自己運用型スーパーアニュエーション・ファンドについて(前編)

税務&会計Review

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング
ジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター
篠崎純也

著者プロフィル◎オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている。

自己運用型スーパーアニュエーション・ファンドについて(前編)

スーパーアニュエーションはオーストラリア人の老後資金を作るための重要な役目を担う制度です。その中でも自己運用型スーパーアニュエーション・ファンド(Self Managed Superannuation Fund、以下SMSF)と呼ばれるファンドの資産残高は年々拡大しており、スーパーアニュエーションの総資産残高(約2兆3千億ドル)の約3分の1を占めています。今回は、SMSFが利用される背景とそのメリット・デメリットなど、SMSFに焦点を当てながらオーストラリアのスーパーアニュエーション制度について解説します。

スーパーアニュエーションとは

スーパーアニュエーション(以下、スーパー)は、退職後に備えて資金を積み立てる、いわゆる確定拠出年金制度です。また、個人がスーパーアニュエーション・ファンドに持つ口座のことも指します。

下記の円グラフが示すように、スーパーの積立金がオーストラリア人の退職後の主な収入源に占める割合は公的年金に続いて2番目となっています。

個人の退職後の主な所得源

オーストラリア統計局が45歳以上の退職者の収入源を調査して算出した数値。主な回答を集計。

オーストラリア統計局が45歳以上の退職者の収入源を調査して算出した数値。主な回答を集計。

スーパーは私的年金であるのに対して、オーストラリアには老齢年金(Age Pension)と呼ばれる公的年金もあります。これは日本のように年金保険料の納付は求められておらず、財源は税金となっています。ただし、老齢年金の受給に際しては所得と資産テストが行われ、支給基準を上回る所得または資産のある場合には給付額が制限され、老後生活に十分な所得や資産を有する高齢者には、公的年金は支払われません。

スーパーは公的年金になるべく依存しなくても済むよう、個人の退職後に備えた投資を奨励するための施策で、極めて有利な税制上の優遇措置が設けられています。ただし、そうした優遇措置を利用するには、積立金の使用と便益を禁じる厳格な規則に従う必要があります。

スーパーに対する積立金の拠出

スーパーに積立金を拠出する方法は、実質的に2種類しか存在しません。スーパーアニュエーション保証制度(Superannuation Guarantee Scheme、以下SG)に基づく強制拠出、そして任意拠出がそれに相当します。

①SGによる強制拠出

SGとは、従業員のスーパー積立金を雇用主に強制拠出させる制度です。この制度の下では、雇用主は各従業員の給与や賃金の総計の9.5%に相当する金額を、従業員に替わってスーパーアニュエーション・ファンドに支払う義務があります。SGの最低拠出額は、2018年6月30日までは9.5%で据え置かれる予定ですが、その後は毎年0.5%ずつ増加し、25年7月1日からは12%となる予定です。SGの拠出金は15%の課税対象となり、拠出金を受け取るファンドがその税金を納付します(実際は従業員の積立金から引かれる)。

②任意拠出 (Voluntary Contribution)

従業員は給与からの天引き(Salary Sacrifice)、または税引き後の資金や資産からの拠出という形で、任意にスーパーに積立金を拠出することができます。

給与から天引きする場合、雇用主と従業員の間であらかじめ取り決めをし、従業員の税引前給与の一部をスーパーに拠出します。給与から天引きされる積立金は、所得税の課税対象となりません。

SGによる拠出金と同様、給与から天引きされた積立金は原則15%の課税対象となり、受け取るファンドがその税金を納付します(年収25万ドル以上の従業員の場合は更に15%の税金が追加されます)。

所得税の最高税率が45%であることを考えると、いかに税務上優遇されているかが分かります。更にファンドの運用益に対する税率も一律15%となります。その代わり、拠出金額(SG+任意拠出)には現在年間2万5,000ドルの上限が設けられており、上限を超えた額は個人の所得に応じた税率で課税されます(上限まで拠出しなかった場合、19年7月1日からはその未拠出分を将来に繰越すことができるようになります)。

また、税引後の資金による任意の拠出もある一定の上限までは可能であり、こうした種類の拠出金は、拠出時には課税対象となりません。

スーパーの種類

MySuper

まずは最も基本的なスーパーとしてMySuperがあります。これは従業員がスーパーの拠出先(ファンド)を特に決めていない場合、雇用主はMySuperに拠出金を支払うことが求められます(通常選択肢を与えられている80%の人が拠出先を指定していないと言われます)。MySuperは低コストの投資手段で、通常は投資オプションが限られています。以下で説明するSMSF以外の各ファンドがそれぞれMySuper商品を提供しています。

リテール型ファンド (Retail Fund)

主に投資会社または金融機関が運営しています。またMySuperよりコストは高くなりますが、より多くの投資オプションやその他の特徴があるのが一般的です。

産業型ファンド(Industry Fund)

一般に特定業界の従業員専用のファンドです。ただし、大規模な産業ファンドの中には誰でも参加できるものがあります。

公的セクター型ファンド (Public Sector)

連邦政府と州政府の職員専用のファンドです。

企業型ファンド (Corporate Fund)

通常、雇用主が自社の従業員だけのために設立するファンドです。

自己運用型ファンド (SMSF)

SMSFと他のファンドの主な違いは、SMSFの加入者がファンド自体をコントロールし、投資に関する決定も全て加入者が行うという点にあります。他のファンドは加入者数に特に制限は設けられていませんが、SMSFでは1人から4人に限定されています。

以下の表はファンドの種類ごとに現状の投資額、ファンド数、会員数を記したものです。次に、SMSFに焦点を当てて解説します。

ファンドの種類 総資産(10億ドル) ファンド数 口座数
リテール型ファンド 580 131 1,300万
産業型ファンド 518 41 1,110万
公的セクター型ファンド 372 38 350万
企業型ファンド 59 30 30万
自己運用型ファンド 677 592,820 110万
その他ファンド 55
合計 2,261
2,900万

出典:オーストラリア健全性規制庁(APRA)の統計(2017年1月~3月)、同庁の口座数に関する年次統計

SMSFの設立

SMSFを設立するには下記のようなステップがあります。

①トラストの設立及び信託証書(Trust Deed)の作成
②トラストの受託者(Trustee)を任命:個人または会社(Corporate Trustee)
③トラスト加入者(Member)の指名:最高4人まで加入者が可能で、全員がTrusteeになることが必須。会社がTrusteeの場合は、その会社をまず設立し、取締役が加入者となる
④豪州税務当局(ATO)にSMSFを登録
⑤SMSF名義の銀行口座を設立
⑥拠出金を入金(または既存のスーパーの残高をSMSFに振り込む)
⑦投資戦略(Investment strategy、目標とするリターンとリスク、現金、株式、債券、不動産など資産の配分方法等)の作成、保険に加入する必要性などを検討

SMSFの保有資産

資産の種類 価額(百万ドル)
上場株式 207,620
現金及び定期預金 157,024
住宅以外の不動産 78,224
非上場トラスト 67,250
その他管理型投資 36,587
上場トラスト 29,331
住宅不動産 28,174
リミテッドリコースによる借入れ 25,749
その他資産 17,159
債券 8,078

SMSFファンド数は現状で約60万あり、保有資産はおよそ6,700億ドルです。
 SMSFの平均資産残高は約117万ドル、またSMSF加入者一人当たりの残高は約59万4,000ドルです。
 SMSFは現在、幅広い資産に投資されています。こちらに投資資産トップ10を示します(右表)。

来月号も引き続きオーストラリアにおけるスーパーアニュエーション制度に関してSMSFに焦点を当てながら解説します。

EYジャパン・ビジネス・サービスのウェブサイトはこちらから
www.ey.com/AU/en/JapanBusinessServices

コンタクト:

篠崎純也(シドニー)
Tel: (02)9248-5739
Email: junya.shinozaki@au.ey.com

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