オーストラリアの租税回避防止規定改正とその影響

税務&会計Review

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アーンスト・アンド・ヤング ディレクター
ジャパン・ビジネス・サービス 裕子カーンズ

オーストラリアの租税回避防止規定改正とその影響

現在2月に法案が発表された法改正により、オーストラリアの一般租税回避防止規定(General Anti-avoidance Rule)がさらに幅広い取引に適用される可能性をもたらすことが懸念されています。企業が重要な取引を行う際には、税務リスク管理プロセスの一環として租税回避防止規定の適用に関する適切な検討を含むことを考慮する必要性がますます高まっています。 今月はオーストラリアの一般租税回避規定の概要、提案されている改正案の内容および懸念される問題点について解説します。また、当該改正案をオーストラリア連邦政府および納税者にとってより意義深くしている事象の1つとして、各国の税務当局が世界的に問題意識を高めている多国籍企業による国家利益移転問題についても紹介します。

一般租税回避防止規定の改正法案「The Tax Laws Amendment (Countering Tax Avoidance and Multinational Profit Shifting) Bill」は2013年2月13日に国会に導入されました。法案が発効した場合、当該改正内容は12年11月16日以降に開始した、または実行されたスキームに適用されます。

Part IVAの概要

オーストラリアの一般租税回避防止規定は所得税法(Income Tax Assessment Act 1936)のPart IVAに規定されています。Part IVAは、納税者による人為的な、露骨な、または不自然な租税回避を防止することを目的としています。Part IVAは、取り決めや取引が税法の矛盾や変則を利用し、立法機関の意図に反する税務上の便益を得ることを目的としているような場合に適用されます。適用された場合、税務長官は納税者が得た税務上の便益を取り消す権限を持ちます。

Part IVAは税法上のほかの規定に優先し、さらに、税務長官がオーストラリアが各国と取り交わしている租税条約上の条項を一方的に無視することも可能としています。ただし、当該規定は最後の手段としての規定であり、税法の各制度上に含まれている特定の租税回避規定(例えば、キャピタル・ゲイン規定)を先に適用する必要があります。

現行規定上、Part IVAは以下の4つの要件が満たされる場合に適用があります。「税務上の便益」は概してスキームに参加していなければ課税所得に含まれていたであろう、または課税所得に含まれたであろうことが合理的に予想される金額(または、スキームに参加することによって損金として課税所得が減額された金額)と定義されます。また、税務上の便益は、キャピタル・ゲインやロス、外国税額控除、源泉税などからも発生します。重要なのは、税務上の便益の数量化の際に、納税者がスキームに参加しなかった場合に考えられる合理的な代替取引の検討を必要とすることです。

(1)「スキーム 」が存在する
(2) スキームに関連して税務上の便益(Tax Benefit)が得られた
(3) スキームを行った唯一、または最も顕著な目的は税務上の便益を得るためである
(4) 税務長官が一般租税回避規定の適用に必要な所定の手続きに従う

※「スキーム」は幅広く定義されており、あらゆる契約、取り決め、合意、約束、引き受けなどを含みます。

改正案の内容

今回の改正は、連邦政府および税務当局が現行規定に欠陥があるという認識を持ったことから始まりました。改正が発表された12年3月までの3年間に、税務当局はPart IVAに関わる税務訴訟12件のうち9件を敗訴しており、当時の副財務相であったマーク・アビブは以下のように述べました。

「近年の訴訟において、納税者により実際に行ったスキーム以外に課税が発生するような代替的取引は行われなかったであろうから『税務上の便益』は発生していないという抗弁が効果的に用いられていた。例えば、代替的取引は同じように租税回避を可能とするほかのスキームであったかもしれないし、あるいは取引を半永久的に保留もしくは何も行わなかったかもしれないという主張がある。」

改正案は、税務上の便益がどのように認識され対象スキームと関連付けられるか、上記に見られる現行規定上の欠点を是正しようとするものです。

ところが、提案されている法律上の改正は、場合によっては通常の商業取引をもPartIVAの範疇に取り込む可能性があります。これにより、納税者は各取引について、取引に参加した顕著な目的が税務上の便益を得るためではなかったことの証明が必要となることを意味します。

この問題は主に、改正規定に、納税者がスキームに参加しなかった場合の合理的な代替取引を検討する際には租税コストは無視しなければならないという新しい条件が導入されていることから生じています。

簡単な例を用いて説明しますと、納税者がある取引、または投資を行う際に2つの方法を検討しており、租税コストも含めたすべての商業的要素を考えた結果、租税コストの低い方法、またはステップを選択した場合、税務上の便益が発生する可能性があります。この場合にPart IVAの適用を防ぐためには、取引のすべてのステップが明確で立証可能な、顕著な商業目的を伴うものであることを示す必要があります。よって、現行規定上Part IVAの対象とならなかった多くの取引についても、今後はその顕著な商業的目的文書化に焦点を当てる必要があるかもしれません。

オーストラリア国内および世界的な多国籍企業への焦点

最近のGoogleやApple、Starbucksに関する報道に見られるような、多国籍企業による低税率国への利益移転の可能性に対する関心は、Part IVA改正に対し、さらなる推進力を与えていると考えられます。

世界各国の税務当局は特に大規模な多国籍企業による租税負担が必ずしも公平ではないのではないかという懸念を強めています。例えば経済協力開発機構(Organisation for Economic Cooperation and Development = OECD)は今年2月に、多国籍企業による課税ベースの侵食および利益移転(Base Erosion and Profit Shifting = BEPS)活動に関わる問題点をまとめたレポートを発表しており、その中で各国の国内法上の租税回避防止規定は緊急の処置が必要な主要分野であると挙げています。

また、オーストラリアでは財務省が当該問題に対する今後の政府の戦略の重要な根幹となる「多国籍企業による納税義務の最小限化への対応方法」に関する評価方法書を作成中であり、13年中ごろに公開される予定です。

企業への影響と対応策

上記の状況のもと、M&A取引、リストラ、さらには適切な税務上の構造を考慮した再融資取引などを検討している企業にとって、税務上のポジションを立証するための文書作成の重要性は今まで以上に増加します。実際の事象が起こった何年も後にリスク・レビューや税務調査などに選択されてから過去に遡って取引の各ステップについて商業的理由を見直し、文書化することは困難です。取引の起こった時点で必要な証拠の収集、区分を確実に行うような税務リスク管理プロセスを構築することが重要となります。

 

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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