企業のダイベストメントに(事業売却)関する意識調査

税務&会計Review

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング マネジャー
/ジャパン・ビジネス・サービス 寺岡洋一

企業のダイベストメントに(事業売却)関する意識調査
─不透明な経済環境下で最大効果のダイベストメント

 アーンスト・アンド・ヤングは、昨年末世界の経営幹部567人を対象として「企業のダイベストメントに関する意識調査」(以下「調査」)を2012年10月から11月に実施しました。この調査は、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットが行った意識調査と、企業、投資銀行、法律事務所へのヒアリングとを組み合わせたものです。今月号では、この調査で明らかになった、昨今のダイベストメント活動と、今後2〜3年間の見通しについて回答者の見解とともに、先行き不透明な経済環境下においても企業がダイベストメントを成功させ、競合他社を上回る業績を上げるのに役立つ5つのリーディング・プラクティスをご紹介します。

 

ダイベストメントを行う理由は変わりつつあります。私たちが実施した最初の調査では、多くの企業がダイベストメントを短期的な戦術的ツールとして用いており、その目的も大半は資金調達や債務の返済であることが分かりました。金融危機以降、多くの企業がキャッシュ、信用にかかわる問題に直面してきた現実を考えれば、これは当然とも言えます。しかし、低成長が長引く昨今、グローバル企業が不透明な状況を乗り切り、企業目標を達成し、利害関係者のために価値を生み出そうとする中で、ダイベストメントはこれまで以上に戦略的な役割を果たせるはずです。どの資産を残し、どの資産を売却するのか。自社での優先度に則した決断を行うために、企業はより体系的なアプローチを導入し始めていると私たちは見ています。このような厳しい事業環境では、どのような取引でもとりあえず様子見したいという気持ちになるのは理解できます。しかし私たちの調査では、ダイベストメントの先延ばしが機会の逸失につながる可能性を明らかにしています。

 

主な調査結果
77% が今後2年間のダイベストメント計画の加速を検討
46% がダイベストメントを実行中、または今後2年以内に実行予定
58% がダイベストメント活動を短期的に増やしたいが、景気の低迷を懸念
40% は買い手間の競争でダイベストメントの価値が高まったと証言

ダイベストメントへの意欲が高まる一方、取引を実際にやり遂げる状況はたやすくはありません。取締役会、規制当局、株主は、ダイベストメントによる戦略的目標や価値創出目標を必ず実現するよう一段と強く求めるようになりました。一方で交渉相手である買い手企業は、これまで以上に慎重に案件を調査するようになっています。つまり、売り手企業は資産について一層徹底した準備を行い、できるだけ幅広い相手にいかにうまく売り込むか、策を練る必要があるのです。適切な手順を踏んだ企業の方が、より速く、より高い価値を実現していることを、私たちの調査は実証的に示しています。以下に掲載するリーディング・プラクティスは、定期的かつ体系的ポートフォリオ管理から事業分離計画にいたるプロセスをカバーしています。

 

この調査で得られた経験的証拠と、クライアントとの協業の中で見出した知見から、以下の5つのリーディング・プラクティスが明らかになりました。企業の皆様には、資産の価値を余すことなく引き出し、最大効果のダイベストメントを実現するために、これらのリーディング・プラクティスをぜひとも実践していただきたいと考えています。

 
(1)体系的なポートフォリオ管理を定期的に行う
 主要大手企業では、保有資産が戦略的目標の達成に貢献しているか、あるいは保有資本をほかの目的に使用できないか、定期的な評価を行っています。同様に、高い業績を上げている企業の55%は体系的なプロセスを構築し、自社のポートフォリオを定期的に見直していました。

 
(2)可能性のあるすべての買い手候補を検討する
 多くの回答者は、国内の同業種のみを買い手の対象としています。しかし、このように狭い範囲の買い手のみに目を向けていると、売り手は本来引き出せる価値を狭めてしまう可能性があります。戦略目的か財務目的か、国内か海外かを問わず、幅広い買い手企業に呼びかけることで、資産に対して多くの関心が集まり、期待を上回る価格を実現することができます。

 
(3)買い手ごとに説得力のある価値と成長のストーリーを明確に提示する
 買い手企業は、売りに出ている事業の成長見込みについて、これまで以上に慎重です。しかし、最も有力な買い手候補の視点に立ち、その買い手にとっての価値と成長の力強いストーリーを明快にアピールできる売り手はほとんどいません。説得材料となる独自の調査や検討を盛り込んだストーリーを提示する、売却資産に関するM&Aプランを策定する、メリットや期待し得るシナジー効果を明確にするなどを実行している回答者は50%に過ぎません。
 
(4)ダイベストメントのプロセスを綿密に準備する
 回答者の半数は、準備プロセスを一部変更することで目に見える違いが生まれたはずだと認めています。例えば、情報の共有と機密保持に関する規約の策定、目標管理と投資に対する上級チームメンバーの関与などがあります。
 
(5)事業分離計画の重要性を理解する
 回答者の半数以上は、ダイベストメント・プロセスの中でも、事業分離についての明確なロードマップを策定することが、以前にも増して最も複雑な作業であるとしています。ほかにも、事業分離には、移行期間中に関わる合意の交渉、独立採算費用の試算、税務計画、取引完了手順に関する決定などの課題が伴います。売り手がこれらの事項を明確に伝えない場合、買い手はリスクを大きく認識し、そのリスクを加味した入札価格が提示されることになります。

ダイベストメントの環境−様子見すべきではない

世界のM& A取引高は金融危機以前に比べ大きく落ち込んでいます(07〜12年:取引高47%減)。米国の負債水準、増税、ユーロ圏で続く危機などマクロ経済の懸念材料が、買い手企業のマインドに重くのしかかっています。これが大規模な改革案件への意欲を削ぎ、多くの企業が様子見の姿勢をとっています。金融危機の直後、多くの有識者はダイベストメントが相次ぐと予測しました。企業が自由に使えるキャッシュを確保し、バランスシートを改善し、滞った債務を返済しようとするであろうと考えたためです。この予測はほぼ外れました。多くの企業は景気が回復するまで待ちの姿勢を決め込んだのです。M&A取引高が減少する中で、限られた数しか市場に出てこない良質の資産を巡って激しい競争になることがよくあります。 

ある生産財企業の経営幹部は、相場の上昇を待つために売却を先送りするのは間違った判断かもしれないと話します。

「もう少し手元に置いておけば、その資産を成長させられたのでは、あるいは評価額が上がったのでは、と思うものです。しかし、その機会費用、すなわち、その資産を現金に換え、ほかの目的に回す場合と十分に比較検討しなければなりません。それに、資源配分プロセスで、その資産に分配する資本が既に減っている場合は、わずかな成長にかける資金も得ることは難しいでしょう」

まとめ

成長率とボラティリティーが低い環境においては、企業はポートフォリオの管理により戦略的で体系的なアプローチを採用することが求められます。株主の期待に応え、資産から最大限の価値を生み出すには、ポートフォリオを構成する資産1つ1つのパフォーマンスを精査し、それが包括的な戦略的目標に沿っているかどうかを判断しなければなりません。ダイベストメントはこのプロセスの中核をなすべきであり、企業が株主価値の創出に最も有利な資産に集中し、他社に任せた方が良い資産を切り離すのに役立つことでしょう。


※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

 

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