オーストラリアにおける駐在員の個人所得税申告について【前編】

税務&会計 REVIEW

EYジャパン・ビジネス・サービス
雇用関連税務マネージャー
歐陽慶(Kei Ouyang)

プロフィル◎豪州公認会計士。NSW大学大学院卒業後、大手税理士法人に入社。その後豊富な駐在員税務と法人会計管理業務経験を経てEYシドニー事務所に入社。英語、中国語、日本語の3カ国語が堪能。

オーストラリアにおける駐在員の個人所得税申告について【前編】

オーストラリア国税局(ATO)が新たに発表した「ATOと内務省による情報の共有化」では、2017/18年度から3年間にわたり約2,000万人のビザ保有者を対象にデータ・マッチング・プログラムが行われることになりました。このキャンペーンは雇用者の所得税の源泉徴収やフリンジ・ベネフィット税申告などの税務申告だけでなく、一時滞在ビザ保有者の個人所得税に関する申告義務も果たされていることを確認する狙いがあります。今回は、オーストラリアにおける駐在員に関わる給与事務においての留意点に触れながら駐在員の所得税申告について解説します。

給与所得者の納税義務について

日本では、給与支払者が給与所得者の年末調整をしている多くの場合、確定申告を必要としないため、あまり所得税申告についてなじみがないのではないでしょうか。

一方、オーストラリアでは年次源泉徴収明細書(Annual PAYG Payment Summary)を給与支払者より受け取った場合、課税年度(毎年7月から6月末まで)が終了後、10月31日までに所得税を自己申告する義務が発生し、税金の還付を受けるまたは納付することになります。ただし、タックス・エージェントが代理で個人所得税申告の作成及び提出を行う場合は通常申告期限が延長されます。

なお、給与所得者の所得税申告は個人の義務となりますが、給与支払者にはオーストラリアの課税対象となる給与から所得税を源泉徴収し納税する義務があります。

◆人事担当者へのポイント

国税局のデータ・マッチング・プログラムの導入に伴い雇用における的確な源泉徴収の重要性が高まっています。また過少徴収(または海外給与分の未徴収)した場合に会社が負担する駐在員の個人所得税だけでなく、それに対する追加コスト(フリンジ・ベネフィット税)、そしてPAYG源泉徴収及び納付義務に違反があった場合の延滞税や罰則金、そして会社の取締役にも責任が問われることに注意しなければなりません。これに加え、2018年7月1日から従業員を20人以上抱える雇用主は新しい給与情報の電子申告制度(Single Touch Payroll)の導入が求められており、これにより雇用者は給与、賃金、PAYG源泉徴収税、スーパーアニュエーション拠出金など主な給与情報を統合ソフトウェアを使用してリアルタイムに申告することが義務付けられています。この電子申告制度は駐在員に対して支払う海外給与にも適用することが予想されます。

オーストラリア納税者番号

オーストラリアでは納税者番号(TFN)を用いて、所得税申告や納税手続きを行います。TFNを通知しなかった従業員に対しては、雇用者は支払給与に対して47%(最高税率45%とメディケア税2%)のPAYG源泉徴収税を徴収する必要があります。

◆駐在員へのポイント

オーストラリアの銀行で口座を設ける場合も、金融機関に対してTFNを提出する必要があります。提出しない場合、利子所得に対して最高税率で源泉税が徴収されます。また、赴任期間が終わり日本へ帰国される場合も非居住者になる旨を金融機関に伝え、非居住者に対する源泉徴収税率の10%が適用されることで当該所得について別途申告義務はありません。

税務上の居住者区分及び課税率

オーストラリアの個人所得税制上の観点から、居住区分には「居住者」「一時居住者」「非居住者」の3つがあります。それぞれ、事実関係によって判断されるため、納税者を取り巻く状況の変化によって税制上居住区分が変わることもあります。また、居住区分によって、【表1】のように課税対象所得及び【表2】と【表4】の通りに税率が決まります。なお、日豪租税条約に定められる免除規定の用件を全て満たすものについては、オーストラリアでの所得税の納付義務が免除されます。

【表1】税務上の居住者区分

納税義務者 課税対象所得 税率
居住者 全世界所得 累進課税【表2】
一時居住者※1 豪州源泉所得及び全世界勤労所得 同上
非居住者 豪州源泉所得 累進課税【表4】

※1短期滞在ビザ(例:457、TSSビザ)で赴任されているほとんどの駐在員に適用されますが、配偶者または本人が社会保険規定上オーストラリアの居住者とみなされる場合(例、永住ビザや特別保護カテゴリー・ビザを保有する場合)は適用されないため十分に留意が必要です。

【表2】2017/18年度居住者及び一時居住者の税率

課税所得 累進課税 税額
$0~$18,200 なし なし
$18,201~$37,000 19% $18,200超の範囲につき$1当たり19セント
$37,001~$87,000※2 32.50% $3,572+$37,000超の範囲につき$1当たり32.5セント
$87,001※2~$180,000 37% $19,822+$87,000*超の範囲につき$1当たり37セント
$180,001~ 45% $54,232+$180,000超の範囲につき$1当たり47セント

上記の税率には2%のメディケア・レビーは含まれていません。民間保険に加入していない個人に対して発生するメディケア・レビー・サーチャージ(健康保険税課徴金)も含まれていません。

【表3】2018/19年度予算案

累進課税(%) 2018/19年度から
2021/22年度まで
2022/23年度及び
2023/24年度
2024/25年度以降
課税所得
0% $0~$18,200 $0~$18,200 $0~$18,200
19% $18,201~$37,000 $18,201~$41,000 $18,201~$41,000
32.5% $37,001~$90,000 $41,001~$120,000 $41,001~$200,000
37% $90,001~$180,000 $120,001~$180,000 廃止
45% $180,001~ $180,001~ $200,001~

【表4】2017/18年度非居住者の税率

課税所得 累進課税 税額
$0~$87,000※2 32.5% $1当たり32.5セント
$87,001※2~$180,000 37% $28,275+$87,000超の範囲につき$1当たり37セント
$180,001~ 45% $62,685+$180,000超の範囲につき$1当たり45セント

ただしワーキング・ホリデー・ビザ保有者の場合、課税所得$0~$37,000までの課税率は15%となり、それ以上は通常の非居住者の累進課税率(32.5%、37%、45%)が課されます。

※22018/19年度の連邦予算案の施策には所得税率32.5%の所得税基準枠を2018年7月1日より8万ドル7,000ドルから9万ドルまで引き上げることや新たに年間最大530ドルの低・中所得者税控除を導入する改正点が含まれています。また、同予算案は2022/23年度から低所得者税控除額の引き上げ(年間最大645ドル)や所得税率32.5%の所得税基準枠の下限を3万7,000豪ドル以上から4万1,000ドル、そして上限を更に12万ドルまで引き上げ、2024/25年度からは所得税率37%の所得税基準枠の廃止に伴い32.5%の所得税基準枠上限を20万ドルに引き上げる施策が含まれています。

◆駐在員へのポイント

駐在員の方が、短期滞在ビザから永住ビザへの切り替えを検討することがあります。永住権へ切り替えた場合、税制面においてどのような影響を及ぼすのか(全世界所得課税やメディケア・レビーとメディケア・レビー・サーチャージの支払義務など)についても検討が必要です。

◆人事担当者へのポイント

海外研修生制度で日本からオーストラリア現地法人に研修生を送り込むケースで、滞在期間が183日を超えない且つ給与や賃金が日本国内で支払われたとしても、その他の要件を満たしていない場合はオーストラリアで課税対象となります。
 オーストラリアでは従業員が課税年度期間中に赴任または帰任した場合は同課税年度内において、「居住者」と「非居住者」の期間の両方にまたがるため、給与・賞与を支給する時点において従業員の税務上の居住者区分に従って、「居住者」または「非居住者」に対する源泉徴収税率をそれぞれ適用しなければなりません。また、グロスアップ精算を行うことで源泉徴収税の過払いを防ぐことが望ましいです。

来月も引き続き駐在員の個人所得税に関して解説します。

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。


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