オーストラリアの再生可能エネルギー動向

税務&会計Review

税務&会計 REVIEW

EY パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
オセアニア/アジア太平洋地域統括 
菊井隆正

プロフィル◎アジア・パシフィックおよびオセアニア地域日系企業担当部門代表。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供することで、オセアニアで活躍する日系企業に貢献できるよう努めている。

オーストラリアの再生可能エネルギー動向

オーストラリアは広大な土地と日照環境や安定的な風に恵まれ、再生可能エネルギー資源が豊富な国です。独立した気候変動の研究機関のレポートによると、現在未利用の再生可能エネルギー源のポテンシャルは同国の電力需要の500倍の供給能力があると言われています。有利な自然環境を保有する傍ら、オーストラリアの発電電力量における再生可能エネルギーの利用率は国際エネルギー機関加盟28カ国のうち下から7番目です。今月号では、シドニー日本商工会議所(JCCI)発行の「オーストラリア概要2016/17」に寄稿した記事を紹介します。

オーストラリアの発電形態

種別 割合(%)
石炭 61.2
ガス 21.9
石油 2.0
再生エネルギー 14.9

(出展:Department of Industry and Science,‘Australian Energy Update 2015’)

2014年における発電形態は右表の通りです。化石燃料の全体の比率が縮小しているのに対して、再生可能エネルギーはここ10年で6.8%成長しています。

世界各国において、再生可能エネルギーの導入は政府の気候温暖化対策やさまざまな公的支援に支えられて拡大するのが一般的ですが、オーストラリアも例外ではありません。

オーストラリアでは80年代から地球温暖化対策に対応したさまざまな施策が導入されましたが、その後の政府の予算カットやプロジェクトの見直し、更に政策変更などにより廃止されたものも少なくありません。直近では労働党時代に導入した炭素価格制度が保守政権に変わってまもなく廃止され、代替策として現保守連合政権が15年にDirect Action政策(※)を導入しました。

一方、再生可能エネルギー源による発電を促進する目的で導入した再生可能エネルギー目標(Renewable Energy Target、RET)は、超党派の支持を得ておりオーストラリアにおける再生可能エネルギーの普及を後押しする政策の柱となっています。

RET制度

RET制度の起源はハワード内閣にさかのぼり、10年までに再生可能エネルギーによる発電を2%に増やすことを目指し、01年にスタートしました。また、その後の労働党政権に替わってからは、20年までに国内電力の20%以上(または4万5,000GWh)を再生可能エネルギー源で賄うべく、09年に同政策を拡大しました。

11年に発電規模に応じて大規模発電(LRET)と小規模発電(SRES)に分割し、大規模発電(風力、商業用太陽光及び地熱)で4万1,000GWh、残りを小規模発電(家庭用太陽光発電など)で達成するとしました。

これらの目標を達成するため、小売電力事業者などに対しては、購入電力量の一定割合について、再生可能エネルギー証書(REC)の取得が義務付けられています。

同事業者は、再生可能エネルギー電力の年間取引の申告において、法定責任を果たしたことを証明するため、規制当局にこの証書の提出が求められます。法定の責任を果たすことができなかった時は、課徴金が課されるという仕組みです。

一方、再生可能エネルギー事業者は発電量に応じて発行された証書を小売電力事業者などに販売することができます。従って、再生可能エネルギー事業者は発電した電力と共に証書の販売も採算性の観点から重要な役割を果たしており、同政策の継続性及び確実性は再生可能エネルギー業界の成長を後押ししている構造となっています。

実際、RET制度の導入により、風力・太陽光などの大規模再生可能エネルギー発電設備が400件設置され、また家庭用の屋根上設置型太陽光パネルでは140万基以上の設置が促進されました。これらは再生可能エネルギーによる発電の割合を8%(01年)から14.9%(14年)まで引き上げたことに貢献し、その結果二酸化炭素排出においては01年から14年の間で電力発電による年間排出量の10%を削減したというレポートがあります。

RETの見直し

屋根上設置型太陽光パネルが普及し電力ユーザーの節電意識の拡大で電気料金と共に電力需要は年々低下しており、このまま進むと法制化した4万1,000GWhの達成目標値は直近の20年には予想電力需要量の27%くらいを占めるレベルとなり、RETのコストとその必要性に疑問の声がその後生じるようになりました。

その影響で14年2月、アボット内閣はRETの見直しを図り、主な変更点は大規模発電(LRET)の目標値を実需に合わせて引き下げる方向で検討を開始することを発表しました。これを受け、見直しが発表されてから15年の半ばくらいまで再生可能エネルギーへの投資意欲が消失し関連プロジェクトへの資金調達も凍結しました。総額150億米ドルの大規模再生可能エネルギー・プロジェクトも一時中断となり、世界最大の集光型PV太陽光発電所(ビクトリア州、ミルデュラに100MW規模)の建設計画も卸売価格の低さとRETの見通し不透明性から中止されました。その後、15年5月にターンブル政権は再生可能エネルギーによる大規模発電(LRET)目標値を3万3,000GWhに引き下げることで野党と合意し、同月末には新目標値を含むRET制度の改正法案が上院を通過しました。

風力・太陽光に注目

改正法案の通過により、1年以上続いたRET制度の不確実性が取り除かれ、またターンブル政権に変わってからの政治的コミットメントをもって再生可能エネルギーへの再投資が期待されます。20年までに新目標値の3万3,000GWhの再生可能エネルギー発電を確保するために、例えば風力のみでその目標値を達成するには5,000MWの新規の設備が必要となり、投資額にすると80~120億ドルに相当します(コスト競争上、実際のところ風力で賄われる比率が高いと予想される)。

小売電力事業者と再生可能エネルギー事業者間の長期電気購入契約も、これまでのRET不確実性によって見送られてきましたが、同契約が再び締結される様相を見せており、再生可能エネルギー事業を活発化させることが期待されます。例えばクイーンズランド州のエロゴン・エネルギー社が15年8月に実施した入札案件には多数の再生エネルギー事業者からの強い関心が示されました。

ただ、これまでの投資へのブレーキで大型の再生エネルギー・プロジェクトは大幅に不足しており、現在、20年に目標値を達成するための新規の設備が3分の1しか確保されていません。


一方、オーストラリアは他の先進国と同様にインフラが老朽化しておりインフラ投資を大規模に実施する必要性が高まっています。政府の対策として資産リサイクル・イニシアチブを導入しており、非中核的また老朽化した資産を売却し、その売却収入が新たな生産性の高い経済インフラに再投資されています。

政府の政策に引き寄せられ既に20本くらいの世界のインフラ・ファンドがオーストラリアでの投資活動を行なっており、インフラ事業に投資を求める資金は総額1,400億ドルにまで達すると言われています。今後、インフラ・ファンドも再生エネルギー分野に資金を振り向けることが予想され、再生エネルギー導入に拍車がかかることが期待されます。

※Direct Actionとは現保守連合政権が導入した気候変動政策。「飴と鞭」を組み合わせた政策であることが特徴である。排出を削減した企業に資金を提供する排出削減ファンド(Emissions Reduction Fund、ERF)と一定の排出量を超えた企業にペナルティーを課すセーフガーディング(Safeguarding)メカニズムが柱となっている。

シドニー日本商工会議所(JCCI)発行の「オーストラリア概要2016/17」の詳細についてはこちらのリンク(Web: www.jcci.org.au/oz-gaiyo2016-17.pdf)をご参照ください。

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

コンタクト:

菊井隆正(ナショナル)
Tel: (02)9248-5986
Email: takamasa.kikui@au.ey.com

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る