オーストラリアにおける移転価格税制の重要な改正

税務&会計Review

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アーンスト・アンド・ヤング ディレクター
ジャパン・ビジネス・サービス 裕子カーンズ

オーストラリアにおける移転価格税制の重要な改正

2013年2月13日に発表された「移転価格税制改正法案」は、04年7月1日からの遡及適用が話題になった「Subdivision 815-A」に続く重要な移転価格税制改正の第2弾となります。新法案は、毎期税務申告書が提出される前に国外関連者取引についてその取引条件の妥当性が移転価格文書によって裏付けられていることを要求しており、多額のグループ間金融取引や大幅な事業再編のある法人、および継続的な欠損金、または低利益率を認識している法人にとって移転価格調整リスクへの対応の重要性を高めるものとなっています。今月号は、日系企業が高い関心を寄せている移転価格税制の改正について解説します。

はじめに

自己申告と文書化に関する重要な義務を導入するオーストラリアの「移転価格税制改正法案(Subdivision 815-B、C、D、および284-E)」が13年2月13日に公表されました。適用開始日は新規定のほぼすべてについて13年7月1日、または法案が発効した日のいずれか先に到来する日となっています。法案の発効は早々に起こることが予想されています。今月号では、改正法案の主要なポイントについて解説します。

法案の新規定により、法人のパブリック・オフィサー(*1)は、法人所得税申告書上記載される国外関連者取引に拘る課税所得が新しい移転価格規定に準拠して算定されていることを確認する責務を負うことになります。

オーストラリア税務当局(Australian Taxation Office、ATO)は、納税者が所得税申告書に不実、または誤解を生じさせる記載をした場合には「税法管理法(Tax Administration Act)」に基づき罰則を科すことが可能です。よって、納税者は今後これらの変更に備え、企業としての移転価格に関する方針や移転価格文書の整備が新規定に準じるものであるかを確認し、新規定に準拠する正しい開示が申告書上できるように対応する必要があります。

「Subdivision 815-B」の適用

(1)独立企業間取引条件(Arm’s length conditions)

法案は「実際の取引条件」を「独立企業間取引条件」に置き換える幅広い権限を税務当局に与えており、その意図はOECDガイドラインに「例外的な状況」として定められている税務当局の対応を可能とすることであると理解されています。
 独立企業間取引条件とは、同様の状況下で互いに完全に独立した取引を行う独立企業間に発生するであろう条件を指します。この条件の概念は幅広く解釈され、価格、粗利益率、純利益、当事者間の利益配分などを含む企業とその取引の経済実態に関連するあらゆる事柄を含みます。
 独立企業間取引条件が広範に定義されているということは、税務当局により「実際の取引条件」を「独立企業間取引条件」に置き換えることがより一般的になる可能性を意味します。
 納税者は、実際の取引条件が独立企業間取引条件に準じるものであるかを、機能分析や比較可能性などのあらゆる関連要因を考慮しながら、最も適切な算定方法(または一連の算定方法の組み合わせ)を用いて分析し、判断することが要求されます。
 また、過少資本税制との相互関係について「税務通達TR2010/7」に示された税務当局の見解を確認する規定が導入され、適切な利率を算定する際にも「独立企業間取引条件」を前提条件として適用することが求められています。

(2)移転価格の恩恵(Transfer pricing benefit)

「Subdivision 815-B」は、オーストラリア企業が、独立企業間取引条件と異なる実際の取引条件から移転価格の恩恵(欠損金の増額を含む課税所得の減少)を得た場合に適用され、独立企業間取引条件を用いて算出された課税所得への増額調整が必要となります。当該規定に基づいて課税所得を減額することはできません。
 移転価格の恩恵の有無の判断にあたっては、OECDガイドラインに沿うよう規定を解釈することが要求されていますが納税者が依拠すべき文献はOECDガイドラインに限定されず、今後OECD「ベース侵食と利益シフティング」(Base Erosion and Profit Shifting、BEPS)レポートなどが使われる可能性が懸念されます。
 税務当局が事実とは異なる取引条件に基づいて課税額調整を行う可能性は、納税者の納税債務について不確実性を生み、また相互協議の過程で問題となることが予想され、今後の議論が予想されます。

「Subdivision 815-C」─ 恒久的施設に関する独立企業間取引の原則

「Subdivision 815-C」は恒久的施設(Permanent Establishment、PE)を通じて事業運営する企業がオーストラリアで課税される利益が、PEが独立した企業であった場合に発生する利益よりも少なくならないようにすることを目的とし、インバウンドまたはアウトバウンドのPEを持つ企業に適用されます。

この新規定は、PE課税について同一企業間利益配分のアプローチを維持しながら、PEの適正な利益を算定する上ではPEを独立した企業として考えるべきであるとしています。オーストラリアの税制委員会(Board of Taxation)は現在、PEを別の法人格を有するものとするアプローチの採用を検討しており、当該委員会による見直しが規定の適用実務における確実性を高めることになると期待されます。

「Subdivision 284-E」─ 移転価格文書の保持義務

各課税年度の海外取引の「取引条件」について新規定に準拠した移転価格文書を維持していない納税者は、当該取引条件の妥当性について合理的に論証可能な見解(Reasonably Arguable Position)を持たないものとして扱われ、税務当局による移転価格調整があった場合、最低25%の罰金が科されます。

移転価格文書には以下の内容が含まれている必要があります。

 

・実際の取引条件と独立企業間取引条件
・取引条件の分析に採用された算定方法
・独立企業間取引条件の判別に適用した比較可能な取引
・移転価格による恩恵の定量化

毎期の申告において納税者に移転価格分析をどこまで実施することが求められるのかは定かではありませんが、移転価格調整による過少申告額が1万ドル未満、または課税年度に支払う法人所得税の1%未満の場合、行政罰則は科されないという少額免除規定(de minimis rules)が、移転価格分析作業の程度の指標となり得るかもしれません。

必要な対策

新規定上、パブリック・オフィサーが毎期の申告において、海外取引の所得が独立企業間取引条件に基づいて算定され、要件を満たす移転価格文書によって裏付けられていることを確認できるような社内の手続きや移転価格方針が必要となります。現状の社内手続きや方針が新規定上の移転価格リスクを管理するために不十分と思われる場合には、パブリック・オフィサーが申告書に署名する前に国外関連者取引の取引条件を検証し、その妥当性についての見解の確立および移転価格文書作成が完了しているよう対応するべきでしょう。

移転価格リスクと移転価格文書作成作業の最小限化対応策として税務当局との事前確認制度(Advance Pricing Arrangement、APA)の利用は効果的であると思われます。

また、以下のような状況にある納税者は特に事前の対応が重要となります。

 

・事業再編
・グループ間の金融取引
・継続的な低利益または損失

法令化に向けての最新の動向の把握や対応策の検討に当たっては、専門家にご相談されることをお勧めいたします。

 

*1 通常、法人を代表する者として税務当局に登録されている法人のCFOや部長クラス以上の税務責任者

 

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

コンタクト:

菊井隆正(ナショナル/アデレード)
(02)9248-5986
Email: takamasa.kikui@au.ey.com

 

裕子カーンズ(シドニー)
Tel: (02)9248-5518
Email: yuko.kearns@au.ey.com

 

寺岡洋一(メルボルン)
Tel: (03)9288-8686
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荒川尚子(ブリスベン)
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渡辺登二(パース)
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