
税務&会計 REVIEW
アーンスト・アンド・ヤング ディレクター
/ジャパン・ビジネス・サービス 裕子カーンズ
遠隔地勤務手当ての非課税優遇措置廃止 とその影響について
昨年末、連邦政府はオーストラリアで働く外国人に対する遠隔地勤務手当て(Living-Away-From-Home Allowance、以下 LAFHA)の非課税優遇措置を廃止する計画を発表しました。これは外国人エグゼクティブへ支払われているLAFHAの増加と 悪用に対する懸念から、豪州国税局が実施したレビューの結果によるものです。改定は今年7月1日以降すべての新しい契約 および既存の契約に対して適用される予定ですが、改定された場合、今まで日本から多くの駐在員を雇用し、LAFHAの優遇 措置の恩恵を受けてきた日系企業と駐在員に対する影響は深刻であると思われます。
今月号では、LAFHAの改定案と短期滞 在ビザへの影響など、日系企業が注意す べき点について解説致します。
主要問題点
今回のLAFHA改定案は、「一時居住者 への税務優遇措置であるLAFHAの不当な 利用の広まりは当初意図していたところ と異なるものであり、これはオーストラ リア人に比べ一時居住者に不公平な利益 が与えられている」という考えによるも のです。
発表された改定案のもとでは、オース トラリアで働く一時居住者に雇用主から 与えられる遠隔地勤務の恩恵は、手当て として支給された場合には従業員の所得 税申告に含めて課税され、企業が従業員 の私費の立替や支払いとして提供された 場合、フリンジ・ベネフィット税*のもとで 全額課税されることになります。一時居 住者の給与所得が現地従業員と同じよう に課税されるべきであるというのが政府 の意図するところです。
当該改定案が施行された場合、オース トラリアのアジア太平洋地域における事 業の競合性に多大な影響を及ぼすことが 考えられ、また雇用需要の高い時期に外 国から熟練労働者を雇用することが困難 になる可能性があります。
オーストラリアの税率、家賃および生活費は香港、シンガポール、中国のような近隣諸国と比較して高いものとなって います。LAFHAの非課税枠廃止により雇 用主は外国からの熟練労働者確保のため に給与増額を検討する必要性に迫られる かもしれません。さらに給与税や労災保 険のような項目にもコスト面での影響が 出てくるでしょう。
なお、本来遠隔地勤務に関わる優遇措 置は豪州国内の移動を支援するものであ り、改定案にいくつか手が加えられてい るものの、国内間の移動に対する優遇措 置を保護するための法案が限定的に含ま れています。このため提案されている規定のもとでは、従業員は法定の金額を超 える宿泊費用や食費に対するLAFHA費 用の領収書などを保管する必要がありま す。領収書などを保管することで従業員 が個人所得税申請の際に控除するか、あ るいは、企業のフリンジ・ベネフィット 税上非課税扱いとすることを認めていま す。
また、一時居住者は常時利用可能な家 をオーストラリア国内に維持している場 合にのみ遠隔地勤務に関する優遇措置の 恩恵を受けることができます。例えば、 外国人でフライイン・フライアウト(例 えば鉱山関係に従事していてシドニーに 自宅はあるが平日のみ鉱山で寝泊まりし て週末はシドニーの自宅で家族と過ごし ているような場合)の従業員に対して提 供された宿泊施設(都市の宿泊施設は除 く)は引き続きフリンジ・ベネフィット 税で非課税として取り扱われます。これ は歓迎すべき既得権条項ではあるもの の、外国人従業員を雇用するオーストラリアの企業が被る大きな影響を相殺するものではありません。
豪州国内間や豪州国内から国外への異 動者はLAFHAがフリンジ・ベネフィット税 非課税ではなく、場合によっては税務上 控除が可能であるかもしれませんが、各 企業はLAFHAが原則課税対象の手当てと して取り扱われることを認識し、適切に 対応する必要があります。
次のステップ
改定案発表に伴い、駐在員を抱えてい る日系企業には次のような対応が求めら れています。
●現存のLAFHAの取り決めおよび駐在員との 雇用契約の見直しを行い、LAFHA優遇措置 の適用を受けていた部分が課税対象となった 場合の賃金費用に対する潜在的影響を判断す る。これは、駐在員の給与を「税務コスト均 等処理方式」または「ネット保証方式」の方 法により決定している場合には特に重要。
●豪州国内間、あるいは豪州国内から国外へ異 動する従業員に対する遠隔地勤務手当やベネ フィットの取扱いについて、従業員が実際の 宿泊費や食費に掛かる領収書を保管すること、 そして一時滞在者がベースとなる場所に住居 を維持しているか(フライイン・フライアウ トの場合)を確認。
●長期的ビジネス契約を交渉中の企業は、追加 発生すると予想される賃金についても考慮の 上交渉に臨むことが必要。利用が可能と思わ れる移行措置に対する取り組みについても検 討する。
●リロケーションと僻地に関する税務上の優遇 措置の利用を含むほかの可能な取り組みに関 しても検討する。
なお改定案は2012年7月1日に施行され ることが提案されていますが、意見書の 提出期限が2月上旬となっているため、2 月後半から3月上旬以前に新しい情報は公 表されないと予想されます。
短期滞在ビザに与える影響
上記LAFHAに関することなど、連邦政 府や豪州国税局の最近の発表は、短期滞 在者とそのビザが政府のコンプライアン ス活動の新たな焦点となっていることを 意味します。
各企業は豪州国税局の調査を最小限に 抑えるために、駐在員の税務およびビザに関する法律遵守状況を確認し文書化を図ることが大切となります。同様に、優遇措置が廃止された場合、短期滞在従業員の中には、取得しているビザを永住権に変更することに魅力を感じる人が増え ることも考えられ、その点も考慮が必要 です。
また政府は引き続き歳入に焦点を当て ており、昨年11月末、発表された「ミニ 予算案」にはビザ申請費用体系の重大な 変更を盛り込みました。これはビザ申請 に掛かる手続費用を十分カバーするため であり、これにより今後、申請費用が増 加します。
豪州国税局は短期滞在者を注視
豪州国税局が実施しているデータ照合 プロジェクトでは、移民局が豪州国税局 に短期滞在者の名前、住所およびそのほ かの詳細を提供することができます。プ ロジェクトの対象となる短期滞在者に は、スポンサーが付いているサブ・クラス 457ビザ保持者、ワーキング・ホリデーお よび2008年7月から2011年3月までの間 にビザを申請した学生が含まれます。短 期ビジネス・ビザ(Business Visitor Visa)は 含まれません。
豪州国税局は、主に所得税申告書の提 出、税務登録、そして税金還付にかかる 違反に注目していると思われます。これ に加えて特に労働許可にかかるビザの条 件に違反して豪州で働く学生に焦点を当 てているようです。効果的なコンプライ アンスと豪州出国前にビザ保持者から税 金を徴収することがこのプロジェクトの 主な狙いと思われます。
データ照合プロジェクトにより、豪州 国税局が収集し共有する情報は今後、移 民局による的を絞ったモニタリングと調 査活動の基盤となることが予想されるた め、重要な意味を持ちます。
各企業は税務当局の調査に先立ち社内 において内部調査を行うことを検討すべ きでしょう。各政府監督機関が協力体制 を敷き、コンプライアンスと税収確保を 目的として継続的な調査活動を行ってい るため、雇用者たちはそれに備える必要 があります。
豪州国税局は不正行為をする人を標的 としていますが、組織的なコンプライア ンス活動と堅実な記録保持は駐在員に所 得税申告などのサポートを提供している すべての雇用者にとって、タイムリーな 注意喚起といえます。
*フリンジ・ベネフィット税−雇用主が従業員または従業員の 関係者に提供した現金以外の給付(フリンジ・ベネフィット) に対して支払う税金
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