オーストラリアの経済的持続可能性をいかに確保するか

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

オーストラリアの経済的持続可能性を
いかに確保するか
政府の課題 ─2014年

EY パートナー
ジャパン・ビジネス・サービス
菊井隆正

今年9月頭に行われた総選挙の結果、6年にわたる労働党政権に終止符が打たれました。オーストラリアの経済成長が鈍化する中、新政権である自由党と国民党による保守連合政権が、今後どのように国内経済の持続可能性を確保していくのか注目されるところです。今月号は、新政権が直面する課題について解説します。

言い訳は許されない

新政権は大規模な政府・経済改革の実行に向け、迅速に行動する必要があります。グローバル経済の新たな現実、高齢化によるコスト圧力、鉱業ブームの衰退による国内総生産(GDP)成長の伸び悩みなど、さまざまな要素が影響し、オーストラリアはまさに経済的な嵐に見舞われようとしています。

先行きの厳しい今後数カ月、新政権には勇気とビジョンを持って、持続可能な経済に必要な政治的・経済的な大改革に着手することが求められます。

オーストラリアにおける不安定な状況の最たる要因は人口構成です。人口の高齢化に伴い、高額の社会サービスに対する需要増加、歳入ベースの減少、GDP成長の伸び悩みなど、政府には問題が山積しています。過去40年間の実質GDPの年間平均成長率は3.3%でしたが、高齢化の直接的な結果として、今後40年間の成長率は2.7%に落ち込むものと見込まれています。

しかしそのほかの問題は、私たち次第です。新政権にとって最大の課題の1つとなるのは信頼の回復です。

少数与党政府の特徴であった政策のぶれにより、企業、消費者、そして海外投資家などあらゆるレベルにおいて信頼が壊滅的な打撃を受けました。2011年から12年にかけてオーストラリアが経済協力開発機構(OECD)経済圏の中でも最も堅調な国の1つであった時期にもかかわらず、海外からの直接投資が実際に13%減少したことは驚くべきことです。

信頼回復に向けた1歩を踏み出すために、新政権は断固たる行動を取らなければなりません。

黒字回復に向けた明確かつ信頼性のある財政政策を定める

オーストラリアは、増税や経済界へのコスト転嫁などの需要鈍化につながる行動ではなく、政府の規模を抑制することを基本とした財政政策により、今後3年から5年以内に財政収支のバランスを図る必要があります。

成長と参加を後押しするよう、国内税制を改善して再設定する

まずは現行の税政策のプロセス改善が最優先事項です。税政策のプロセスとその結果生じる不透明さが、雇用成長やオーストラリア発展の妨げとなっています。成長を支え、国内予算の課題解決につなげるためには、オーストラリアの税制に対してさらに戦略的なアプローチを採用することも求められます。

経済を総合的に発展させ、それを支えるインフラを整備する

鉱業ブームが下火になり、製造業が落ち込む中、オーストラリアは「次の1手」を考えなければなりません。国内全体の生産的な雇用に基づく総合経済を積極的に発展させるための改革アジェンダが必要なのです。費用対効果が期待でき生産性を向上させる道路、鉄道、港湾、公共設備の経済インフラ・プロジェクトを最優先事項にすべきです。

政府には、このようなプロジェクトの資本を全額支出できるだけの資金がもはやありません。政府は、優先順位が明確な、確実性を生み出す政策に加え、インフラへの民間投資を奨励する国家計画に従うよう州政府に影響力を及ぼすような政策を策定する必要があります。

そのために、オーストラリア政府間評議会(Council of Australian Governments=COAG)のアジェンダを簡素化し、役割と責務を明確にする行動が新政権に求められます。これにより、国内で重視される政策改革、あるいはオーストラリアの全官公庁による協力が必要な分野の政策改革を支えるという、極めて重要な目標の達成につながります。

COAGは、持続可能な経済の原動力となる長期プロジェクトに注力し、輸送とインフラ、環境や持続可能性(気候変動など)に関する問題など、国民生活の全体的な向上に貢献し、生産性が向上するような基盤を築けるようにする必要があります。こうしたプロジェクトを展開して測定するには何年もかかるため、選挙サイクルの範囲を超えた取り組みが必要になります。

生産性の向上

成長、競争力、生活水準の向上を目指し、公共セクターとオーストラリア企業の両面において、生産性を向上させて経済を押し上げます。

炭素政策における競争上の優位の維持

新政権は、断固たる行動により、炭素排出を削減して既存の取り組みに敬意を払うような効率的な長期投資を支援しつつ、業務中断を回避するために既存投資を尊重し、炭素政策を固める必要があります。

炭素政策ではコストを最低限に抑えた方法での炭素排出削減目標の達成に重点を置くべきです。

防衛ビジネスの購買構造の変化

能力ライフ・サイクル管理の強化、企業・戦略計画とリスク管理の枠組みの策定、オーストラリア国防軍(Australian Defence Force=ADF)の行動、文化、運用ペースの変更などが含まれます。

人的サービス提供の資金調達モデルの変更

インフラを構築することは政府の役割ですが、健康・教育サービスを供給するという役割もあります。だからと言って政府がサービスの提供を求められるわけではありません。高齢化する人口を支えるため、新政権は、補助金を前払いするのではなく、サービスに対して価値に応じた料金を設定する取り決めで、国内の700億ドル規模の人的サービスを提供する効率的な市場を、NGO向けに構築する必要があります。

こうした新しい資金調達モデルにより、低コストでより良い結果を得られるはずです。政府がプライス・メーカーの役目を担います。

将来の経済を支える適切な技能の開発

世界的な競争力の維持を目指し、教育的所産の強化のための資金を調達する持続可能な方法を探し、新たな経済に必要な技能を開発しなければなりません。オーストラリアは、教育の全分野で地域内の各国に徐々に遅れを取りつつあります。特に、幼稚園から12歳(K-12)までの幼児期教育では、OECD各国に取り残される状況が続いています。

国内収支の改革

政策立案者にとって、今こそが貸借対照表を徹底的に検討し、政府が保有するのではなく単に規制すればよい企業(Medibank、Sonwy Hydro、Air Services Australiaなど)を見極める時期です。これにより、資産売却によって獲得できる資本を再利用して、インフラ、保健衛生、教育への取り組みに投資できます。これらの取り組みは民間企業にとっては魅力的な経済分野ではありませんが、長期的には経済的にも社会的にも高価値な結果をもたらします。

最後に

13年9月の選挙は、国内が景気後退に足を踏み入れる時期に行われた選挙として、あるいは長期的に持続可能な経済を確立する改革のきっかけとなった選挙として、オーストラリアにとっての分岐点となり歴史に残ることでしょう。企業は、長期的に持続可能な経済を実現するために必要な措置を講じるよう、政権に積極的に要求していく必要があります。

 

この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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