投資家に企業の真価を伝える非財務情報開示とは?

税務&会計 REVIEW

EYジャパン・ビジネス・サービス
オセアニア/アジア太平洋地域統括
菊井隆正

プロフィル◎アジア・パシフィック及びオセアニア地域日系企業担当部門代表。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供することで、オセアニアで活躍する日系企業に貢献できるよう努めている。

投資家に企業の真価を伝える非財務情報開示とは?

ここ数年、日本では企業による環境・社会・ガバナンス(Environmental, Social and Governance、以下「ESG」)などの非財務情報開示の動きが急速に広がっています。EYは非財務情報が投資家へ与える影響について、世界中の機関投資家を対象に調査をしていますが、世界的な傾向として非財務情報に対する投資家の関心が年々増大し、投資決定する際のESG要素の果たす役割が拡大していることが分かっています。本稿では、計320の回答を基に出された2017年発表の最新調査結果の主要なポイントをご紹介します。

投資家はESG評価の高い企業を支持

近年世界中の多くの企業が、各種報告書で売上高や利益といった財務情報と合わせて、温室効果ガス排出量や女性管理職比率などといったESGに関する非財務情報を開示しています。また多くの投資家は、企業のESGパフォーマンスと財務パフォーマンスとの因果関係を既に理解しています。環境問題や社会問題に積極的に取り組まない企業には深刻な風評リスクや環境リスクが浮上する可能性があり、それらが純利益に大きな影響を及ぼし得るためです。EYが2016年に投資家を対象に実施した調査で、過去12カ月間で非財務パフォーマンスが投資決定に重要な役割を果たした頻度について質問したところ、68%が「頻繁にある」もしくは「時々ある」と回答し、過去最高となりました(図1)。回答者10人のうち4人以上が、非財務情報は投資決定において重要な役割を果たすことが「時々ある」と回答していることは、投資家やアナリストが、非財務情報の評価に対して便宜的に幅広いアプローチを取っている可能性を示唆するものです。

図1. 過去12カ月間で、企業の非財務情報が投資判断において重要な役割を果たしてきた頻度はどのくらいですか?

ESG報告を促進するパリ協定

2015年12月に採決されたパリ協定(2020年以降の温室効果ガス排出削減などのための新たな国際枠組み)では、世界の気温上昇を産業革命前と比べて摂氏2度未満に抑えるという、史上初の普遍的かつ法的拘束力を伴う国際気候変動政策に195カ国が合意しました。同協定は世界的な経済政策の一大転換をもたらすでしょう。金融経済市場は排出集約型産業の製品やサービスから徐々に距離を置き、ゼロエミッション技術、再生可能エネルギー源に向けて再編されるとみられます。また、パリ協定で設定された目標が達成されたとしても、企業は引き続き気候変動による影響を受け続けます。そのため投資家は企業に対し、予想される変化に対しどう適応していくかを今後ますます問い続けていくでしょう。今回の調査では、27%がパリ協定の「2度未満」目標によって、企業の気候変動対策や関連リスクマネジメント戦略に関する情報開示が「劇的に増加する」、58%が「ある程度増加する」と予測しています。「全く変わらない」と予測する投資家は15%にすぎませんでした。また、「2度未満」目標に関するリスクを十分に開示しない企業に対し投資家の不満が募っており、多くの企業が事後報告的な情報開示を行う中、投資家は将来を見据えた情報開示を求めています。

パリ協定がもたらす変化に最初に取り組むことになるのは、最も影響を受ける業界、すなわち石油、ガス、鉱業、石炭、化学業界です。医薬品、農業、食品、飲料、小売り業界などの一部企業にはまだ気候変動リスクの影響が及んでいませんが、いずれほぼ全ての企業がこの問題に取り組むことになるでしょう。

またESG問題に関する最近の不祥事も、非財務情報開示に注目が集まる要因となっています。排ガステストを不正にクリアする目的で違法なソフトウェアを搭載していたことが発覚した事例が最たるものですが、今回の調査では、大手企業による不祥事を受けて、非財務情報開示にどの程度注視するようになったかとの質問において、40%の投資家が「非財務情報開示をより一層注視するようになった」、41%が「従来よりある程度注視するようになった」、19%が「影響していない」と回答しています。

投資家は座礁資産リスクを懸念

投資家が特に懸念するESG関連リスクの1つは、規制、社会的期待、破壊的技術や環境条件などの変化によって生じる座礁資産です。調査した回答者の60%以上が、過去12カ月以内に座礁資産リスクにより株式保有額を減らした、あるいは、保有額は減らしていないが将来の座礁資産リスクに備え注意深くモニターすると答えました(図2)。

図2. 過去12カ月間で、規制、社会的期待、破壊的技術や環境条件などの変化により生じる座礁資産リスクにより、企業の株式保有額を減らしたことがありますか?

ある企業が座礁資産リスクにさらされている場合、投資家にとってそのリスクがいつ株価に反映されるかを判断することは難しく、座礁資産リスクにさらされている株を完全に排除する、あるいは大きくアンダーウェイトする方針を取る方が簡単です。なぜなら、いつ起こるかは分かりませんが、その座礁資産リスクが株価に影響を与えることは不可避だからです。

一方で現在の事業モデルに影響し得るESGリスクを企業が適切に開示しているか尋ねたところ、回答者の60%はESGリスクの開示は十分ではなく、企業は更に開示すべきと考えていることが分かりました(図3)。最近ではリサーチ会社が信頼性ある指標や分析を提供するようになり、ESG情報の質は上がってきているものの、更なる向上の余地があると思われます。特に大型株の多国籍企業ではESG報告は向上してきていますが、中型株や小型株企業では報告の質が著しく低下しています。また、ある投資家は、「ESGパフォーマンス指標は役立つが、それだけでは不十分であるという段階に差し掛かっている。私たちが真に望む情報は、企業戦略とESGリスクへの対処に関するものである」と述べています。

図3. 企業は現在の事業モデルに影響し得るESGリスクを適切に開示していますか?

求められるESG情報は日々進化

以前は、鉱業、石油、ガスといった重工業企業労働者の安全衛生に関する情報や、安全実績に関する責任を投資家は重視していました。今日でもこうした情報は重要ですが、企業は既に通常業務の一環として情報公開やリスク管理を実施しています。投資家は、社会からの期待の変化、破壊的技術の影響、人口動態の変化、水などの資源不足、気候変動、金融危機後の役員報酬など、他のESG問題へと焦点を移しています。

今日では、サイバー・セキュリティー・リスクに関する情報さえESG開示と関連付けられることがあります。サイバー・セキュリティー・リスクは、管理やデータ漏えい、ハッキングの防止といった観点からはガバナンスの問題となり、個人情報流出が深刻な顧客ロイヤリティー問題につながるという観点からは社会問題ともなり得るためです。

最後に

企業は事業が直接環境に与える影響を報告するだけではなく、気候変動などESGリスクに対する今後の戦略や未来の事業モデルを説明する必要が高まるでしょう。一定の評価・選定プロセスを通じてESGにおける重要課題を決定するマテリアリティー・プロセスを踏むことによって、ESG開示のためだけの「見せかけの環境活動」と見られることを避け、今後ステーク・ホルダーに対して環境的、経済的、社会的リスクと機会、そしてこれらが現在と将来の事業に及ぼす影響を明確にすることが重要となってきます。


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コンタクト

菊井隆正(ナショナル)
TEL: (02)9248-5986
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