高くついた買収? コスト超過? ─ 減損テストの意味(後編)

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング シニア・マネジャー/ジャパン・ビジネス・サービス 荒川尚子

高くついた買収?コスト超過? ─ 減損テストの意味(後編)

前月号の記事では、現在の経済状況が減損の評価に与える幅広い影響を確認しました。具体的には、予想より長引いている利益縮小傾向が資産の評価に与える影響を考慮し、この状況が、特に過去10年間に高値で買収を行った企業にとって買収効果の見直しを示唆するものであることを説明しました。また、この状況が大規模な資本プロジェクトにおいてどのような事態を引き起こしつつあるのかについても述べました。この記事では、前月号の記事で取り上げた重要ポイントの1つ、減損の前提条件についてさらに詳しく検討していきます。

前提条件に焦点

財務報告プロセスの中でも、減損テストは多数の前提条件を立てることが必要なため、決して一筋縄でいくものではありません。これらの前提条件は合理的かつ裏付け可能である必要があり、市場予測などの外部のデータソースに重点が置かれるべきです。検討すべき多くの前提条件がありますが、ここでは鉱業・金属企業特有の3つの前提条件を取り上げます。

 

(1)将来の需要

金属やコモディティーに対する将来の需要を評価するには、これらの製品の最終用途を把握することが必要です。例えば世界各地の建設活動と自動車製造の水準は、鉄鉱石や銅の需要にとって重要な要因です。そのため、将来の成長に対する前提条件は、現在または将来起こりうる経済活動水準と競争水準における傾向を基に正当化されるべきです。同様に、環境に関する法規制が将来の金属使用および、再利用や中古品活用の水準にも影響を与える可能性があることも考慮する必要があります。

 

(2)コモディティー価格

最も安定的な時でもコモディティー価格の予想は難しく、コモディティー価格の変動が一時的な需給関係の不均衡なのか、それとも長期的な傾向の開始であるのかが、常に判断できるわけではありません。ほとんどの鉱物や金属資源の耐用年数が長期であることから、過去3〜4年間の価格水準だけを組み込むのではなく、過去の長期的な価格推移を基に、需給関係の変化がこれらの価格にどのような影響を与えているのかを検討すべきでしょう。そのためには、鉱業・金属業界の長期の最低価格水準を決定することとなる限界費用曲線を理解して、どの価格水準で競合各社が生産を縮小せざるを得ないのかを判断することが必要です。また、低コストの新規鉱山がすぐに生産開始するかどうかについても理解する必要があります。

金属とコモディティー価格に関する前提条件は、鉱山の耐用年数に合致している必要があります。耐用年数が短い鉱山にとっては、スポット価格と先物価格曲線の方がより関連性があり、また、耐用年数が長い鉱山にとっては、長期的な価格予測の方がより関連性があります。

 

(3)割引率

AASB(豪州会計基準)136「資産の減損(Impairment of Assets)」に基づいて使用価値(Value in use= VIU)の計算を行う際、または収益価値を基準としたアプローチ(income approach)を用いて売却費用控除後の公正価値(FVLCD)を計算する際には、鉱業・金属企業はキャッシュ・フローを割り引く必要があります。使用する割引率は、貨幣の時間価値および当該資産/資金生成単位(CGU)に固有のリスク(将来のキャッシュ・フローの見積りに反映されていないもの)に関する現在の市場評価を反映する必要があります。
 適切な割引率の計算に関わる重要データの1つに、リスクフリー・レートがあります。これは通常、長期国債のレートを参照しますが、過去1〜2年間に大幅に低下しました。割引率の計算においてそのほかの要因による影響を無視すると、評価額が高く計算されることを示唆します。しかし、一般にこのような価格の上昇は、鉱業・金属業界において、実際の評価額として市場でのエビデンスにより裏付けることができません。そのため、この価格上昇要因を打ち消すような資産固有のリスク・プレミアムを増加させて、評価額の計算に組込む必要性があると考えられます。
 企業はこのようなリスク調整を行う際に、事業を営んでいるさまざまな地理的要因や鉱業サブセクターの間で、リスクが著しく相違しているかどうかについても検討する必要があります。また、鉱山資産や操業拠点の所在地を反映したカントリー・リスクも考慮する必要があります。最近の情勢を鑑みると、このリスクは極めて重大となる可能性があります。さらに割引率は、信用力を反映した負債コストの増減や株式市場の流動性逼迫による資本コストの増加によっても影響を受けることがあります。

開示

十分な開示は優れた財務報告の基礎だと考えられています。開示は、投資家が企業の業績を評価する上で欠かせないものです。この点から見て、そして規制当局が開示情報に対する監視を強化していることを考慮すると、企業は減損に関する開示レベルを厳格に評価して、網羅的かつ詳細に当該企業特定の要因を十分に取り上げた透明性のある開示にする必要があります。

AASB136には、一般目的の財務報告(General purpose financial report)を作成する企業が適用すべき開示要件が定められています。また、実際に認識された減損や減損の戻入については、特定の開示要件があります。さらに、減損や減損の戻入が認識されたかどうかにかかわらず、のれんを含むCGUの回収可能価額については、その決定に使用した見積り情報を開示することも必要です。

のれんが含まれないCGUについては、この追加開示要件は適用されません。しかしながら、AASB101「財務諸表の表示(Presentation of Financial Statements)」は、重要な会計上の判断、見積りおよび仮定についての一般的な開示要件を定めています。減損が問題となる可能性がある企業(例えば減損の兆候がある場合であっても実際に減損損失を認識していない企業において、帳簿価額と回収可能価額の差額が小さい場合)においては、減損の評価に使用した見積りは重要であると結論付け、AASB101に基づいて開示を行うことがあります。このような状況では、適切な開示項目として、以下が挙げられます。

 

・使用した前提条件の詳細な説明
・感応度(Sensitivity)の根拠など、計算の基礎である評価方法、前提条件および見積りに対する帳簿価額の感応度の詳細
・翌会計年度のCGUの簿価について、合理的に予想される範囲に関する情報

各企業が作成する財務諸表の種類に応じて、異なる開示内容が適用される可能性がある点に留意が必要です。例えば、一般目的の財務諸表の作成を要求または任意に行う場合、AASB136の開示要件を完全に順守する必要があります。企業が特別目的の財務諸表(Special purpose financial report)を作成している場合には、AASB136の開示要件は強制的に適用されるものではありませんが、AASB101の開示要件の適用は必須です。これは、開示要件に関してAASB101が特別目的の財務諸表が最小限順守すべき会計基準の1つだからです。

結論

時々、予測には2種類しかないと冗談まじりに言われることがあります。幸運にも当たった予測と、間違っていた予測です。これは、最近市場や経済で見受けられる状況が一時的な逸脱なのか、それとも長期的な傾向の開始なのかを評価しようとしている鉱業・金属企業に当てはまります。時の経過とともに、市場および経済の方向性は明確になりますが、鉱業・金属企業は減損テストを実施する際に、それぞれ異なった前提条件を立てることでしょう。同業界が直面している不確実性や、既に開示されている減損損失、また多くの国で規制当局がこの問題に一層注目していることを考慮すると、鉱業・金属企業は財務諸表において、十分に詳細なレベルの開示を行うように努めるのが賢明と言えます。企業が減損の有無についてどのように結論に達したのかについて、財務諸表利用者が明確に理解できるように、あるいは利用者が自分の意見を形成できるようにすることが大切です。

 

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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