庁が最も力を入れている取り組み

オーストラリアの隣国であり、政治的経済的にも密接な関係があるニュージーランドには、オーストラリアを拠点とする日系企業が支社や子会社を管轄しているケースも少なくありません。今月号では、オーストラリアの国税庁(ATO)に相当する、ニュージーランド内国歳入庁の動きを通してニュージーランドの税制事情について解説します。

ニュージーランド内国歳入庁(Inland Revenue Department、以下IRD)による調査は、調査費用1ドルあたり約5ドル分の摘発効果をもたらしています。これだけの経済効果があるため、IRDは正しい税額を収めていない疑いのある納税者を積極的に追及しています。IRDが現在、税務調査を集中させている対象は以下の通りです。

・高収入者及び高額資産保有者

・不動産売買(特に最近の法改正により、IRDによる不動産関連法規のより厳格な執行が可能になった)

・次の融資取引:複合金融商品、ハイブリッド事業体、セール・リースバック取引、「経済的費用」を伴わない利子控除申告(例えば、利息または元本を株式で返済する場合)、高レバレッジ率融資、源泉税が徴収されていない場合の利子控除申告(ここでも、IRDによる法執行を容易にするため源泉税に関する法改正が提案されている)

・移転価格

・資産ベースが恣意的に水増しされた過少資本

・自社が損失を計上し、または海外で営業する関連法人が損失を計上したニュージーランド国内法人

IRDは上記の課題について法的でテクニカル規定の観点や、特定の状況下における租税回避阻止の観点から取り組んでいます。最近のニュージーランド判例法によれば、合法的な税務戦略と租税回避の間で明確な線引きが可能です。また、現行税制体系において商業的な合理性を欠く部分や、一部納税者に優位性を与える部分について、IRDは積極的に税務調査と見直しを行っています。

国際的な税源浸食と利益移転(Base erosion and profit shifting、以下BEPS)関連対策も、ニュージーランド政府による税務政策ワーク・プログラムの重要な一環です。ニュージーランドの税制体系は既におおむねOECD勧告に沿うものとなっていますが、幾つかの分野では改正が見込まれています。

ニュージーランドでのビジネスに最も影響を与える変更点としては、利子控除可能性、ハイブリッド・ミスマッチ取り決め、国別報告書、恒久的施設の4点が挙げられます。また、多くのニュージーランド中小企業は、事業ライフ・サイクルの早い段階から海外へ進出していることから、恒久的施設をめぐる変更点は特に重要と思われます。事業拡大分(Incremental activity)は新しい規定により、誤って海外で課税対象となるリスクが高まります。

実務上では、既に最近のIRD税務調査が、過去よりも深いレベルまで踏み込むなどBEPSに対応した傾向が見られるようになっています。また、要求する情報が広範にわたり、往々にして海外の税務当局が質問するような内容を聞かれるようになりました。

ニュージーランド納税企業とその海外親会社が税務リスク軽減のためにできること

上に列挙したリスク分類のうち1つでも該当する可能性があれば、IRDが当該取引を問題視するかどうかについて税務アドバイスを受けることが重要です。

IRDは往々にして取引の実態と形式の乖離に批判的な態度を取るので、契約書を起草する際はそうならないよう注意を払う必要があります。また契約条項が将来の予見せぬ事態にも柔軟に対応できるように起草し、かつ定期的に見直しをすることが大切です。企業間での価格合意に影響する各要素について熟考することなく、契約書の雛形をそのまま採用してしまうことは深刻なリスクを伴います。

融資取引に当たって、納税企業は自社の業績状況及びその予測、そして予想されるキャッシュ・フロー・ポジションを考慮したうえで、負債額が商業的合理性を説明できる範囲内に収まるよう慎重に検討する必要があります。さらに、業種、規模、事業ライフ・サイクルが類似する他社と比較しながら、それらの負債額と同レベルになるように検討すべきでしょう。

多期連続の損失計上は、現実に即していない移転価格を示唆するサインとしてIRD税務調査を招く可能性があります。従って、損失につながる原因(例:需要減少、管理上の失策、R&D投資など)は、毎期ごとに対応関係が分かるように記録しておくべきです。その上で、原因分析をビジネスの他の側面にも反映させ、将来の収益性向上のための方策も記録するべきです。例えば、損失につながった一因が管理面の問題だとすれば、主要管理者の業績評価や報酬にも等しく反映させるべきでしょう。

企業の不十分な対応としてよく見られる例は、取引に関する契約書以外の書類記録の不備です。高額にも関わらず契約書以外でその取引をサポートする書類が皆無または少なすぎる取引に対して、IRDはさらに懐疑的な態度を取るようになってきています。企業はそうした取引を行う動機、関連する各法人の立場から見た当該取引の商業的意義、取引に至った経緯、行政上のインセンティブ、当該企業が新たな事業内容を行ったり新たなリスクを背負ったりすることになるか否か、これらを丁寧に書類に記録しておくべきです。これら取引をサポートする証拠書類として、例えば商業報告書、法的及び会計アドバイス、取締役会の議事録、主要管理者の対話記録が挙げられます。

また取引完了後に、実際に行われた取引内容をサポート書類が正確に反映している事を確認するためのレビューも行うべきでしょう。このレビューは、1部門が単独で行うのではなく、場合によっては他部門と相談しながら、当初予定した経済活動が実態として発生したことを確認する形を取るべきです。


不確実性を解消するために、企業は幾つかの手段を利用できます。例えば移転価格の観点から言えば、IRDに対して事前価格合意(Advanced pricingag reement)や拘束力を持つ個別規定(Binding Ruling)を求める交渉を行える場合があります。これにより企業は不要な税金、罰金、そして延滞利息から自らを守ることができます。

IRDが最近の訴訟で83.3%の勝訴率を誇っている事実から、企業はリスク分野を認識し、自らが結ぶ商業契約が税務上のリスクを発生させないよう確認することがますます大切になってきています。IRDは既に一連の複雑な融資構造の違法性を明らかにしており、日常的な融資問題や取引にも調査の手が伸びるのは時間の問題です。

※本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、EYを代表するものではありません。本稿は一般情報の提供を目的としており、アドバイスではなく、そのように理解されるべきものではありません。本稿が提供した情報をもとに行動する前に、専門的なアドバイスを受けることをお勧めします。

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