政府の税収圧迫がもたらす税務事項

税務&会計Review

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング ディレクター
/ジャパン・ビジネス・サービス 裕子カーンズ

政府の税収圧迫がもたらす税務事項

今年10月22日発表の年央経済財政見直し(Mid Year Economicand Fiscal Outlook=MYEFO)で連邦政府は、低迷する資源価格や世界経済成長の減速による40億ドルに上る税収減にもかかわらず、2012/13年度の財政黒字達成の方針を変えないことを表明しました。今月号は、こういった政府の方針が企業に与える影響を税務の観点から解説いたします。

 

厳しい状況下、黒字達成を固持することにより生じる税収への圧迫は、豪州税務当局(Australian Tax Office=ATO)のコンプライアンス活動の強化や、多国籍企業の資金繰りにも影響が予想される、徴税に関わる変更の導入などの形で出てくると思われます。企業は今後の事業計画にこれらの要素を反映させ、税務調査やレビューに備え、税務リスク管理体制(ガバナンス)の見直しや文書化を進める必要があります。

 

年央経済財政見直し

MYEFOのプレス・リリースにおいてウェイン・スワン財務大臣は、オーストラリアの経済は基本的に引き続き健全であり、当初予定していた通り今年度中に連邦政府は財政黒字転換する見込みであると述べました。

しかし、世界経済の見通しの悪化、中国経済成長の減速、豪ドル高、資源価格の下落などの要因が政府の必要としている税収の減少をもたらしています。5月の連邦予算で予想されていた歳入はMYEFOにおいて40億ドルの下方修正がされており、そのほとんどが予想を大きく下回っている所得税(個人・法人)および資源税からの税収によるものです。

 

資源税からの税収

鉱物資源利用税(Minerals Resource Rent Tax=MRRT)および既存の石油資源利用税(Petroleum Resource Rent Tax=PRRT)のオン・ショア・プロジェクトへの対象拡張は、今年7月1日に導入されました。当初、連邦政府は12/13年度にMRRTから70億ドルの税収を見込んでいました。しかし、MRRTの第14半期予定納税期日の10月下旬、MRRT税制の立案に関わった大手鉱業会社の数社以外はMRRT予定納税の支払いがないことが報道され、また、その大手鉱業会社の数社についても、MRRT予定納税額が予定を大幅に下回ったとされています。

MRRTの4半期ごとの予定納税額は年間を通したMRRTの見積もりをベースに行われます。よって、第14半期に見られた状況は、今後資源価格が著しく上昇しない限り、12/13年度についても連邦政府がMRRTから見込める税収は僅少、または皆無の可能性を示唆します。これを受け、当初MRRT納税義務発生が見込まれていた納税者については新規定への遵守を確認するため、ATOが幅広いレビューを行うことが予想されます。

 

新しい税制改正項目

税収の下方修正を相殺するため、M Y EFOにおいて連邦政府は新しい税制改正項目を発表しており、これにより今年度の歳入は約16億ドルの増加を予測しています。また、MYEFOで発表された数々の措置の総合的影響により、年度末の財政黒字は予算発表当初の15億ドルを若干下回る11億ドルとなる見込みです。MYEFOで発表された措置のうち、企業に大きく影響するものには以下が含まれます。

大規模事業納税者の法人税予定納税の徴税を今までの四半期ごとから月次に変更

新制度は段階的に導入され、年間売上が10億ドルを超える企業は14年1月から、1億ドル以上の企業は15年1月から、そして年間売上が2,000万ドル以上の納税者は16年1月から、月次予定納税の対象となります。段階的導入が完了した時点で、連邦政府は1年あたり90億ドルの税収を現金で早期回収することが可能となると見込んでいますが、オーストラリアの企業にとっては運転資金を圧迫することになります。

「イン・ハウス・ベネフィット」を給与繰延*することによるメリットの排除

現行規定上、従業員は雇用主、またはその関連者が市場に供給している商品をイン・ハウス・ベネフィットとしてフリンジ・ベネフィット規定(Fringe Benefit Tax、FBT)上認められている割引である市場価格の25%引きからさらに1,000ドルを差し引いた金額で、給与繰延措置を用いて受け取ることが可能でした。10月22日をもって、給与繰延措置で提供されているベネフィットはFBT上の割引の対象外となります。既存の契約については14年4月1日から割引が排除されます。このような形の従業員へのベネフィット提供は小売業や建設業、電力業において幅広く使われていたため、これらの業界の雇用主にとっては今後の従業員報酬制度や費用に大きく影響を与えることが予想されます。

12年12月から受取人不明の年金基金勘定残高のATOへの移転を早める

残高が2,000ドル未満で12カ月以上動きのない勘定をATOに移転することにより5億ドルの収入が得られることが見込まれます。

ATOの調査活動に追加資金提供

連邦政府はATOが税務および年金制度へのコンプライアンスの全般的な向上を促進するための活動費用として今後予算見積もり対象年度にわたり3億9,000万ドルを提供します。

 

法人税減税の行方

税収が圧迫される中、法人税減税の可能性は連邦政府の優先事項リストの中で、さらに下方へと押しやられてしまったと言えます。連邦予算発表の際に財務省は事業税制作業部会(Business Tax Working Group=BTWG)に税収減にならずに法人税減税を行う方法について検討することを依頼していました。BTWGは特に以下のオーストラリアにおける税制の改正を検討することを託されていました。

 
・過少資本税制
・ 資本控除規定、減価償却規定、特定の資源事業に関わる損金算入規定
・ 研究開発活動に関する税務優遇措置の削減

BTWGは今年10月24日に最終報告書をドラフトで、11月2日に最終版として発表し、税収減を伴わない法人税減税の方策についての勧告はできないという結論を述べています。企業との協議の結果、BTWGは、法人税減税による税収減を補うための上記の税制改正は、いかなる形であっても一定の納税者にとって税金負担の増加となり、経済全般にとっては結果的にその悪影響が法人税減税のメリットを上回ると考えるとしています。また、大幅な投資促進をもたらすためには、法人税率の2〜3%減率が必要となるとしています。

 

今後の対応について

BTWGからの勧告はありませんでしたが、もし連邦政府が引き続き税収減に直面し、かつ政策的方針として財政黒字転換を絶対の目標とするならば、可能性として、今後の税制方針の展開として過少資本税制の改正を検討することがないとは言えません。企業は、引き続き過少資本税制の改正を事業計画を立てる中で考慮する必要があると考えます。

また、連邦政府の歳入が圧迫されることにより、ATOのコンプライアンス活動がより厳しくなることが予想されます。そのため、MYEFOにおいてATOには追加資金が提供されており、また、移転価格に関わる税務調査も増加することが予想され、さらにATOは新しく導入されたMRRTのレビュー活動の準備を進めているとされています。

今後企業は、税務リスク管理体制(税務コーポレート・ガバナンス)が整っていることを確認し、重要な取引の税務上の取り扱いが文書により十分にサポートされているよう注意することが大切になります。


*Salary Sacrificeー給与のある一定の金額を、給与として受け取る代わりに、その分をそのほかのもの(この場合フリンジ・ベネフィット)に充当すること。
 
※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。


コンタクト:

菊井隆正
Tel: (02)9248-5986
Email: takamasa.kikui@au.ey.com

 

裕子カーンズ
Tel: (02)9248-5518
Email: yuko.kearns@au.ey.com

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