日本の平成29年度(2017年度)税制改正:タックス・ヘイブン対策税制改正(前編)

税務&会計Review

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EY税理士法人
エグゼクティブ・ディレクター/豪州デスク 
カーンズ裕子

プロフィル◎オーストラリア登録税理士。2006年EYシドニー事務所入所。15年よりEY税理士法人東京事務所に駐在。オーストラリアにおける法人税務申告代行や税務調査対応、そしてM&A、グループ再編、事業の設立・売却などに関わる税務アドバイスの提供を通して日系多国籍企業のお客様のオーストラリアでの事業をサポート

日本の平成29年度(2017年度)税制改正:タックス・ヘイブン対策税制改正(前編)

今月は、平成29年度税制改正項目として平成30年(2018年)4月からの導入が確認されているタックス・ヘイブン対策税制改正の概要について日本のEY税理士法人のTax Insightsウェブサイト(Web: www.eytax-insights.jp)に掲載されている記事をご紹介します。資源ブームが終わった後も日本企業のオーストラリアへの投資が続く中、投資戦略上、税務上のストラクチャリングの検討は引き続き重要な課題になっています。本稿ではタックス・ヘイブン対策税制改正の動向を把握し、後編ではオーストラリア投資への影響を解説します。

自民党と公明党で議論され、メディアでも注目を集めた所得税の抜本改革は見送られ、税制改革が骨抜きになったとの指摘もある平成29年度税制改正。しかし、この改正には企業に大きな影響を与える見直しが盛り込まれています。「タックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」の見直しです。

富裕層やグローバル企業による税逃れに世界中から厳しい視線が注がれる中、日本の財務省もこの制度の強化を進めています。「タックス・ヘイブン対策税制」とは、国内企業が低税率の海外子会社に所得を移転することにより日本における税負担を不当に軽減することを防ぐため、一定の要件に該当する海外子会社の所得については国内親会社の所得と合算して課税するものです。

焦点となったのは、「トリガー税率(実質租税負担割合)」の取り扱いです。現行制度では、入口基準としてトリガー税率が課税・非課税の分水嶺(ぶんすいれい)として用いられ、現地国における実効税率が20%未満の外国子会社の所得に対してタックス・ヘイブン対策税制の合算課税が適用されています。

「ペーパー・カンパニー」等の合算課税

これまでは、外国子会社の実質租税負担割合が20%以上であれば、企業は何も悩む必要がありませんでした。しかし、今般の税制改正において「入口基準としてのトリガー税率」は廃止されることになります(企業の事務負担増大に配慮して、最終的な制度適用免除基準としての「税率基準(20%あるいは30%)」は残されています)。

「ペーパー・カンパニー」や「実質的なキャッシュ・ボックス」といった新たな企業概念が登場し、これらのペーパー・カンパニー等に掛かる合算課税制度が創設されます。改正後は、外国子会社の実効税率が20%以上であっても、ペーパー・カンパニー等に該当すると合算課税の対象になります(実効税率が30%以上であれば対象になりません)。

現時点で「ペーパー・カンパニー」の定義は政府与党の税制改正大綱等で示されているものの、限界事例は明らかではありません。しかも、外国子会社がペーパー・カンパニーと認定され、いったんタックス・ヘイブン対策税制の対象になると、合算額が巨大になる可能性があるためやっかいです。

日本企業は、これからは「実質実効税率20%」という数値基準ではなく、「ペーパー・カンパニー」という定性的な企業概念基準への対応を準備しなければなりません。

新規定の適用判定については図表1をご参照ください。

図表1(出典:自民党税制調査会作成資料を一部加工して作成)

図表1(出典:自民党税制調査会作成資料を一部加工して作成)

受動的所得の範囲拡大

もう1つ、今回のタックス・ヘイブン対策税制の見直しで注目されるのが、受取利子や配当・キャピタル・ゲインといった「受動的所得(パッシブ・インカム)」の扱いです。

現行制度上、外国子会社の税負担割合が20%未満であっても、事業基準や実体基準といった適用除外基準を全て満たした場合には、全ての所得について合算課税の対象とされるわけではなく、当該子会社に一定の「資産性所得(受動的所得)」がある場合に限りその所得についてのみ合算対象となり、また、その合算対象とされる受動的所得の範囲もきわめて限定的でした。

今回の改正で、対象となる「受動的所得」の範囲が大幅に拡大されました。これまで対象とされなかった貸付金に掛かる受取利子や一定の配当金、キャピタル・ゲインも含まれることになり、合算課税所得が巨額になる可能性があります。外国子会社の所得の種類や金額について、一層の注意が必要となるでしょう。

受動的所得の範囲の改正前後の比較は図表2をご参照ください。

図表2(出典:自民党税制調査会作成資料を一部加工して作成)

【現行制度の「資産性所得」の範囲】 【改正後の「一定の受動的所得」の範囲】
対象所得の範囲 対象所得から除外されるもの
債権の利子※ 利子◎ 業務の通常の過程で得る預金利子、一定のグループファイナンスに係る貸付利子を除く
償還差益※
持株割合10%未満の株式等に係る配当※ 配当◎ 保有割合25%以上の株式等に係る配当を除く(注)一定の資源投資法人から受ける配当に当たっては、10%以上
- 有価証券の貸付けの対価◎ -
持株割合10%未満の株式等の譲渡益※ 有価証券の譲渡損益◎ 保有割合25%以上の株式等に係る譲渡を除く
債権の譲渡益※
-  デリバティブ取引に係る損益◎ ヘッジ目的のもの、一定の商品先物取引業者などが行う一定のデリバティブ取引に係る損益を除く
- 為替差損益◎ 事業(外国為替差損益を得ることを目的とする事業を除く)に係る業務の通常の過程で生ずるものを除く
- 金融資産から生じる上記各種所得以外の所得◎ ヘッジ目的のものを除く
船舶・航空機の貸付けの対価 有形資産の貸付けの対価 一定のリース事業に係る対価、本店所在地国使用資産等に係る対価を除く
特許権などの使用料(自己開発等一定のものに係る使用料を除く) 無形資産の使用料 自己開発等一定のものに係る使用料を除く
- 無形資産の譲渡損益 自己開発等一定のものに係る譲渡損益を除く
- 資産、人件費、減価償却費等の裏付けの無い異常所得 -

▶上記※の所得については、事業(株式保有業等の特定事業を除く)の性質上重要で欠くことのできない業務から生じたものは合算対象から除外。
▶上記◎の所得については、現地法令に準拠して事業活動を行う一定の金融機関は、合算対象から除外

企業に求められる対応

新制度は、平成30年4月から導入されるため、まだ時間的猶予があるように思われますが、企業は対応を急ぐべきと専門家は指摘しています。求められる対応は以下のように大別され、特に①と②は早急な対応が必要です。

① 課税リスクの予想・特定・抽出
② 課税リスクへの対処法・予防策の策定・実行
③ コンプライアンス(申告義務等遵守)に関する適時・適切な対応

①に関しては、海外子会社等にかかる情報収集が必要であり、将来の課税リスクの抽出・予想が求めらます。特に、これまでの制度下では問題がありませんでしたが、改正後は問題になるようなケースに注意が必要です。

②については海外子会社の企業実体・機能の変更、合併等を通じた組織再編による企業実体・機能の変更、グループ内会社間の資本関係(持分割合)の変更といった、より大がかりな対応が必要になるかもしれません。

コンプライアンス対応である③については、親会社の事務負担が増えると予想されており、事前に準備する必要のある文書の確認や申告業務の効率化を検討する必要があります。

いずれにおいても、企業はタックス・ヘイブン対策税制への対応を自前で全てできるか否かを検証し、必要であれば外部のエキスパートの力を借りることも視野に入れなければならない時代に来ています。

今後後編として、新しいタックス・ヘイブン対策税制の影響についてオーストラリアの投資の観点からの解説を予定しています。

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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コンタクト:

カーンズ裕子(東京)
Tel: +81(3)3506-2768
Email: yuko.kearns@jp.ey.com

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