ニュージーランドにおける新しい財務報告制度の枠組み

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング ディレクター
ジャパン・ビジネス・サービス
篠崎純也

著者プロフィル◎オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。
ニュージーランドにおける新しい財務報告制度の枠組み

オーストラリアの会社がニュージーランドに子会社または支店を設立して現地の事業を展開している企業が多く見られます。近隣国とはいえ、ニュージーランドは独自の法律や規制があるため、オーストラリアから同国の事業を管理する上で現地の法規制をきちんと把握することは重要です。今回はニュージーランドにおける財務報告制度の新しい枠組みについて、現地で活動する海外企業の子会社や支店への影響に焦点をあてて解説します。

ニュージーランドにおける新しい財務報告の枠組みを定めたFinancial ReportingAct 2013およびFinancial Reporting (Amendments to Other Enactments) は2013年12月に裁可されました。これにより、売り上げや資産の規模が小さいニュージーランド子会社および支店は監査および財務諸表作成の必要がなくなりました。また、監査や財務諸表の提出が引き続き求められる場合でも適用する財務報告のフレームワークが変わったため注意が必要です。

法定財務諸表の提出および監査義務に関する変更点

これまでオーストラリアや日本のような外国企業のニュージーランド子会社または支店は事業規模にかかわらず、原則的にニュージーランドで監査済み財務諸表の提出が求められてきました。また、現地の会社登記官(Registrar of Companies)に提出する財務諸表形態は、会社または支店に関する所有と経営の分離(Separation between Owners and Governing Body)があるか否か、あるいは会社または支店の事業規模によって採用する財務諸表形態が異なっていました。

今回の改正で、事業の規模がLarge(大規模)に該当しない子会社や支店は原則的に監査および財務諸表の作成・提出が必要なくなりました(Largeの定義は表を参照)。これにより90%以上のニュージーランド企業や外資企業の監査および財務諸表作成義務がなくなると見込まれ、多くの現地日系企業も現地でのコンプライアンス・コストが軽減されると予想されます。ただし、Largeに該当しない現地法人や支店はニュージーランド税務当局(Inland Revenue Department、IRD)が新たに規定した規則に従って税務上、決算書の作成が求められます。Largeの新しい定義は、外国資本の比率やニュージーランドの事業体が外国企業の子会社(subsidiary)または支店(branch)か否かなどによって異なります。

以下の表の通り、外国企業の子会社または支店の場合、過去2年の会計年度の期末時点において資産がNZD20M(2,000万ドル)または売上げNZD10M(1,000万ドル)以上の会社および支店がLargeと分類されます。

資産 売上げ 法定財務諸表の作成 法定監査 法定財務諸表の提出
海外資本0%~25%未満でSubsidiary(子会社)でないLarge会社 $60M以上

$30M以上 必要 必要*1 なし
海外資本が25%以上で、かつ子会社(Subsidiary)でないLarge会社(例えば関連会社) $60M以上 $30M以上 必要 必要*2 必要*2
海外企業のLarge子会社(Subsidiaries) $20M以上 $10M以上 必要 必要*2 必要
海外企業のLarge支店 $20M以上 $10M以上 必要 必要 必要

注意:過去2年の会計年度の期末時点において上記の資産・売上げ額を超えた場合Largeと見なされる
*1:議決権を保有する95%以上の株主総会決議により監査を見送ることが可能。但し、会社法や会社の約款で財務諸表の提出が求められる会社は監査が必要。またNZ国内の親会社が監査済み連結財務諸表を提出する場合は同親会社の100%子会社の監査及び提出は必要ない。
*2:NZ国内の親会社が監査済み連結財務諸表を提出する場合は同親会社の100%子会社の監査及び提出は必要ない。

支店に関する規定

改正後はLargeに分類される支店のみ支店単体の監査済み財務諸表の提出が必要となります。支店がLargeに該当しないが海外の本社(企業)がLargeの場合は、海外本社の監査済み連結財務諸表の提出のみが必要となります。支店、海外本社ともLargeに該当しない場合は財務諸表の作成・提出また監査の必要がなくなります。

新しい会計基準の枠組み

今回の改正でニュージーランド事業体に対する会計基準の枠組みも改正されました。改正前は、営利事業体(For-profit entities)については原則的にNZ版IFRSの全面適用、また中小企業(多くの日系企業の現地法人や支店も含む)に対しては同IFRSの開示規定や測定・認識規定を一部省略したDifferential Reportingと呼ばれるNZ独自の会計基準を適用することができました。改正後の会計基準の枠組みでは、Differential Reportingが廃止され、フルバージョンのNZ版IFRSおよびNZ版IFRSの開示項目が簡素化されたReduced Disclosure Requirements (RDR)の2層構造(Tier)となり、企業は公的説明責任を負うか否かによってNZ版IFRSの強制適用またはRDRの選択が可能となります。

改正後の会計基準の枠組み

 Tier 1:公的説明責任を有する企業 → NZ版IFRSを適用
 Tier 2:その他の営利企業 → Reduced Disclosure Requirement(RDR)を選択可能
(公的説明責任を有する企業とは上場企業のように公開市場に株式や債権を発行して資金を調達する事業体、また金融機関のように通常の事業の一部として受託者(fiduciary capacity)の立場から資産を保有する事業体を指します。必ずしも企業の規模によらず「公的説明責任」という、いわば質的な基準に基づいて区分されます。)

これまでNZ版IFRSを全面適用していた企業の中で、公的説明責任がないと判断される会社は開示項目が簡素化されているRDRに移行することが可能となります。一方、これまで日系企業の現地法人のようにDifferential Reportingを採用し、改正後も監査済み財務諸表の提出が必要な企業は、RDRまたはフルバージョンのNZ版IFRSへの移行が求められます。なおオーストラリアでも既にRDRが導入されておりNZのRDRとほぼ整合性がとれているため、今回の改正により両国の会計基準の枠組みが調和化されます。なお、オーストラリアでは多くの非公開企業が採用している特別目的財務報告書(Special Purpose Financial Statement)は当面の間廃止される予定はありませんので、実務負担が比較的低い同財務諸表形態を継続して採用する企業も多いと予想されます。

RDRでは開示規定が一部省略できるもののDifferential Reportingで可能であったようにIFRSの認識・測定規定の一部(キャッシュ・フロー・ステートメントや繰延税金資産・負債など)を省略することはできなくなります。ただ、これまでNZ子会社をオーストラリア親会社へ連結する際に、同親会社の会計方針に沿ってNZ単体では認識されなかった繰延税金資産・負債を連結決算では認識していた会社は、今回の変更により親子間の会計基準がほぼ標準化され業務効率性の改善が期待されます。なお、Differential ReportingからRDRへの移行初年度はIFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用(First-time Adoption of International Financial Reporting Standards)」に準拠することが求められます。

適用開始時期

ニュージーランドの新しい枠組みは2014年4月1日以後に開始する会計年度より適用されます。つまり、12月決算の場合は2015年1月1日から開始する年度、3月決算の場合は2014年4月1日から開始する年度より適用されます。Differential Reportingの適用は1年延長が可能となり(2015年4月1日以降廃止)、12月決算の会社は2015年12月期から、3月決算は2016年3月期からRDRへの移行が必要となります。

ニュージーランドに所在する多くの日系企業も今回の改正による影響を受けることになり、財務報告制度の変更への対応を早期に実施することが望まれます。なお本記事は現地法人・支店に焦点を当てて一般的な情報を提供しましたが、特定の事業体(例えば非営利事業や金融機関など)に対しては異なった規定が適用されますので、事前に専門家に相談することをお勧めします。

 

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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(02)9248-5986
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