炭素価格付け制度がトランザクションに与える影響について

税務&会計Review

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング パートナー
/日系ビジネス・サービス・ナショナル・ディレクター:菊井 隆正

 

炭素価格付け制度がトランザクションに 与える影響について

環境デュー・デリジェンス

豪州政府のクリーン・エネルギー計画(以下、本計画)発表により、企業にとって炭素価格付け制度が明確になってきましたが、これはM&Aにどのような影響を与えるのでしょうか?本紙2011年8月号においては豪州政府が発表した「気候変動政策(Climate Change Plan: Securing a Clean Energy Future)」について解説しました。今月号ではトランザクションにおける炭素価格付け制度の複雑さについて解説します。

2度のつまずきがあったものの、ようやく炭素価格付け制度が明確になってきました。この段階に到達するまでに時間を要したこともあり、現在多くの豪州企業が自社の事業運営に対する炭素価格付け制度の影響について問題意識を持っています。また、中にはリスクと機会を評価するために、ある程度の専門的知識を身に着けた企業さえも出てきました。しかし、特に企業が制度対象となっていない場合などは、ほとんどのデュー・デリジェンス・チームはこのような専門知識を持ち合わせていません。

環境デュー・デリジェンスは従来から行われてきましたが、現在では、重要な要素が新たにいくつか加えられたものになっています。まず、チームにとって、温室効果ガス排出と炭素価格に関連した報告や要件に対する、コンプライアンスを評価することが重要になってきています。ここでは、経営陣が、排出レベル、すなわちその排出責任に関する正しい理解を深めるために行ってきたことを把握することが重要なポイントとなります。排出量の多い主要事業体はその影響について明確に理解していますが、その次のレベルにある企業の経営陣は、事業に対する炭素価格付け制度の影響について検討を始めておらず、リスクを抱えています。

検討している資産が炭素価格付け制度の対象となる場合、およびその資産に関する温室効果ガス排出状況の把握が不十分、あるいはまだ監査の対象になっていない場合は、危険信号と考えるべきです。企業の炭素排出レベルが不明瞭な場合は、将来的なコストを推測することがさらに困難になるのは言うまでもありません。

また、過去の報告内容に対して、実際の排出責任との関係を理解することも複雑な作業です。したがって、これらの影響については、専門家による分析を受けた方がいいでしょう。

資産が制度の対象となるかどうかにかかわらず、事業やサプライチェーンに関する炭素・リスク評価を実施する必要はあります。これは、炭素価格付け制度が事業モデルに与える影響を理解する上で役立ちます。例えば本制度によって、過去には持続可能だった資産のコスト・ベース(原価基準)が大幅に変わる可能性があります。

 


炭素価格付け制度による影響のモデル化


約500の事業体や施設(その多くがエネルギー、資源、産業分野)が、本制度の対象となります。

具体的にはこれらの事業体は、2万5,000トン超の「対象」温室効果ガスCO2-e(または、特定の廃棄物処理施設では1万トン超の「対象」温室効果ガスCO2-e)の排出施設を有することになります。

制度対象の事業体に対する炭素価格付け制度の影響評価は、「温室効果ガス排出量 × 炭素価格23ドル」で単純に算出できるものではありません。重要なことは、この等値に対してカウントされる排出量が、必ずしも施設の対象排出量を反映していないということです。

例えば、天然ガス販売業者には、責任ポイントとなる天然ガスがあります(OTN制度経由で排出義務を直接管理する、または義務を譲渡する場合を除く)。また、液体燃料はカウントされませんが、液体燃料を使用する場合は、相当の炭素価格が適用されることになります(運輸会社や鉄道会社における事業燃料税クレジットの削減、または航空会社に対する国内航空燃料税の増額として適用)。

資産が炭素価格付け制度の対象とならない場合でも、コスト構造、ビジネス・モデル、市場が影響を受ける場合があります。炭素排出量に対してコストが発生する状況での、長期的な事業展開において発生する可能性のある、運営上の影響や経済的な影響を、評価することが重要です。

多くの企業は、国内サプライチェーン全体にわたる炭素価格の適用により、製品やサービスのコスト上昇に直面することになります。その中でも最も顕著なのが、エネルギーや燃料の価格上昇です(表1参照)。ただし、仕入れコストの増加を把握するのも容易ではありません。

 

表1:炭素価格導入による理論的燃料価格帯の上昇

燃料 炭素価格導入による理論的価格上昇分 典型的な上昇率
天然ガス(GJ) $1.18 約15%~20%
電力(kWh) $0.02 約20%~25%
ディーゼル(L) $0.06 約4%

※価格上昇分は、$23の開始価格と、NGERSの排出・エネルギー 量係数を基準とする

資産における電気料金は少なくとも25%上昇すると考えられますが、天然ガスのコストに対する影響の算出は複雑です。天然ガスの場合は、市場環境に左右されるため、ガス料金が不安定になると考えられます。本制度は、天然ガスを、石炭で発電する電力以上に魅力的な製品に高め、行動変化を喚起することを目的としています。この需要増加がさらなる価格上昇につながり、一部では今後10年間で倍増するとの予測もあります。デュー・デリジェンスの重要なチェック・ポイントは、供給契約と顧客契約がさまざまなシナリオに対応し、また炭素価格が主要契約を反映した上で、資産モデルの価格設定にきちんと含まれていることです。

短期的に見れば、政府の支援パッケージと移行期間中のサポートがあるため、ビジネスのサプライチェーンにおける影響(または機会)を完全に把握および評価することは困難です。資産のサプライチェーン全体で炭素発生個所を特定し、最もリスクの高い領域を見極めることが必要となります。これは、買収したオペレーションの運用を炭素価格高騰の影響から隔離し、事業の競争優位性を確保するためのサプライチェーン戦略を策定する上で役立つものと考えられます。

主なリスク領域の特定は、必ずしも取引からの撤退の必要性を意味するわけではなく、逆に価格交渉の手段となる場合があります。新制度では、直接に影響を受ける対象企業と間接的な影響を受ける事業の両方に対し、エネルギー効率、汚染抑制技術、プロセス、製品のための財政支援を受ける数々の機会を定めています(ただし、ガバナンス処置やプロジェクト適格性に関する詳細は未発表)。利用できる支援を考慮し、それを将来的なコスト予測に織り込むことは考慮に値します。

 


M&A戦略の再調整


M&A戦略を決定する際は、炭素価格も考慮する必要があります。資産がもたらす新たなシナジー効果が生まれることにより、これまで魅力がなかった資産が魅力的な資産になるかもしれません。これは、電力会社が再生可能エネルギーへの多角化を図るなど、既に実践されているトレンドです。長期的には、今までに思いつかなかったような合併や買収が成功につながることが期待されます。例えば、過去に植林を検討したことがなかった鉱業会社が、植林によって炭素排出クレジットを獲得(Carbon Farming Initiative = CFIで利用できるオプションの1つ)できる分野の企業買収に乗り出すことも考えられます。

同様に、対象企業が排出量削減義務を果たすため、炭素排出権を獲得できる海外資産に目を向けることも考えられます(変動価格期間の開始後)。この場合デュー・デリジェンス・チームは、国際的な炭素排出権市場に詳しい専門家からのアドバイスが必要になると予想されます。

 


全体像の明確化


炭素排出が制限される経済状況下では、資産価値が変化し、M&A戦略には新しい考え方が要求されます。資産のビジネス・モデル、競争環境、潜在的なシナジー効果に対する炭素価格の影響を評価するには、そのための追加的な専門性が求められるため、デュー・デリジェンス・チームは、炭素排出の専門家によるコンサルティングを検討する必要があります。

 

*この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお薦めいたします


コンタクト:

菊井隆正 (ナショナル)
Tel: (02)9248-5986
Email:takamasa.kikui@au.ey.com

篠崎純也 (シドニー)
Tel: (02)9248-5739
Email:junya.shinozaki@au.ey.com

寺岡洋一(メルボルン)
Tel: (03)9288-8686
Email: yoichi.teraoka@au.ey.com

荒川尚子(ブリズベン)
Tel: (07)3011-3189
Email: shoko.arakawa@au.ey.com

前川伸哉 (アデレード)
Tel: (08)8417-1634
Email:shin.maekawa@au.ey.com

西川公博 (パース)
Tel: (08)9217-1328
Email:kimihiro.nishikawa@au.ey.com

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る