豪州国税局による新規定:一般目的財務諸表への移行とその影響

税務&会計Review

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アーンスト・アンド・ヤング
ジャパン・ビジネス・サービス/監査 
清水規史

プロフィル◎日本公認会計士。IFRS、USGAAP及び日本基準に基づく監査を専門とし、豪州をはじめ世界各国へ展開するグローバル企業に対する監査業務経験が豊富。日豪通算で約10年にわたる実務経験を有する。

豪州国税局による新規定:一般目的財務諸表への移行とその影響

豪州国税局(ATO)は、2015年12月、多国籍企業の租税回避への対処施策の一環として、一定の収益規模を超えるグループに属する企業に対して、今後、一般目的財務諸表の提出を義務付けることを決定しました。本決定は、16年7月1日以降に開始する課税年度から適用され、現在、特定目的財務諸表を作成している多くの企業へ影響があると考えられます。今月号では、新たな規定の概要と現行実務への影響について、特定目的財務諸表との比較を中心として解説します。

新規定の概要

大規模グローバル企業(Significant Global Entity、以下「SGE」)は、豪州証券投資委員会(ASIC)へ提出済みでない限り、一般目的財務諸表(General Purpose Financial Statement、以下「GPFS」)をATOへ提出することが義務付けられました。

SGEは、以下のいずれかの基準に当てはまる企業とされ、現在、特定目的財務諸表(Special Purpose Financial Statement、以下「SPFS」)を作成している企業は留意が必要です。

• 全世界収益が10億オーストラリア·ドルを超えるグループの親会社
• 上記親会社の連結グループに属する子会社

SGEに該当するか否かの判断はオーストラリア・ドルが基準である一方、判断基礎となる親会社の連結財務諸表は日本円で作成されているケースが大半と考えられるため、為替レートの動きに留意が必要です。

また、判断基準は「収益」であり、売上高に限定されません。特に多額の一時的な収益(固定資産売却益など)がある場合にも注意が必要です。

新規定と会社法の関係

今回のATOによる新規定は会社法(Corporations Act 2001)に基づくASICへの財務報告フレームワークを変更するものではありません。今現在の財務報告フレームワークによって、今後の対応が以下のように異なります。

現在のASIC財務報告フレームワーク ATO新規定導入後の対応 ケース分類
監査済みGPFSをASICへ提出している 実質的に無し(ASICへ提出しているGPFSがATOへ提出されるのみ) ケース①
監査済みSPFSをASICへ提出している SPFSに代わりGPFSを作成しASICへ提出し、当該GPFSをATOへも提出する ケース②
現在のSPFSを継続してASICへ提出し、ATO提出用に別途GPFSを作成する(2つの異なる財務諸表を作成する) ケース③
ASICへの財務報告義務が免除されており、法定財務諸表を作成していない ATO提出用にGPFSを作成する(ASICへの財務報告義務は引き続き免除を受ける) ケース④

現在SPFSをASICへ提出している企業の場合、上記ケース②とケース③の2つの対応方法が考えられますが、ケース③は2つの異なる財務諸表を作成することになり、実務的な観点から必ずしも効率的な対応方法ではないと思われます。

なお、ATOは、提出されるGPFSに監査が必要かどうか、また後述するTier 2 GPFSの採用が認められるかどうか、明確なガイダンスを提供していません。この点は更なるガイダンスが提供されることが期待されますが、とりわけ監査の要否は、ケース③及びケース④に該当する企業へ影響するため、今後のATOの動向に留意が必要です。

次章以降では、実務的に多いと考えられるケース②を前提に、SPFSからGPFSへ移行する際の留意点について解説します。

一般目的財務諸表(GPFS)とは

1. 特定目的財務諸表(SPFS)との違い

SPFSが特定の利用者及び目的に資するために作成されるのに対して、GPFSは広く一般の利用者に資するために作成されます。

SPFSはオーストラリア会計基準(AASB)の認識及び測定に関する規定への準拠が要求されているものの、開示に関しては一部の規定を除き省略することが可能であり、どの程度の開示を行うかは企業の裁量に任されています。一方、GPFSはAASBが要求する全ての開示規定へ準拠する必要があり、従って両者の決定的な違いは要求される開示のボリュームであると言えます。

2. 二つのTier

GPFSはAASBが要求する開示規定へ準拠する必要がありますが、企業が公に対する説明責任(Public Accountability)を有していない場合は、開示項目の簡素化(Reduced Disclosure Requirement)が認められており、前者をTier 1、後者をTier 2と呼びます。

・Tier 1:AASBが要求する開示規定を全面適用したGPFS
・Tier 2:AASBが認める簡素化された開示規定を適用したGPFS

公に対する説明責任は以下の通り定義されますが、日系企業の非上場現地法人のような場合は、当該説明責任は有さず、Tier 2の適用が認められるケースが多いと考えられます。

※公に対する説明責任とは、経済的意思決定を行うが特定の情報公開を要求する立場にない既存または潜在的な投資家及びその他の外部者に対する説明責任を意味する。

なお、AASBを全面適用したTier 1 GPFSは、国際財務報告基準(IFRS)に基づき作成された財務諸表と同等のものとして扱われますが、開示を簡素化したTier 2 GPFSはIFRS財務諸表と同等のものとしては扱われません。

3. 重要な相違点

GPFSへ移行後はAASBで要求される多くの項目を開示する必要があります。事業内容などによって異なりますが、一般的に以下の基準に関連する項目はSPFSで開示されていないことが多く、GPFS作成のために追加での情報収集が必要となるケースが多いと考えられます。

• AASB第7号「金融商品:開示(FinancialInstrument: Disclosures)」 
• AASB第8 号「事業セグメント(Operating Segments)」(Tier 2ではセグメント開示は要求されず任意)
• AASB第13 号「公正価値測定(Fair Value Measurement)」
• AASB第112 号「法人税(Income Taxes)」
• AASB第124号「関連当事者取引の開示(Related Party Disclosures)」

また、その他の重要な相違点として、連結財務諸表の作成が挙げられます。連結財務諸表はAASB第10号「連結財務諸表(Consolidated Financial Statements)」に基づき作成されますが、SPFSはAASB第10号の適用が必須ではないため、子会社を有していながら連結財務諸表を作成していない場合もあります。しかしながら、GPFSにおいてはAASB第10号の適用が必要であり、従って連結財務諸表の作成が必須となります。現状、SPFSであることを理由に連結財務諸表を作成していない場合は、連結会社間取引の集計、未実現内部利益の把握、その他必要な連結調整のための準備が必要です。

GPFS移行時の留意点

SPFSからGPFSへ移行する際、Tier 1とTier 2のどちらへ移行するのかによって、会計上の取り扱いが異なります。

Tier 1 GPFSへ移行する場合、AASB第1号「オーストラリア会計基準の初度適用」を適用する必要があります。これは、Tier 1 GPFSがIFRS財務諸表と同等のものであると認められるために必要な移行措置です。一方、Tier 2 GPFSへ移行する場合は、AASB第1号の適用は必要ありませんが、Tier 2 GPFSはIFRS財務諸表と同等のものとは認められません。

適用時期

新規定は、16年7月1日以降に開始する課税年度から適用されます。12月決算であれば17年12月31日、3月決算であれば18年3月31日に終了する年度からの適用となります。

今後の留意点

GPFSへの移行は、連結財務諸表の作成必須化を除き、財務諸表本体への影響は基本的になく、開示項目の拡充の問題です。現行の会計処理自体の変更を要求するものではなく、売上高、総資産、純資産といった主要な財務指標への影響もありません。

しかしながら、追加で要求される開示項目があること、SPFSとは異なりAASBにて要求される開示項目を網羅的にカバーしていることの検討が必要であること、更には開示に関するAASBの改正にも注意を払う必要があることに留意が必要です。

新たに開示が要求される項目は何か、どのような情報の追加収集が必要かなど、早急に検討を開始することが大切です。

免責事項
 本稿は一般的な情報を提供する目的で作成されており、法的助言を行うものではありません。本稿の内容に関連する事項については、正式な法的助言を別途受けた上で判断される必要があります。

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コンタクト:

清水規史(メルボルン)
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Email: nori.shimizu@au.ey.com

 

篠崎純也(財務諸表コンプライアンス・サービス)
Tel: (02)9248-5739
Email: junya.shinozaki@au.ey.com

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