最前線、アセアン市場と日本企業の動向

税務&会計Review

 

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アーンスト・アンド・ヤング ジャパン・ビジネス・サービス
アジア太平洋地域統括/菊井隆正

★著者プロフィル=アジア・パシフィックおよびオセアニア地域日系企業担当部門代表。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供することで、オセアニアで活躍する日系企業に貢献できるよう努めている。
最前線、アセアン市場と日本企業の動向

オーストラリアの隣国で形成されており密接な関係のあるアセアン諸国。オーストラリアの日本企業においても、シンガポールの地域統括会社へレポーティングをする企業が増えてきてます。また、本社の海外事業の管理体制をアジア・オセアニアという括りで行っている日本企業が目立っています。今月は新年号ということもあり、オーストラリアの枠を超えて、日本企業と関係が深いアセアン地域における日本企業の動向に焦点を当ててみたいと思います。

アセアン市場

アセアンは、10カ国*1から形成されており、その様子はさまざまです。シンガポールは人口がわずか540万人という小国ではありますが、1人当たりのGDP(名目)は5万5,000米ドルと、日本を上回っています。インドネシアは2億4,795万人という世界第4位の人口を擁しています。また、将来の製造拠点として魅力的なミャンマー(ヤンゴン)やカンボジア(プノンペン)といった都市圏でも、一般工の年間労働賃金はわずか600~900米ドルです。アセアンは、人口、経済規模、さらに宗教文化の面から見ても、さまざまな性格を持った経済圏であるといえます。

このアセアン経済圏は、中国の経済規模と比べると名目GDPはまだ4分の1程度、人口は中国の約半分の6億1,000万人ですが、メリルリンチの調査によると2012年には「アセアン5」、すなわちインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国における海外直接投資額の合計は1,284億米ドルで、中国を初めて上回りました。このような経済規模の拡大は統計数値に表れています。

日本の海外直接投資

中国、香港、台湾 ASEAN5プラスベトナム
2010 62 45
2011 75 81
2012 63 74
2013 49 95

図1 出典:日本のアウトバウンドM&A件数 – レプコ2010-2013

 


図2 出典:JETRO日本の国・地域別対外直接投資

このように活発に経済規模を拡張しているアセアンですが、まずは統計上から日本の投資を見てみます。図1は日本の中国とアセアン5プラスベトナムへのアウトバウンドのM&A件数の比較、図2は中国とアセアン5への海外直接投資の統計です。日本の中国への投資が横ばいもしくは、下降気味であるのに対して、特に2010年を機に日本のアセアンへの投資が加速しています。(図2の2012年のアセアンの減額はタイが前年度より90%以上下落したものにより、これは2011年10月に起こった洪水の影響と見られます)

中国の伸び率が上がらない理由として、中国の成長率が鈍化し人件費の上昇などにより、日本の投資がアジアにシフトしているというのが一般的な見方です。また、日中の領土問題という政治的な関係も影響しているのではないでしょうか。

このように、直接投資がアセアンにシフトしている中、日本企業はどのように動いているのでしょうか。実際に市場の最前線に立っている方々に意見を伺うと、そこには加速して成長するアセアン市場において、諸外国との競争に勝つためのビジネス・モデルを探求し、その糸口を見つけだそうとしている様子が感じ取れます。

日本企業の動向

従来からアジア地域統括会社として、香港と並び名前が挙がるシンガポールですが、ここに来て再び脚光を浴びています。さらにマレーシアやタイを統括会社の拠点に置く企業も見受けられます。アセアン市場の中では日系企業進出の成熟度が高いタイにおいては、日本企業のM&Aブームが起きています。一方、エマージング・マーケットとして関心が高まるミャンマー。ここ数年日本の製造業進出ラッシュが続く一方、毎年10~30%の労働賃金が上昇し輸送インフラが追いついていけないインドネシア。その他に、アジア製造拠点の分散化を図るために、日本企業の進出が再び注目を浴びているベトナム、フィリピンも日系企業進出の地域です。

こういった中、アセアンの多くの国では、成長を持続するために電力、輸送インフラなど、早急なインフラ整備が不可避です。また、天然資源の権益確保、さらに物流から販売・消費までの生活物資において、活発なM&Aが展開されています。

地場企業、外国企業との競合からビジネスを獲得していくためには、現地での強いネットワークを確立し、かつ、迅速な意思決定が要求されています。プロジェクトの入札や企業買収に際しては、対外交渉と同時に社内での根回し交渉が必要ですが、本社を説得するには時間を要します。「現場では、目の前で起こっている状況を肌では感じるが、日本の本社にはその声がそのまま届かない」と言ったことをよく聞きます。これは現場と意思決定をする場所に距離があるために生じるのかもしれません。このような状況を踏まえると、事業内容にもよりますが、アセアン市場での競争優位を確保しビジネスを加速するためには、実質的な統括機能の再構築が1つの鍵となります。

アジアの激変する環境に対応するために、「統括」という枠組みの中に、営業部門、事業部門の取り組みが試みられています。従来は、税務上のメリットを享受するために、利益還元の流れと経理の報告を統括会社経由で、営業部門、事業部門の管理は現地子会社と直接本社が行う体制が比較的多く見られました。ところが、最近では本社から役員クラスを派遣し、現場を肌で感じながら広範な決定権を地域内でもつという体制が、一部の業界で始まっています。

また、こういった事業展開を支えるためにも、ガバナンスの強化の動きが出始めています。地域内での内部統制をはじめ、システムの統一化、人事、法務、税務などの管理・監督を統括会社がおこなう企業も見受けられます。

日本企業は以前からアセアンへの投資を活発に行ってきました。長い関係を築いてきたODA(Official Development Assistances)の歴史に対し、昨今のアジア諸国では短期的利益に重きが置かれ、日本からの海外直接投資は以前ほど重宝されなくなってきたように思えます。

しかし、市場では日本企業を歓迎する風土は今なお健在です。その理由として、アセアンへの投資が急上昇している中国の例が挙げられます。中国投資が浸透している諸国においては、中国投資への過度の依存に対する不安から、中国と友好な関係を保ちつつも、日本からの投資を増やしバランスを取りたいという期待感があります。一方で、ヨーロッパ、アメリカ、中国、さらには韓国からの参入に対し、日本企業は従来の投資のパラダイム・シフトを余儀なくされる場合もあるでしょう。その流れをいち早く肌で感じ、市場に合うモデル作りができる企業が、5~6年後のアセアンのリーダーシップをとるのではないでしょうか。アセアン市場の基盤が整ってからの行動では遅い、まさに今がその時だと思います。

 

*1 シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオスから形成されている。

 

ジャパン・ビジネス・サービス・ウェブサイト
ey.com/au/en/JapanBusinessServices

 

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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