自己運用型スーパーアニュエーション・ファンドについて(後編)

税務&会計Review

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング
ジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター
篠崎純也

著者プロフィル◎オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている。

自己運用型スーパーアニュエーション・ファンドについて(後編)

前編に続き自己運用型スーパーアニュエーション・ファンド(Self Managed Superannuation Fund、以下SMSF)に焦点を当てながら、オーストラリアにおける老後の資産形成として重要な役割があるスーパーアニュエーション(以下、スーパー)制度の特徴について解説します。

SMSFのメリット

投資の選択肢

加入者/受託者にとってSMSFの主なメリットは、投資先を自由に選択でき、投資の選択肢が他のファンドより幅広い(住宅や商業用不動産、株式、定期預金、収集品など)という点にあります。また、ビジネス・オーナーが会社の保有資産(例:商用不動産)をSMSFに移転し、会社にリースバックすることがよくあります。会社の運用資金にゆとりを持たせ、かつSMSFが受け取るリース料は低い税率で運用されるためです。

更にSMSFに移転した商用不動産は個人資産となるため、会社とは別に資産が保護されることもその背景にあります。SMSFが保有する資産の所在地には特に制限はなく、日本の商業不動産を持つ個人がその物件をSMSFに移転することも可能です。

自己運用型スーパーアニュエーションファンドを通じた商用不動産の購入と賃借

借り入れ

SMSFは投資を目的とした資金の借り入れが認められているので、個人では取得できない、より価値の高い資産(不動産など)を取得することができます。一般に、こうしたタイプの契約では、第三者の貸し手は不動産価額の約60~70%を融資します。

SMSFが利用できる融資はリミテッド・リコースに限定されているため、万が一債務不履行が生じた場合、貸し手の償還請求権は借り入れによって取得した資産に限定されますが、金融機関の多くは追加担保の提供を要求します。

また、融資を利用すると売却時に利益を拡大することができますが、資産価値が下落した場合はリスクも高くなることを理解しておく必要があります。また下記のような点も念頭に置く必要があります。

●SMSFに対する不動産ローンは一般に他のローンより利子が高いこと
●債務返済はSMSFから行われなければならないので、ファンドには常に十分なキャッシュ・フローが確保されていること
●不測の事態(例えば加入者の死亡など)が発生すると契約を解除したり不動産を短期間で売却したりする必要があり、その場合大きな損失が発生すること
●SMSFの損金は、他の会社または個人の課税所得と相殺することはできないこと
●借り入れによって取得した不動産をリフォームなどする場合、厳しい制限があること

税金

下表は、投資目的のために資産を保有する際、最も一般的に使用される3つの形態における税率を比較したものです。スーパーの税率はどの種類のファンドでも同じですが、SMSFは前途の通り、他のスーパーより柔軟性が高いため、税務上の優遇措置をフルに活用できるメリットがあります

個人 スーパー 企業
所得税率 最大45%*1 0~15% 27.5~30%
キャピタルゲイン税率 最大45% *1,2 0~15%*2 27.5~30%

*1 表示した税率には「Medicare Levy」は含まれていない
*2 資産を12カ月以上保有した場合は「CGT Discount」が適用される

資産の譲渡

SMSFには資産計画の柔軟性や自由度が他のファンドより高いという特徴もあるので、SMSFの資産を所定の人に分配する場合、最も税負担の少ない方法で行うことができます(税金負担を完全に回避できる場合もあり)。

資産の保護

資産保護は、特にビジネス・オーナーにとって重要な課題です。ビジネスの破産や訴訟が発生した場合でも、個人のスーパーは通常保護されます。

SMSFのデメリット

一方、SMSFのデメリットには以下のようなものがあります。

●SMSFを運用する上でさまざまなコンプライアンスがあり、そのための専門知識が求められることや責任を引き受けなければならないこと
●加入者と受託者の間に紛争が生じた場合、スーパー紛争解決機関(Superannuation Complaints Tribunal)には付託できず、詐欺や盗難に遭った場合、加入者は政府の資金援助を受けられないこと

次に、SMSFを含むスーパー資産全体の積み立てと引き出しについて解説します。

スーパー資産の各段階

スーパーの利用期間は、積み立てを開始してから引き出しまでの資産形成期(Accumulation Phase)と、引き出しが可能となる年金支払期(Pension Phase)に分かれます。

Accumulation Phase(資産形成期)

将来の退職後の生活に備え、貯蓄を拡大する期間。この段階では、ファンドの資産によって生じた運用益(例:賃貸料や配当金)は15%の課税対象となり、税金はファンドが納税します(キャピタルゲイン税は10%)。

Pension Phase(年金支払期)

保有資産を原資に、年金という形で毎年引き出しが可能となる期間。この段階では、ファンドの資産によって生じたキャピタルゲインを含む運用益は一切課税されません。ただし、この期間に入ると毎年最低限の引き出しが求められており、年齢に応じて最低引き出さなければならない残高に対するパーセンテージが設定されています。

2017年7月1日より、年金支払期の開始残高の上限は1人当たり160万ドルに設定されています。しかし、支払い開始時の残高が160万ドル以内であれば、その後の資産の運用(例:利息や配当収入、キャピタルゲインなど)によって増えた分はカウントされませんので、残高がそれ以上増えても引き続き税金の対象となりません。

スーパー資産の引き出し

スーパーの引き出し方法として、①一部または全部を一括で引き出す(Lump Sum)、②年金(Income Stream)として受け取る、または①と②を混合した形での引き出しがが可能です。通常スーパーの引き出しが可能となるのは65歳に達した場合(退職しなくても引き出し可能)か、それ以前では保全年齢(Preservation age)に達し、かつ完全に退職する場合となります。

保全年齢は加入者の誕生日によって異なり下表の通り55~60歳の間に設定されています。また保全年齢に達した後、完全に退職しなくても例えばパート勤務で勤務日数を減らし、スーパーからの定期的な給付として一部を引き出すこともできます(Transition to retirement)。

スーパーは原則的に老後資金を蓄えるためにありますので、病気や経済的に著しく困難な場合など一定の事情がない限り早期の引き出しはできません。

誕生日 保全年齢(歳)
1960年7月以前 55
1960年7月1日~1961年6月30日 56
1961年7月1日~1962年6月30日 57
1962年7月1日~1963年6月30日 58
1963年7月1日~1964年6月30日 59
1964年7月1日以降 60

スーパー制度は、退職後のための資産形成として優遇措置が設けられており、その中でもSMSFは運用先の選択や、資産の管理など、自分でコントロールしたい人にとっては有効な手段です。一方、運用に費やす時間や知識が必要となり、会計、監査、税務申告などさまざまなコンプライアンス要件を満たす必要があるため、SMSFを開設される際は事前に専門家に相談することをお勧めします。

免責事項
 本稿は一般的な情報を提供する目的で作成されており、法的助言を行うものではありません。本稿の内容に関連する事項については、正式な法的助言を別途受けた上で判断される必要があります。

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コンタクト:

篠崎純也(財務諸表コンプライアンス・サービス)
Tel: (02)9248-5739
Email: junya.shinozaki@au.ey.com

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