炭素価格付け制度における会計処理と注意点について

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アーンスト・アンド・ヤング マネジャー
/ジャパン・ビジネス・サービス 寺岡洋一

炭素価格付け制度における会計処理と注意点について

豪州では2011年11月8日のクリーン・エネルギー法案(以下、法案)の可決を経て、12年7月1日より正式に炭素価格付け制度(以下、新制度)が導入されました。豪州政府は、炭素排出許可証(以下、許可証)の無償提供を含む直接的あるいは間接的なメカニズムを使い、さまざまな産業セクターを支援することを約束しています。本紙12年1月号では「炭素価格付け制度がトランザクションに与える影響」に関する解説がありましたが、今月号では新制度に適用可能な会計手法、とりわけ無償および購入によって取得した許可証の会計処理、およびそのほか考慮すべき会計上の問題について解説します。

 


炭素価格付け制度の概要


豪州政府は、二酸化炭素排出量を2020年までに5%〜25%(00年水準比)削減することを目指す法案を発表しました。同法案には12年7月1日から二酸化炭素1トン(または換算値1トン)の排出に対して固定価格を設定し、15年7月1日からは変動価格による排出取引制度に移行するという2段階の炭素政策が盛り込まれています。

固定価格期間—12年7月1日〜15年6月30日
1年目の価格設定は二酸化炭素換算値(CO2-e)で1トン当たり23ドルの固定価格。残り2年間の価格は実質毎年2.5%引き上げ。 

変動価格期間—15年7月1日以降
固定価格期間終了後、炭素価格は排出量取引における需要と供給に応じて決定。価格に一定の確実性を持たせるため、変動価格期間の最初の3年間の価格に上限が設けられている。


炭素価格付け制度に適用可能な会計手法


現在のところ、排出取引の会計処理に関して、国際財務報告基準(IFRS)にも米国会計基準にも炭素資産や炭素負債の会計処理に関する特別なガイダンスはありません。欧州では、既にこのような取引が実行されており、さまざまな会計処理方法が適用されています。豪州では、豪州会計基準が公表されるまで、以下のような主要な選択肢があります。

 

1 . IFRIC3「排出許可証(Emissions Rights)」 アプローチ

国際会計基準委員会は、既にIFRIC3を取り消していますが、炭素取引に関連するガイダンスが現在ないため、IFRIC3の考え方を採用することが可能です。IFRIC3アプローチを採用した場合、購入または無償で取得した許可証は、AASB138「無形資産」に基づき無形資産として計上します。

無償の場合は初期認識に基づき公正価値で、そして購入した場合は初期認識に基づき取得原価で評価します。無償許可証の場合、企業が許可証に支払う金額(無償の場合はゼロ)と公正価値との差異は繰延収益(負債)として計上され、排出(費用)の発生期間と合わせて収益計上されます。

AASB138に基づけば、企業は許可証を継続的に取得価格(もしくは、付与日の公正価値)で評価するか、後に公正価値に基づいて再評価するかの、いずれかの選択が可能です。後者は活況市場が存在する場合にのみ認められます。公正価値による再評価を選択した場合、再評価で生じた増益分は、包括利益で計上されます(評価益として損益には計上されません)。

ただ、再評価の結果として包括利益に累積計上された含み益を超える評価減がある場合、超過する評価減を直ちに損益に計上することが必要となります。

一方、排出費用は発生ベースで負債として計上されます。この負債は、決算時に発生した負債を決済するのに必要な価額の最良推定値として評価されます。これは通常、決算時に排出費用を賄うのに必要な許可証の市場価格を指します。

2.政府補助金アプローチ

政府補助金アプローチでは、購入または無償で付与された許可証を無形資産として計上します。AASB120「政府補助金の会計処理および政府援助の開示(Accounting for Government Grants and Disclosure of Government Assistance)」には、無償で取得した許可証を名目価額(無償の場合はゼロ)で評価するか、初期認識に基づき公正価値で評価するという選択肢があります。

政府補助金アプローチを採用する企業は一般的に、許可証を公正価値で評価することを選択します。そのため、IFRIC3アプローチと同様、企業が許可証に支払う金額(無償の場合はゼロ)と公正価値との差異は繰延収益として計上され、順守期間に合わせて収益として計上されます。購入した許可証は当初認識に基づき取得原価で計上されます。

負債は発生ベースで認定されますが、IFRIC3と異なり、排出負債の評価とこれに続く資産評価には別の会計手法が適用可能です。

a. 帳簿価額手法

排出負債は、排出負債の決済に必要な資産として保有している許可証の薄価を参照して計上され、不足が発生する部分は公正価値(すなわち、これから購入すべき許可証の現在の市場価格)によって評価されます。

b. 補填請求権手法

企業は購入ずみ許可証を、排出負債に関する補填請求権とみなします。排出負債は、決算日において債務決済に必要な費用の最良推定値で評価されます。これは通常、決算日に発生した排出分を賄うのに必要な許可証の市場価格を指します。そのため、保有している許可証の数量が排出権負債の決済に必要な許可証の数量と一致する限りにおいて、購入済み許可証を損益計算書を通して公正価値(決算日の市場価格)で再評価することができます。したがって、購入ずみ許可証の一部と負債は市場価格で評価されることになります。負債を上回る許可証は引き続き、取得価格で認識されます。

3. 純負債アプローチ

純負債アプローチでは、無償で付与された許可証は名目価額(無償の場合ゼロ)で計上、購入許可証は、AASB138に準じ取得価格で計上されます。企業は実際の排出負債が所持している許可証の数量を上回った時にのみ負債を計上できます。これは企業の許可証購入義務が発生するのが、実際の排出量が手元にある決済可能な許可証を超えた場合という考え方によるものです。

純負債アプローチでは、政府補助金アプローチで説明した帳簿価格手法か補填請求権手法を用いて許可証負債およびそれに関連した購入ずみ許可証を評価するという選択が可能です。

どのアプローチを選択した場合も、決算日において将来的に予想される許可証不足および炭素排出分による負債の計上はしません。負債は発生した排出量に対してのみ認識されます。

 


そのほか考慮すべき会計への影響


1. M&Aによって取得した許可証

M&Aの場合、買収者は被買収者の識別可能な無形資産(許可証を含む)を公正価値で計上する必要があります。そのため、被買収者の財務諸表でゼロとされた(つまり貸借対照表上認識されていない)許可証は、買収者の連結財務諸表では公正価値で計上されます。

したがって、買収者がM&Aによって取得した許可証に純負債アプローチを適用することはできません。その許可証は政府補償によって付与されたものではないからです。その代わり、買収者は取得ずみ許可証を購入ずみ許可証と同様の方法で扱う必要があります。ただし、被買収者は別個の財務諸表の中で自らの会計規則を引き続き適用することになります。

買収者は決算日までに発生した(ここでも、将来の排出量は含まない)被買収者の実際の排出量についてのみ、引当金を計上します。

2.減損テスト

企業が炭素価格による影響(コストの上昇)を顧客に転嫁できない場合、炭素価格の導入は、のれん代やそのほかの有形・無形資産の減損兆候となり得ます。そういった企業は使用価値と公正価値の両方で用いられる減損評価モデルの適正さを再評価し、これらのモデルで使用されている想定を見直す必要が出てくるでしょう。

財務諸表には減損テストで用いられた想定を開示する必要があり、固定価格期間を超えた炭素価格の見通し、炭素価格の将来の影響やその感度を開示に盛り込む必要が生じることも考えられます。

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

 


 

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